手ぬぐいをきっかけに、僕がハマった初期衝動を共有したい。知るほどにディグりたくなる<手ぬぐいChill>の魅力とは。


知ってる人ならわかるギミックを盛り込むのが<手ぬぐいChill>のこだわり。架空のお店を考えて、ノベルティ手ぬぐいを作ることも。

プリントにはない注染手ぬぐいの魅力を教えてください。

インクを使っていないので吸水性が高く、職人の技術によって1枚1枚異なる表情に仕上がるのが魅力です。あとは、手ぬぐい全般に言えることだけど、乾きが早くてかさばらないこと。50枚ほど一気に染料を流し込んで染めるから、裏表なく染まるのも良いですね。デザインに文字が入ると裏表ができちゃうから、職人さんには文字がない方が良いって言われるけど、そうするとデザインの幅が狭まっちゃうんでね。

昔に比べると、職人さんが手掛けるデザインの種類も変わったんじゃないでしょうか。ことさら<Chill>さんのデザインは今っぽい個性もありますし。それに対する職人さんの反応はどんな感じなんですか?

めっちゃ嫌がられてます(笑)。ややこしいの持ってくんなとか、端にかかる柄を持ってくんなとか。注染ってコンプレッサーで染料を吸わせて作るんですけど、その時に端っこをきちんと留めとかないと、エアーが逃げてしまって良い具合に染まらないんですよね。より気を遣って作業しなきゃいけないので、そういうのを持って行くと嫌がられますね。

キレイに仕上げたいっていうプライドもありますもんね。<Chill>さんがコラボをしているアーティストやイラストレーターさんは、自分から声をかけているんですか?

ブランドとしてリリースするものは、自分からアーティストさんに声をかけることが多いです。仲の良いお店の手ぬぐいを作る時は、「こういうの作ります?」と提案することもあって。「ぜひ一緒にやらせてください」と、企業からオファーを受けてOEMで作るパターンもあるのでその時どきですね。

飲食店さんとのコラボも多いイメージです。

1番最初に作ったのは、以前アメ村にあった『シンバカレー』。今は淡路島に行っちゃったんですが、店主さんがレゲエのDJの先輩で昔から仲良くしてもらってたんです。他にもDJやってた先輩が日本酒関係の仕事をしていて、北浜の『カジノバ』で手ぬぐい展をやらせてもらったりとか。手ぬぐいって周年のグッズや餞別品にちょうど良くて、飲食店さんには結構人気ですね。あとは音楽アーティストさんも。Tシャツやパーカーはかさばっちゃうから、ドサ回りをするのにちょうど良いんです。レコードと手ぬぐいなら単価もそこまで高くならないし、今は新曲を出してもサブスクのみなことも多いから、そのリリパの時に手ぬぐいがあると良いんですよ。実現はしてないけど、手ぬぐいに楽曲のダウンロードコードを付けて販売するのも良いねって言う話も出ていて。手ぬぐいは音楽との親和性も高いんです。

音楽アーティストだと、どなたと一緒に作りましたか?

asuka andoとかですかね。5〜6年前に同じDJイベントに参加して、それをきっかけに作らせてもらいました。

これまでで印象的だったものはありますか?

反響面で行くと、名古屋の『ヤンガオ』さんかなぁ。名古屋方面でめちゃくちゃファンが多いお店なので、森道市場とかに出店すると、うちを知らへん人も信用度高めな感じで見てくれるからありがたいです。

『ヤンガオ』さんは何か繋がりがあったんですか?

「ダサい曲かけるパーティー」っていうイベントに行った時、『ヤンガオ』さんがカレーを売ってはって。その人が手ぬぐいを付けてたんで、「手ぬぐい良いっすよね。僕手ぬぐい屋なんですよ」って話をしていたら、「作りたいと思ってたんです」って言ってくれて、そこから毎年作らせてもらっています。売れ行きも好調ですね。みんなどこかで繋がっているから、満足度の高い仕事をせなあかんなと。繋がりは大事にせなあかんと思いますよ。

『ヤンガオ』さんとのコラボ手ぬぐい。色味もかわいい!

最近も街でよく遊んでらっしゃるんですか?

子どもが生まれて夜遊びをしなくなって、だいぶ機会は減りました。まず朝起きられへん。子どもを寝かしつけてると、21時くらいに寝ることもあるんです。そんな生活がベースなのに、23時スタートで朝までのイベントに行くの絶対無理じゃないですか。だから、なかなか夜遊びはできてないです。出店やDJで呼ばれたら行くけど、大体終電で帰るようになりました。寝過ごさないようにするのが大変です。

この人と一緒にやれて嬉しかったなぁっていうのはありますか?

それでいくと、Kads MIIDAさんですね。渋谷と新宿、京都の『BEAMS JAPAN』の天井画を描いている、レゲエの世界では大御所のペインターです。ずっとカッコいいと思っていたので、一緒にやれることになった時はめちゃくちゃ嬉しかったなぁ。

Kads MIIDAさんとのコラボ手ぬぐいは壁にディスプレイ。芸術作品のようでかっこいい。

三上さんはレゲエがお好きなんですね。

70〜80年代のレゲエがめっちゃ好きで。80年代スタイルのレゲエのパーティーを自分たちもやっていて、当時はレコードのA面で曲をかけて、カラオケが入っているB面でDJが即興で歌うスタイルが流行っていたんです。それを友人と一緒にやったりもしていました。

それもあって、最初は70〜80年代のレゲエの思想を手ぬぐいに落とし込むスタイルを取っていたんです。だけど思想が強く反映されすぎるとターゲット層がグッと狭まって、そのファンにしか届かへんようになる。なので、最近は若い子に食いついてもらえるデザインを心がけて、知ってる人だけがわかるギミックをこっそり取り入れています。

アーティストやイラストレーターさんには、どんな感じでデザインを発注するんですか?

