【ぼくらのアメ村エトセトラ vol.6】 <CMK>のJOEとCASPERが描いてきた、これからのアートシーンに痕跡を残す、想いと覚悟があるグラフィティアート。


グラフィティをゲリラ的に壁に描いて、走って逃げるのもアドレナリンが出て楽しいけど、人に感謝されて好きなものを描ける方が僕の性には合ってた。

続いてはCASPERさんにお話を伺っていきたいと思います。CASPERさんがグラフィティと出会ったのはいつ頃だったんでしょうか?

グラフィティを初めて見たのは14歳くらいの時でしたね。スケボーが流行ってて、確か雑誌のFineとかで見たのが最初。当時はサンテレビでMTVも放送されてたのでよく見てましたし、そこでヒップホップにも興味を持つようになって。

スケボー、ヒップホップという流れがあったんですね。

純粋に「あ、かっこいい!」と思ったんですが、なかなか得られる情報も少なかったので、見よう見まねでステッカーを作ったりしてましたね。

でも、その頃から何かしらの表現というか、アウトプットのアクションは起こしてたと。

遊びの延⻑ですけどね。豊中市の庄内が地元で、そもそもグラフィティとは無縁のような場所でしたが、高校生の時に通ってたグラフィティショップが堀江にあって、そこでいろいろ教わりましたね。

そこからグラフィティの世界にどっぷりと入っていくんですね。

高校は定時制だったので、21時に終わってからアメ村に出て、グラフィティを描きに行ったりもしてましたね。初めて描いたのは庄内駅の裏路地なんですが、そこには自分の壁を育ててました。

最初の作品はタグですか?

そうですね、本名でISSEIって描きました。でも、落書きも全然なかったし、そこまで取り締まりも厳しくなかったんですが、さすがに本名で残してると地元やからバレるなと(笑)

それでCASPERというタグネームをつけたんですか?

いいえ、CASPERと名乗るようになったのは21歳くらいからですね。それまではISSEIで活動してました。

ちなみにCASPERの由来は?

アルファベットで描きやすい文字をピックして組み合わせたんですが、僕が元々オカルト系も好きでしたし、ポップさも欲しかったのでCASPERにしたんです。でも、よくある名前なんで、今考えるともっと違うのにしたらよかったなって思いますけど(笑)

似合ってると言うとおかしいかもしれませんが、スタイルともマッチしてる気がしますし、CASPERと言えばCASPERさんかなと思います。ちょっと話が前後しましたが、高校生の頃から自分の壁を作って描き始めて、そこから本格的にこの世界で生きていこうと思ったのは何かきっかけがあったんですか?

バイトしながら好きなように描いてたんですが、もうバイトはしたくないなと思ってたんです。それくらいのタイミングでJOEたちと<CMK>を立ち上げることになり、仕事としてやっていこう、グラフィティで食っていこうってことになって。確か1997年だったかな。その頃には僕もCASPERと名乗ってたと思います。

JOEさんとの出会いは?

記憶は曖昧なんですが、堀江のグラフィティショップで紹介してもらった気がします。JOEもよく来てたショップだったので。そこからJOEが育ててた壁とかにも一緒に描かせてもらうようになり、今に至る関係が始まりましたね。

グラフィティを仕事にして食っていくのは、決して簡単ではなかったと思いますが、実際のところどうでしたか?

最初は描かせてもらって、ギャラはスプレー缶って感じでしたね。すぐに食えたわけじゃないですが、仕事に繋がるのがとにかく楽しかった。ゲリラで壁に描いて、走って逃げるのもアドレナリンが出て楽しいけど、人に感謝されて好きなものを描ける方が性に合ってたんだと思います。

作品を描く、伝えるという部分で、新たな喜びを知ったと。CASPERさんの作品と言え ば、CASPちゃんが象徴的な存在としてありますが、その作風が生まれた背景についても教えてください!

元々キャラクターが好きで、日本でも先人の方々がたくさん描かれていましたが、自分のオリジナルを作りたいと思ったのがスタートです。僕もいろんな方の影響は受けてますけど、パクリにはならないように今でも変化しながら描き続けてますね。CASPちゃんの最初も口だけでしたし、そこから目を加えるようになり、その目も最近はまた大きくなってる。まだまだ発展の途中かなと。

変化でもあり進化でもありますし、そこにはCASPERさんの内面的な変化も現れてるんですかね?

