【私的録-MY PRIVATE SIDE】 “妖怪のなんでも屋”こと河野隼也さんと、この世とあの世のあわいをめぐる京都散策。
百鬼夜行のその先へ、広がり続ける妖怪文化とこれから。

ではここからは、アトリエで伺ったインタビューをお届けします。アトリエは立命館大学衣笠キャンパスや金閣寺にもほど近い、閑静なエリア。妖怪の面の制作や、執筆の拠点とされています。
このたび新刊が出版されたということですが、まだお手元には…?
届いてないんですよ。Amazonではもう発送が始まってるらしいんですけど。
著者のもとにもまだ届いてないんですね。では、本のお話は後ほど伺うとして、前回のインタビューは2024年でしたが、それからどんな変化がありましたか?
その年の4月に大将軍商店街で『一条百鬼夜行』とモノノケ市を開催して大盛況だったんですが、商店街に入れない人が外まであふれてしまって。ちょっと安全面の確保が難しい規模になってしまったんですよ。その間に、商店街も高齢化などで解散という形になり、これは続けるのが厳しいなということで、今はいったん休止してます。

2024年の開催を最後に、まだ再開はされていないんですね。
ただ、一条通にお店自体はすごく増えてるんですよ。だから、そういうところに声をかけて、またやりたいなとは思ってます。最近は学生団体とかが関わってくれてるので、再び学生たちの力で、地域で妖怪をやっていくことができたらいいなと思ってますね。
もともと河野さんも学生時代に関わったのがきっかけですよね?
そうなんです。だから、やっぱり京都の百鬼夜行は学生を主体に続いてほしいという気持ちがあって。今は僕が教えていた大学の学生や卒業生のほかに、アトリエの近くにある立命館大学の学生もかかわってくれるようになって。学生たちで百鬼夜行のグループを作って開催できないかなというのは考えています。

前回の取材時はまだ大学で教えておられましたが、今お仕事は妖怪一本ですか?
そうですね、妖怪のほうがあまりにも忙しくなってしまって。先生をしながら妖怪の仕事をするとなると、誰か他の人に任せなあかんのですけど、「なんで自分が一番やりたい仕事を人に任せて、自分は別の仕事をやってるんや」と気づいて。「やめよう、これを本業にしよう」と決めました。
妖怪を本業にされてから、新たに始められたことはありますか?
メーテレで『妖怪とあそぶ』というバラエティ番組が始まって、レギュラー出演させてもらってます。相方に、はおまりこさんという方がおられて、東京でデザイナーをやりながら怪談師もされている方なんですけど。はおさんが制作されてる『BeːinG』という怪談や妖怪を扱う雑誌をきっかけに番組の企画が始まって、はおさんが僕を相方に選んでくれたんです。シーズン2からは東京ホテイソンのたけるさんも加わっていただいています。ただ妖怪が好きというだけでやってきましたから、人気芸人さんとご一緒させていただいているのが不思議な感じがします。番組はシーズン4まで続いていて、来週は岩手県の遠野にロケに行きます。
テレビのレギュラー番組!すごいですね。
「あれ見ました」って言ってくれる人はけっこう多くて、イベントとかに呼んでもらえる機会も増えました。

今回の新しい書籍は、どういった経緯で出されることになったんですか?
以前取材を受けたインタビュアーの方が、「これまでやったことを本にしませんか?」と声をかけてくださって。講演会に呼ばれるたびに「今日は何喋ろう」と毎回考えていたので、一冊にまとめれば、それを見ながら話せるからちょうどいいなと思って書きました。
お忙しいなか、執筆されるのは大変だったのでは…
半年ほどかかりましたが、実はもう一冊、共著で本を出す予定で。荒木家妖怪絵巻という、何年か前に『開運!なんでも鑑定団』に出て有名になった新種の妖怪絵巻があるんです。福岡県のお宅で見つかったものなんですけど、有識者4人でそれぞれ専門の分野から解説していく本で。安請け合いで「いいですよ」って引き受けたんですけど、僕の今までの妖怪知識がほぼ役に立たないレベルで新種ばっかりやったんですよ。
河野さんでも見たことがない妖怪ばかり?
怪談の専門家とか生物学や恐竜の専門家と一緒に、「これに似たUMAがいます」とか「生物の観点から言うとこれの正体は〇〇じゃないか」とか分析しながら書いて。妖怪の世界の奥深さを再認識した仕事でしたね。