完全に丸投げの時もあるし、「このデザインはこうしてほしい」と細かくお願いすることもあります。もともと手ぬぐいは配り物というイメージがあって、めっちゃ凝ってるおしゃれなデザインも好きだけど、ノベルティの手ぬぐいも良いなって思ってたんです。自分で空想上のお店のストーリーを考えることで、自分のブランドでもノベルティ手ぬぐいを出せるやんって気付いて、架空のノベルティ手ぬぐいを作るようになりました。あそこに飾っているやつもそうですね。

ちなみにどういうストーリーがあるんですか?

パラレルワールドの<Chill>が手ぬぐいでバズって、アメリカに温浴施設をオープンさせるんです。ヌーディストビーチの隣で始めたことにより、当初は難しいと思われていた温浴施設もバズらせることに成功して、現在では4店舗を展開している。だけど初心は忘れず、ノベルティ手ぬぐいを作り続けているという設定です。

妄想が爆発してる(笑)。おもしろすぎます。

ノベルティが実店舗になる逆パターンもあるんですよ。以前、BLACK SHEEPという90年台のラッパーユニットから着想を得て、黒い羊がラム串店をやるっていうノベルティ手ぬぐいを作ったんです。ちょうどその時『メイクワンツー』のヒロキくんと飲む機会があって、こういう柄を作ってるからリリースパーティーをお店でやらせてほしいとお願いして、実際にやらせてもらったんです。その黒い羊のストーリーをヒロキくんが気に入ってくれて、天満に新店舗を出す際にBLACK SHEEPの名前を使わせてくれへんかと。それでできたのが『BLACK SHEEP』なんです。そういうことがあるのも楽しいですね。

そんなこともあるんですね。三上さんがデザインに盛り込むギミックは、音楽が元ネタになることが多いんですか?

主に音楽とアートかな。90年代に2PACとBIGGIEっていう超イケてるラッパーがいて、ずっと互いを敵対視していたんです。結局2人とも和解することなく誰かに殺されちゃって。2PACのアイコンがバンダナなんですけど、豆絞り手ぬぐいをお揃いで付けた2人を描いたグッズを作ったんです。2人の関係性を知ってる人からしたらたまらんから、音楽に詳しいおじさんとかは結構買ってくれるんですけど、たまに音楽フェスとかで出店すると事情を知らない若い子が買って行ってくれるんですよね。長野県のりんご音楽祭に出店した時は、夜冷えるからっていうので女の子がパーカーを買ってくれて、「これ誰なんですか?」って聞かれたから、「BIGGIEっていうイケてるラッパーやで」っていう話をして。そしたら一回離れてまた戻ってきてくれて、「音楽を聴いてみたいんで、もう1回誰やったか教えてください」と。

わ〜、それは嬉しいですね!

<Chill>のアイテムをきっかけにサブスクで音楽を聴き始めて、そこからどんどんハマって行ってくれたら最高やなと思って。自分がハマった初期衝動を若い子に伝えていきたいというか。イケてるものが星の数ほどある世の中やけど、僕自身の価値観が次の世代に少しでも受け入れられて、カルチャーを深掘りする1つのきっかけになればという思いでもの作りをしています。

2PACとBIGGIEを両面にプリントしたビールカップ。見る人が見ればたまらないはず。もちろんデザインとしても◎。

最初はデザインに惹かれて手に取って、あわよくばその先にもっと興味を持ってほしいと。

そうそう。で、これ元ネタなんやろうっていうので調べて知って、興味を持ってくれたら嬉しいなって思います。自分の好きなカルチャーを、同じように素敵だと感じてもらえたら良いですね。イケてる人らがいっぱいおる中で、僕がやれるのはそういうことなのかなって。

おすすめとして紹介してくれた3枚。(右)asuka andoの1stアルバムのジャケデザイン。(中)東心斎橋のスパイスカレー店『buttah』とのコラボ。(左)「キングストンの中国系ジャマイカ人が営むレコード店がノベルティの手ぬぐいを作ったら」というコンセプトで作られた架空のノベルティ手ぬぐい。各2,000円
何十年も経った頃、<Chill>の手ぬぐいが古着と同じように重宝されたら嬉しい。お客さんには僕の思想ごと愛してもらいたいです。
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Profile

三上 翔

1982年、大阪府柏原市出身。祖父の代より、地元に古くから伝わる染色技法・注染に使う防染糊の町工場を経営しており、「この伝統をもっと広めたい」と2016年に手ぬぐいブランド<手ぬぐいChill>をスタート。柏原の店舗は不定期で営業しており、最近はイベント出店を中心に活動中。

Shop Data

手ぬぐいChill

住所:大阪府柏原市古町2-1-21
営業時間:不定期(SNSで要確認)
電話:090-3722-1498

https://chill-tenugui.net/
https://chilltenugui.thebase.in/

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