そうかもしれませんね。口だけの時は何か言いたいことがあったんだろうし、目が大きくなっているのもインプットが多いのか、何かを見てる裏返しなのかもしれない。20代の時は僕も尖ってたから、CASPちゃんの口には牙もあったんです。今は怒ることもそうないので、自然と牙も描かなくなったんでしょうね。作品は自分の分身でもあるので、潜在的な部分はやっぱり出ると思います。

その変化と進化の裏側は、めちゃおもしろいですね。アーカイヴ展とかも観たくなります!CASPERさんが作品を描く際に、最も重要視してる部分も聞かせてもらえればと。

曲線と直線ですね。そこは絶対的にキレイに描かないと気が済まないですし、曲線と直線からの流れを気持ちよく見せたい。そこが自分の作品のこだわりでもあります。

JOEさんも、CASPERさんの筆捌きと缶コントロールは日本でも3本の指に入るとおっしゃってました。

いえいえ、それは言い過ぎかもしれませんが(笑)

でも、手で描いてるとは思えないくらいの美しさと繊細な線の流れがあると思います。昔から絵を描くのが得意だったりもしたんですか?

絵を描くのは好きでしたね。写し紙でキン肉マンとかをよく描いてました。でも、逆にガンダムとかの細かいものは全然描けなくて、どちらかと言えば単調なラインの方が得意。そこに自分のスタイルのルーツがあるかもしれないし、誰でも描けるような単調なラインをいかに磨いて表現していくかが僕のこだわりなんです。

パッと見るとCASPちゃんのポップな愛らしさに目が行きがちですが、そこに構成されてる曲線と直線は、本当に見応えのあるアートだと思います。CASPERさんはグラフィティアーティストとしてさまざまな作品を手がけ、多くのプロジェクトにも参加されてきましたが、自身の活動の中での転機を挙げるとすれば何があるでしょうか?

JOEたちと<CMK>を立ち上げ、そこに参加させてもらってるのが最初の転機。それ以降も転機と呼べるものはいくつかありますが、僕の中で大きかったのが<FENDI>のワールドプロジェクトのアーティストに選ばれたことですね。

知ってます!<FENDI>が仕掛ける「F IS FOR FENDI」プロジェクトのアートワーク制作ですよね。世界中から選ばれた6人のアーティストが各国の言葉で“未来”を描いてて、CASPERさんの「ふゅーちゃー」の文字がシブ過ぎたのを覚えてます。

当時、JOEや周りのみんなは世界で活躍してたんですが、僕にはそのチャンスがなかなか巡ってこなかった。そんな時に届いたオファーだったので、JOEも「絶対に行くべきや!」と後押ししてくれてね。それまでは楽しく仕事ができればいいと思ってたんですが、もっと意識的にやらなあかんとさらに強く思うようにもなりました。しかも、日本代表として大阪から選ばれたことにも、責任と誇りがある。気持ちの面でガラッと変わる転機になったんです。

大きなチャンスでもありますし、大阪からCASPERさんが選ばれたことが胸アツ過ぎます。オファーはメールとかで届いたんですか?

イギリスのグローバルストリートアート社からメールが届いたんです。翻訳しながらやりとりして、サインアプリで契約した後、「航空券は後で振り込むから先に立て替えて、何日に来て!」って感じで。

メールだけのやりとりだと、現地に着いて制作を始めるまでちょっと不安になりますよね(笑)

まぁ、少しは(笑)。でも、イギリス、アメリカ、イラン、イスラエル、香港、韓国のアーティストたちと作ったアートワーク、過ごした時間は本当にいい経験になりましたね。プライベートの時間ではグラフィティライターがケアしてくれたんですが、「描ける壁はないか?」と伝えたら、場所や材料も全部揃えてくれましたし、地元のクルーまで繋げてくれたんです。その時感じたのは、グラフィティのカルチャーは世界共通なんだなと。僕らが大阪で海外のライターを迎える時もそうですが、ウェルカムの精神が根付いてることを改めて実感することもできましたね。

これまでの僕らにはなかった道が<CMK>を通じて生まれてきてるので、そこでしっかりと結果を示せる存在になりたい。そして、いつかこの道が、若い子たちがグラフィティアートを目指せる道になればと思う。
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Profile

JOE

1997年にを結成。日本での活動後、渡米を経て2013 年に『CMK gallery』をオープンする。高野山の恵光院への守本尊 毘沙門天図、天橋立の和貴宮神社の拝殿への天井画の奉納をはじめ、世界のアートシーンを揺り動かす作品づくりから地元密着のアートプロジェクトまで、幅広いシーンで活躍中。

https://cmkgallery.jp/
Instagram:@cmkgallery

Profile

CASPER

<CMK>所属。2005年に水戸芸術館で行われた日本初のグラフィティー展「X-COLOR」、2007年「SUMMER SONIC」でのライブペインティング、FENDIのワールドプロジェクト「F IS FOR FENDI」、スノーボードメダリスト平野歩夢のX GAMES Aspenミューラルアートなどに参加。その他、店舗の内装・外装、著名アーティストのステージ衣装、ロゴデザインなど、さまざまなシーンで活動を続ける。

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