飲食店で働く、を変える。二甲、横目、喫酒オルタナを仕掛けてきた前田貴紀さんが伝えたい、残したい、変化していくことの強さ。
『二甲料理店』は僕と東田の発表会の場だったから、そんなに長く続けるのもアレかなと思って。3年を1つの区切りとして考えてたんです。
独立して最初にオープンしたのが『二甲料理店』になりますが、まずはその辺りのことから聞かせてもらえれば。
30歳でオペファクを退職して、そこから物件探しやお店のコンセプトづくり、資金調達などのなんやかんやの準備で、オープンするまで1年弱くらいかかりましたね。あんまりガヤガヤしてる場所は嫌だったので、最初は谷町界隈とかで探してて、新町は完全に圏外だったんです。でも、ミナミの中心地から近くて利便性も高いし、住んでる人も多い。意外といいかなと思って出店候補エリアに追加したら、すぐ紹介されたのがあの場所。奥まった立地だからずっと空いてたみたいなんです。それで内見して、即決しました。
1階の店舗ですが、看板なかったら見つけられない立地ですよね。
逆にそのよくわからん感じがいいなと。普通にマンションに入っていくようなアプローチだし。当時の飲み屋は間口が広くてガラス張りで、ネオンサインがあって、暖簾がかかっててとか、どこも似てたからおもんなくてね。天邪鬼なタイプなんで、逆に路地裏みたいな方がグッときたんです。「知ってるとこあんねんけど、行こうや!」って女の子を誘える感じの、何年か前に流行ったような立地やけど、今ならまたイケると思って。
お忍び感もあるし、通りからお店へのあのアプローチがまた、そそります。でも、オープンしたのってコロナ真っ盛りのタイミングだったような。
2020年4月オープンなので、自粛のタイミングと思いっきり被ってます(笑)
ですよね…。いきなり出鼻をくじかれる感じ。
準備してる最中に武漢からウィルスが出たって報道されてたけど、まさかこんな大変なことになるとは思ってなくて。でも、今となっては逆によかったんです。無名の2人が自粛のタイミングにオープンして、興味はあるけど行けない。その気持ちが募ってたから、再開した時に予約が一気に入ってきて、ほんまは2人でやるつもりやったけど無理やなと。アルバイトを急遽雇い、なんとか営業してましたね。
お店の雰囲気もロケーションもいいし、立ってる2人もパンチあるし(笑)、名物料理のビシャカツのインパクトもある。そりゃみんな気になってたと思います。
東田は北イタリア料理がメインのレストランで働いてて、腕は確かだし、めちゃ勉強熱心なんです。客単価1〜2万円のレストランで働いてる彼を客単価5000円位に落とすことになるんですが、料理のクオリティとしては2万円のものを出すことは可能だと思ってました。だから、なおさら東田と一緒に始めたかったんです。料理人ってプライドが高くて、変わることを拒む人が多いけど、彼はそうじゃない。柔軟だし、お店のコンセプトもわかってくれてるから、僕が突拍子もないことを言っても、おもしろがってカタチにしてくれる。それで生まれたのが、ビシャカツなんですよ。
全幅の信頼ですね。ちなみに『二甲料理店』という名前の由来は?
お店は、僕と東田の発表会の場と考えてたので、“二”は2人を意味してます。あとは縁起のいい言葉を入れようと思ってて、例えば鶴とか。でも、鶴にしたら二鶴師匠になってまうからやめました。で、いろいろ言葉をリストアップして、そこからグッとくるもので検索しても引っかからなかったのが、“二甲”。料理店と名付けたのにも理由があって、東田の料理をしっかり楽しんでほしかったし、彼のやってきたことをちゃんと発表できるようにしたかったからなんです。
めちゃええ話ですね。信頼してるからこそだと思いますが、そこに愛があるし、東田さんという1人の料理人のことをちゃんと考えてる。
それもありますし、僕らのスタイルも含めていいギャップも生まれますからね。『二甲料理店』というハードルが上がるような名前やのに、中に入ったらロン毛の2人がいるし、でも当たり前のことをちゃんとしてて料理もうまくて、ジャパニーズヒップホップの音楽が流れてる。いい意味での裏切りをつくりたかったんですよ。僕らとしてもそこに共感できる人がターゲットで、共感できない方は他のお店へどうぞっていう感じで。「音楽のボリューム下げてください」と言われても、「下げれません。これがうちのお店のスタイルなので」ってね(笑)
自分たちのスタイルをちゃんと突き通せるだけのことをやってるからこそ、できることだと思います。2店舗目となる『横目』の話を聞く前に、ちょっと前後するんですが、『二甲料理店』をクローズして2023年6月に『喫酒オルタナ』がオープンしました。人気のお店だったので「なんで?」と思ってる人も多いと思います。インスタとかでも発信されてましたが、当初から3年で幕を閉じるつもりだったんですか?