まだまだ新種がいるんですね。本を書かれたことで、何か新しい発見や気づきはありましたか?
書くことは向いてるかも、と思いました。コツコツ作っていくのが好きなので、文章を書く作業は合ってるなって思いました。今回出した単著でも、妖怪のお面を一体一体解説していく章があるんです。「こういうコンセプトで作って、元はこういうお話があって、ここを工夫しました」みたいなことって、今までは全部自分の頭の中だけで完結して作ってたんですよ。それをちゃんと文章で残していくのがすごく楽しくて。自分の中で気づいていなかったことも、言語化することでちゃんと形になるっていうのはありますよね。
執筆や講演、テレビ出演などもある中で、今もさまざまなイベントに携わっておられますが、妖怪イベント自体も増えているのでしょうか。
コロナ後ですね。みんながイベントに飢えていた時期に一気に増えて、それが衰えずにまだ続いてる感じです。最近は全国のいろんなところで百鬼夜行をやってるんですよ。僕が関わってるものも関わってないものも含めて。

なぜそれほど人気が高まっているんでしょうか。
いわゆる「競技人口」が増えたんだと思います。同じようなことをやりたい人が「どこに声をかけたらできるんだろう?」って探して声をかけてくれるようになった。裾野が広がったんですよね。これまで妖怪好きの人たちって発散のしようがなかったんですよ。せいぜい本を読むくらいで。それが、自分で仮装して妖怪になって出るとか、グッズを作って『モノノケ市』みたいなマルシェで販売するとか、アピールできる場ができた。とりあえず妖怪をテーマに何か作って発表する場が増えて、「うっすら好きだった人たち」が引っかかる場所が増えたんだと思います。
潜在的な妖怪ファンが表に出てきて、プレイヤーが増えたんですね。
そうですね。それと、世間の動向を見ると、うちのイベントの集客がどんどん増えていくのと、スマホで写真撮ってSNSに投稿するっていう流行りが完全に重なってるんですよ。あと、京都にインバウンドの人たちが増えるタイミングともリンクしていて。わりと世の中の流れと一緒に動いてるなっていうのはありますね。唯一、世間のブームと関係なかったのは『妖怪ウォッチ』の時くらいです。
妖怪ウォッチは関係なかったんですね(笑)。海外からの反響もかなり多いんですか?
『一条百鬼夜行』の時もそうでしたが、インバウンドの需要は本当に大きいですね。最近も外国人の方からの連絡が多くて、インスタでモンスターを作っているドイツ人のアーティストからDMが来て、うちを訪ねて来たり。アメリカで妖怪を研究している人から、京都にいるので会いたいと連絡が来たこともあります。台湾で妖怪行列をやったり、韓国のトッケビ学会というところに招かれたり。イタリアの出版社が出す、日本の妖怪カードゲームの監修をやりました。

めちゃくちゃグローバルに活躍されてますね。海外の皆さんは、河野さんをどこで知るんでしょう?
海外のインフルエンサーの投稿がすごい勢いで広がってると思うんですよ。僕らが把握してないところで、すごく海外の人に知ってもらってるみたいで。そうでないと、僕らの発信に対して反応の割合が合わないので。
なぜそこまで海外の人たちの心を捉えるんでしょうね?
今回の出版のために、日本人と海外の人を対象に「妖怪意識調査」というアンケートをとったんですよ。その結果、日本人は妖怪がかわいい女の子の姿で描かれることにも比較的寛容ですが、海外ではそうした表現に抵抗を感じる人が多かったんです。海外のほうが保守的なんですよ。「昔からある土着のデザインを好んでいるのに、日本人は全然わかってない!」っていう意見もあって。妖怪ウォッチが海外であんまり受けないのもそういうことなんですよね。

