カメラマンで、現代美術家。両極端にも思える「商業」と「芸術」の間を行き来する、木村華子さんの奥深きグレーゾーン。


作品は、セーブポイントみたいなもの。ここからここまで考えたことを、いったん外に出して、自分や人が見れる形にするんです。

写真家という話が出たので、続いては現代美術家の木村さんについて。現代美術家としての活動はいつからですか?

専門学校在学中に先生から勧められて、「御苗場」っていうコンペにストリートスナップを出しました。そしたら、審査員の方からいくつかノミネートをもらえたんです。コンペに出すのは初めてだったんですけど、面白いなと思って。卒業してもう一度、今度は2枚の写真を組み合わせたコンテンポラリーアート寄りの先品を出したら賞がもらえて、あ、これはやっててもいいのかなと。作家活動みたいなのをしてもいいのかなって思った最初ですね。

自分の作品を生み出すことって、難しくなかったですか?

それが割とするっとできたんです。あれ、できるやんって(笑)。もともと考えるのが好きで、衣食住に関係ないことについて、考えてしまう性分なんです。だから、自分が考えた過程を作品という形に落として自分の外側に出す、という作業がしっくり来たんですね。

考えたことを作品にして外に出すことが、しっくり来たと。

自分の頭の中に「仮のもの」としてあるものを、「モノ」として見てみたい。もやっとしたものをこういう作品にして出してみたらどうだろう?って思いついたら、もうそれが見てみたいんです。

作品は、何かを作ろうとするのではなくて、考えたものがあらわれているんですね。

ここからここまで自分はこれについて考えたっていうことを、作品として表出させるっていうか。セーブポイントみたいな感じです。ここからここまで考えたっていうのを一度作品として出して、それを自分が外側から見る。作品として出せば、見ることができるじゃないですか。私だけじゃなく他の人にも見られるので、違う脳みそからのフィードバックも受けて、また考えられる。私、一番最初のコラージュから今の作品まで、自分の根本にあるテーマみたいなものは変わらないんです。

そのテーマって言葉にできるものですか?

存在するとかしないとか、意味があるとかないとか、両極端にあると思われている事象は実は全く別個のものではなくて、同時に成立するんじゃないかと思っているんです。例えば、「違う」と「同じ」は真っ白か真っ黒かじゃなくて、グレーゾーンでつながってるんじゃないかと思っています。そのグレーゾーンに作品を通じて触れるとか、思い出すとか、そこに迫真していくのが作品をつくる上でのテーマです。

「違う」と「同じ」は完全に独立しているんじゃなくて、その間にグレーゾーンがある?

100%違う、100%同じってことではなくて、めちゃくちゃもにゃっとした状態で渾然一体ではあるけれども、私はそれが物事の本来の姿だと思うんです。「Aでもあり、Bでもある」っていう状態。

「ある」と「ない」の間に存在するグレーゾーンに触れることが、作品の一貫したテーマ。

その視点は、作家として活動する昔から意識していたんですか?

物事の有り様というか、概念みたいなものについてずーっと考えてるんです。そういうね、めんどくさいことばっかり考えてるんですよ

考えたことは、写真という形で表現する?

作品に関しては、その作品にフィットすれば写真を使います。撮った写真がそのまま作品になるわけではなくて、インスタレーションやコラージュしたりとか、ネオンつけたりとか。写真だけで作品は成立しないので、写真家ではないんです。

なるほど、写真はあくまで表現する手法のひとつなんですね。

自分が考えていることを表出させるときに、写真は都合が良くて便利なんです。絵を描いたり土をこねたりすると、自分の身体性みたいなものが全面に出すぎて、そこに注意がいってしまう。それを消すためには、すごく上手くないといけないんです。筆跡とかそういう痕跡を意識させないぐらいに。でもそれを消して透明でつるつるのものを作れる技術はないから、手の感触とかがつかない写真はちょうど良かったんです。写真なら、仕事としてお金をもらえるぐらい上手でもあるし。

その痕跡とか肉体感が表現を鈍らせる感じは、なんとなくわかる気がします。

それでいうと、写真って質感がないから。私の作品に使う写真は、あんまりテイストとかないんです。そのシリーズにフィットした表し方を選んでいるから。商業写真の方が自分の作風や好みは出てるかもしれない。

商業写真のほうが自分らしさが出るんですね。逆かと思ってました。

商業カメラマンとして写真を撮る時は、すごい楽しいんですよ。写真が好きなので。今日もいい写真撮れたな、やったー!って(笑)。それでお金もいただけるし、いろんな人に喜んでもらえるし。美術家としての写真は、作業に近いです。制作中の作品に最適な表現をする、その時の作品にいちばんフィットする写真を撮るっていう。

ネオン管をつけた3作目で受賞したことで、「写真家じゃないですよ」ってちゃんと言ったほうがスッと見てもらえるなと思って。
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Profile

木村 華子

京都府出身、大阪市在住。同志社大学文学部美学芸術学科卒業。関西を拠点に商業カメラマンとして雑誌や広告で活躍すると同時に、現代美術家としてコラージュ、インスタレーション、立体作品などを手掛ける。「UNKNOWN ASIA 2018」では、写真にネオンライトを組み合わせ、青い光が点灯する作品を発表。グランプリをはじめ、レビュアー賞5部門、審査員賞4部門を受賞する。

https://hanako-photo.sakura.ne.jp

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