口外はしてなかったけど、僕らの発表会をそんなに長く続けるのもアレかなと思ってて、3年を1つの区切りとして当初から考えてました。『喫酒オルタナ』はプロデュースという形態で始めさせてもらってるんですが、そのきっかけが『そばよし』代表の千春さんとの出会い。2店舗目の『横目』で出会って、そこからすごくお世話にもなり、僕らに興味をもってもらえたんです。千春さん自身が新しいことにチャレンジしていくスタイルの方で、3年前は3年後がどうなってるかわからんかったけど、次にチャレンジする力を蓄える期間としては3年なのかなと。
人気だった故に、引き際として華麗すぎます。
でも、世の中の変化も多少は影響してるんですよ。物価の高騰とかもそう。オープン時は2000円だったビシャカツも、物価の高騰で2500円にしても原価ギリギリ。「さすがに3000円は無理やろ?ここはガマンするしかないな」という状態でもあったから、僕らも引き際として踏ん切りをつけることができたんです。
なるほど…。お店でいろいろ工夫したとしても、物価の高騰は個人でどうこうできる話じゃないですもんね。
あとは、やっぱり次のチャレンジがしたかったからだと思います。『喫酒オルタナ』は蕎麦を軸にいろんな料理を展開してるんですが、蕎麦という商材は好きだから「こんなメニューはいいね」というアイデアは出るけど、知識やノウハウは僕も東田もまだまだ。そうやって新しい領域にチャレンジしていくことで成長できるし、プロデュースが成功すればまた新しい話も舞い込んでくるだろうし。
先ほど「変われる人間が一番強い」と言ってましたけど、チャレンジって変化だし、そこには必ず進化がある。まさにその言葉を実践してる感じがします。『喫酒オルタナ』としては、経営母体が『そばよし』さんで、前田さんたちが業務委託でプロデュースしてるってことですよね?
そうですね。理念もしっかりとした会社で共感できますし、何より千春さんの人柄と考え方にグッときて、一緒に始めさせてもらいました。オープンしてまだ3ヶ月ですが、必ず成功させたいと思ってます。
これからがさらに楽しみです!で、時間軸を戻して2店舗目の『横目』の話も聞かせてください。2021年10月にオープンしましたが、同じ新町に出したのには理由があったんですか?
『二甲料理店』で新町のことを詳しく知るようになって感じたのは、この街でぶらぶら飲み歩く人って少ないなと。タクシーで新町に来て、2軒目は別のお店にタクシーで移動する人がけっこういたので、新町で回遊する人を増やしたかったんです。なおかつ僕らのカルチャーを好いてくれる人はあんまり新町に来なかったから、その人たちをもっと呼びたかった。『横目』を起点に回遊するお客さんが増えれば、僕らも周りのお店もうれしいし、新しい層が街を知ることで新町の活性化にも繋がる。そういう場所になればと思い、『横目』をオープンしたんです。
人を見て、お店を見て、街も見てる。学生時代からお店を分析してた話は聞きましたが、そこに人を呼び込む・巻き込む力が養われてきたから、新町の人の流れも実際変わりましたもんね。それに、『横目』っていう名前もいいなと。
いろいろ考えた中で、“横目”って言葉は立ち飲みの醍醐味を表してるなと。誰かと一緒に来たらちょっと横めに立つし、隣の料理を横目で見たり、スタッフのことも直視するってよりかは横目で見るしね。しかも普段でも使うような言葉だから、しっくりくると思ったんです。
確かに、全部当てはまる。
それに『横目』は、『二甲料理店』よりフレキブルに動ける店にしたかったので、興味あるイベントに呼ばれたら参戦するし、お店でイベントすることもちょくちょくあるんです。そんな時は、『横目』が“白目”になったり、“色目”になったり、“赤目”になったりする。いろんな遊びができて、『横目』からの派生だとわかるから、いい名前だなって僕らも実感してます(笑)
前田 貴紀
1988年福岡県生まれ。株式会社等白 代表。2020年4月に新町に『二甲料理店』、2021年10月に『お料理 横目』をオープン。2023年6月に『二甲料理店』の幕を閉じて、初のプロデュース店舗となる『喫酒オルタナ』を手がける。趣味は何も考えずに映画を観ることと、増え続けているガラクタ集めで、古物商の免許を取ることも目論み中。好きなお酒は、学生時代から愛飲し続けているハイリキ。
https://www.touhakuinc.com/
お料理 横目:Instagram@oryori_yokome
喫酒オルタナ:Instagram@kissa_alterna
二甲立食店:Instagram@nikoh_risshokuten