海外ファンの方が伝統を守ろうとしている?
海外の人はアニメ・漫画だけじゃなくて、文芸作品やゲーム、あるいは小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)から入ってくる人が多いんです。小泉八雲って英語圏の教科書に普通に載ってるらしくて、そこから興味を持つので、伝統的なフォルムへの愛着が強いみたいですね。対して日本は、大半がアニメや漫画で、その中で水木しげる先生の占める割合が高い。鬼太郎はその時代に合わせた設定やキャラクターデザインで何度も放送されてるので、日本人は変化に寛容なのかもしれないですね。
面白いですね。本当にお忙しい中だと思いますが、これからやってみたいことはありますか?
webサイトもちゃんとしたいし、デザインのストックがたくさんあるのでECサイトを整備してグッズを販売したいですね。あと、YouTubeでお面の作り方を公開していて、子供たちが真似して作ってイベントに被ってきてくれるのがめちゃくちゃ嬉しいんですよ。だから本格的に、「子供お面作り教室」みたいなのをどこかでやりたいですね。それと、今あるお面をズラッと並べて、東京で作品展やギャラリー展示をやれないか出版社に相談しているところです。


最後に、これからの日本の妖怪文化はどうなっていくと思いますか?
妖怪の仮装行列とかが増えていて、妖怪の装いをする人が増えているんですよ。でもなんとなく「妖怪コスプレ」とか「妖怪仮装」がしっくりこなくて、各々が妖怪の装束をまとうことを指す、妖装(ようそう)という言葉を作ったんです。本の中でも使ってるんですけど、これを流行らせたいなと思っていて。
妖装、すごく響きがかっこいいですね。耽美的な雰囲気もあって。
妖装が妖怪文化の新しいカルチャーとして定着して、例えば美しい、かっこいい妖装がSNSとかでたくさん見られるようになったら、妖怪のイメージが変わるかもしれないですよね。「不気味でちょっと滑稽で怖いもの」から「スタイリッシュで美しく、かっこいいもの」へ変化していく可能性があると思うんです。僕は相変わらずこの作り方でやっていくんですけど、そういう新しいものが出てくると面白いことになるかなと。
海外にも妖装ブームが広がったら、もっと装いのバリエーションが増えるかもしれないですね。
いや、でも海外の人は妖怪に関して保守的ですから。そうすると面白いことに、日本人は「洗練されたかっこいい妖怪」を想像するようになって、逆に海外のファンの方が「昔ながらの伝統的な泥臭い妖怪」を愛し続けるという、イメージの逆転や乖離が起きるかもしれない。それは僕もコントロールできない部分だからこそ、これからの10年で妖怪文化がどう化けていくのか、楽しみにしています。

河野 隼也
1982年、京都市伏見区生まれ。妖怪文化研究家、妖怪造形家、百鬼夜行クリエイター。妖怪芸術団体「百妖箱」主宰。水木しげるの幼少期を描いたドラマ『のんのんばあとオレ』をきっかけに、妖怪の世界に魅了される。大学では妖怪を観光資源とした町おこし企画などを研究。観光×妖怪を軸に、京都を拠点に国内外で妖怪をテーマにしたイベントの企画や創作活動を展開。「一条百鬼夜行」「モノノケ市」「嵐電妖怪電車」「三井寺妖怪ナイト」「伏見妖怪酒祭」「怪々YOKAI祭」など、数多くの妖怪イベントを手がけるほか、テレビ番組『妖怪とあそぶ』にレギュラー出演。著書に『きみのとなりにいるリアル妖怪図鑑』(西東社)などがある。