【私的録 -My Private side-】 落語家・桂九ノ一さんのプライベートは、人情噺を地でいくような、谷六なごやかご近所ライフ。
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表に見える顔も魅力的だけど、その反対側にある顔もこそっと覗いて見てみたい。そんな想いから、気になるあの人の、ちょっと違った一面にフィーチャーする新企画【私的録 -My Private side-】が始まります。記念すべき第一回に登場するのは、落語家の桂九ノ一さん。高座ではきっちりと正統派の古典落語を聴かせる一方、DJとしても活動し、なおかつ古着ラバーでもあり…という九ノ一さんの、“落語家じゃない部分”を覗き見させてもらいました。取材場所は、谷町六丁目にあるご自宅。こだわりが詰まったお宅をたっぷり拝見し、行きつけのお店がある空堀通り商店街も案内してもらいました。ぜひ表の顔・落語家サイドのインタビューと読み比べてみてください。
部屋の中=頭の中。九ノ一さん家を訪問。
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お邪魔したのは、谷町六丁目駅からほど近いマンション。開放感のあるワンルームが九ノ一さんの住まい。初めての一人暮らしは十三で、そのあと福島へ引っ越し。でも「街と自分の距離感がうまいこと取られへんかって」、谷六に移り住みました。谷六を選んだのは、「噺家の先輩が谷町に住んでて、あたしの街においでなさいって言わはった」から。越して来て2年半、今やすっかりこの街になじんで根を下ろし、物件のオーナーさんと仲良くなってお宅でおせちを呼ばれたり、偶然同じイベントで知り合った階下の住人さんとはおすそ分けをする仲に。都会の真ん中でそんなハートウォーミングなご近所付き合いが生まれてしまうのは、九ノ一さんの人柄と、落語さながらの人情味が残る谷町界隈の土地柄ゆえ。
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さっそく見せてもらったのは、自慢のレコードコレクション。10代半ばから買い集めたレコードがぎっしり詰まった棚は、なんと自作。「白銀比ってあるじゃないですか。その比率を測って作ったんです。僕は生涯、この棚に入るだけのレコードしか持たないと決めて」。いちばん思い入れがあるマイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は、寄席で初めて一週間の出番をもらった23歳のときに「思い出になるものを」と購入。「ディスクユニオンの壁にこれが飾ってあったんです。壁に飾ってるレコードって高くていつも買えなかったんですけど、たまたまその日は小金を持ってて。当時の初版なんで、値打ちあって音もいいんです」。サブスクでいくらでも音楽が聴ける時代でも、わざわざレコードを買うという九ノ一さん。「かけるっていう行為もいいし、やっぱり宝物やし。こうやって話もできるから」
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落語家さんらしく、部屋には使い込まれた見台も。さぞかし日々の稽古に使われているのだろうと思いきや、「ほぼ食卓」だそうで。「師匠にいただいたんですけど、師匠もいつもこれで晩酌してはって。晩酌しながら稽古つけてくれてはったんです」。食卓づかいは師匠譲り、この日も見台でおいしいコーヒーをごちそうになりました。
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落語家の舞台衣装である着物は、メルカリで仙台から届いたタンスにぎっしり。それでも季節ごとに入れ替えていて、「羽織とかも全部合わせたら20着くらい」あるそう。「着物と帯をどう合わせようかとか、コーディネートして。手ぬぐいひとつでも、話の邪魔にならんようにシンプルにしたり、大きい劇場やったら派手にしたり、いろいろ考えますね」。4月29日に開催する初めての独演会には新しい着物で臨む予定で、ただいま染物屋さんと絶賛打ち合わせ中。「京都の染屋さんで、もう8年ぐらい通ってます。最初はそっけない感じやったんですけど、こないだ正月の頭に染め替えお願いしに行ったら、去年がんばってたな、テレビも見たでって言うてくれはって。染め替えのお金、めっちゃ負けてくれはったんです」。応援してくださる気持ちが嬉しくて、お礼に独演会にご招待予定とのこと。独演会当日、九ノ一さんがどんな色の着物で高座に上がるのか、お楽しみに。
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私服はもっぱら古着という九ノ一さんのワードローブは、スカジャン、デニム、軍パンがメイン。リーバイス501の66は、バンドをやっていた当時を思い出すアイテムで、「サンキューマートで買った501を穿いてたんですけど、ボロボロなのがアイデンティティで。それを思い出す感じで、今もDJの時よく履きますね」。
最近注目しているのは、ラングラーのデニム。「ここ何年もラングラーって日の目浴びてないじゃないですか、リーバイス一強で。これラングラーの90年代のデッドストックなんですけど、リペアショップに持って行って、ちょっと細身に、テーパードにしてもらおうかなと思って」
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ちなみにこの日のトップスは、この頃ブームだというブートTシャツ。「これ映画『SONATINE』のTシャツなんですけど、こんなデザイン、北野武が認めるわけないっていう(笑)」。愛読しているサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』をモチーフにしたスウェットは、お姉さんが作った世界でひとつのオリジナル。「姉貴に、文庫本の上の部分の青いスウェットと、下の部分の白いスウェットを作ってほしいって頼んで。昔はこの白いところに顔が描いてあったので、それも姉貴に直筆で描いてもらいました」。なんてやさしいお姉さん。
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ほかにも、物語れるアイテムがありすぎる九ノ一さんのお部屋を、ダイジェストでお届けします。
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いろいろ見せていただいてわかったのは、「人からもらった」「誰かから受け継いだ」ものがとにかく多いということ。古着もレコードもギターも落語も全部、「たまたま今は僕の手もとにあるだけ」と言う九ノ一さん。「将来誰かに手渡すもんやから、なるべく大事にしたいなと思ってます」
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桂九ノ一
1995年生まれ、大阪府豊中市出身。箕面高校の先輩であり、高校の50周年記念式典で落語を披露した桂九雀に感銘を受け、2016年3月に弟子入り。大阪の天満天神繁昌亭や神戸の喜楽館などに出演するほか、定期的に東京でも公演を行う。「令和六年度NHK新人落語大賞」 では決勝に進出。趣味は古着屋巡りとレコード収集。DJとしても活動中。いつか『POPEYE』に載るのが夢。目下の悩みは、落語の入門者が減っているところ。「興味ある人、インスタのDMに連絡ください!」