システムエンジニアから丹波篠山で罠猟師になった黒沼さん夫婦が、屋号「かけがえのない日」に込めた想い。

大阪のサラリーマンから、丹波篠山の罠猟師へ。今回インタビューしたのは、「かけがえのない日」の屋号で活動する黒沼シンスケさんとマイコさん夫婦。システムエンジニアとして働いていたシンスケさんは長年勤めた会社を辞め、北摂エリアに購入していたマンションを売却して丹波篠山の山を購入し、そして罠猟師に。さらに、ジビエの美味しさを知ってもらいたいと、マイコさんと共にジビエ料理でイベント出店もされています。都会から田舎へ、サラリーマンから猟師へ、華麗というか異例すぎる転身を遂げたシンスケさんと、それをそばでずっと支えていたマイコさんのエピソードは、はちゃめちゃで、面白くて、でも生きる意味をすごく考えさせるものでした。最後まで読むと「かけがえのない日」の言葉の意味が、すとんと腹落ちします!

狩猟免許だけは取ってたんで、じゃあもう猟するか、みたいな感じで始めたんです。でも僕、正直できるかな?って思ってて。だって、鶏肉も触ったことなかったんです。

まず、なぜ罠猟師になられたのか、そこからお聞きしてもいいでしょうか?

シンスケ:もともと普通にサラリーマンしてたんです。池田市に住んでて、マンションも買って。でも2021年ぐらいから自然の中で暮らしたいと思うようになって、よく田舎のほうをドライブしてたんです。その時に、この丹波篠山で仙人みたいな人と出会って。そこから劇的に変わっていったんですよ。その人と会ったから、今この山もあるし、狩猟もしてるんです。

その人と出会わなければ、今のような暮らしはなかったと。

シンスケ:全然ないですね。まず出会ったときも、山を買うとか狩猟するとか思ってない。狩猟を始めたのも、2022年の8月なんで。その仙人から、僕は狩猟を教えてもらったんですよ。つまりは師匠ですね。

お2人が整地した山で、「コストコ行ったら1万2千円で売ってたんで、衝動買いしました」という屋外ストーブを囲みながらインタビュー。

狩猟を始めて、また1年ほどなんですね!ちなみに、その仙人というのは、何をしている方だったんですか?

それを話し始めたら、もう日が暮れてしまいますね。簡単に言うと、39歳から働かずして、山の中で人から物をもらったりあげたり、物々交換みたいにして生きてる76歳の人です。その人は、柴犬で猟をするんですよ。でもその話も、すごく長くなるんです。

柴犬で猟を!すごく気になりますけど、先を伺いますね。その仙人と出会ったことで、お2人はここに山を買って、猟師をすることになったんですか?

シンスケ:田舎暮らしに憧れてネットで物件を探してて、この辺に気になる中古物件が出てたから2人で見に来たんです。結局その物件はあんまりやったんですけど、この村の雰囲気にはすごい惹かれて、しばらく散策してたんです。その時に出会ったのが仙人、つまり師匠です。

マイコ:柴犬が寄ってきてね。

やっぱり柴犬を連れてはったんですね。

シンスケ:そうそう。それで、野菜いるか?って言われたんです。都会やったら、道端で会った知らない人に野菜なんてもらわないじゃないですか。でも、里山に住むなら、不動産屋じゃなくてその土地の人と知り合わなあかんっていうのは聞いてたんですよ。だから勇気を出して、知らんおっちゃんやけどついて行ったんです。そしたら、土間、水屋、寝室の3つの小屋で家が構成されてて、畑が広がってて、その前には清流が流れてて、柴犬が5匹いて。もう僕らからしたら、夢のような暮らしをしてはったんです。その日は電話番号を交換して別れたんですけど、さっそく次の日に電話がかかってきて、君らの土地を探す手伝いしたるわって。それが2022年の1月9日ですね。そこから、毎週末はその人のところに通うようになりました。そして4月にはこの山を買って、8月にはマンションを売って、8月末には退職しました。

1月に知り合って、展開がめっちゃ早いですね。退職してから、どうされてたんですか?

シンスケ:師匠が黒豆畑をやってたんで、黒豆を売ったり。でも黒豆の時期が終わったら、することないんですよ。それで一応、狩猟免許だけは取ってたんで、じゃあもう猟するか、みたいな感じで始めたんです。でも僕、正直できるかな?って思ってて。だって、鶏肉も触ったことなかったんです。手羽先なんてもう無理!って感じやって。

マイコ:私が料理してるとこ、すごい目で見てたもんね。

シンスケ:ホルモンとか食べるのは好きですけど、調理なんてもってのほかだったんです。

そんな感じだったんですか!?それでよく猟師に……

シンスケ:黒豆の時期が終わって、何もすることなくて。ずっとシステムエンジニアやったんで他に手に職があるわけでもないし、バイトの経験もそんなにないし。どうしようかと思ってた時に師匠から、狩猟やってみたらええんちゃう?って言われたんです。その時は、考えてみますって答えたんですけど、それからしばらくして師匠から電話があったんですよ、かかってんぞって。

仕掛けた罠に、獲物がかかってたという連絡ですか?

シンスケ:そうです。朝いちばんに電話あって。横でまだ寝てるマイコに、獲物かかってるらしいわって言うたら、じゃあ行っておいでやって言われて。

心の準備もなにもないままに。

シンスケ:正直、怖かったですよ。ゾンビ映画とかは好きですけど、実際に血を見るとかは苦手やったし。それやのに、現場に着いたらいきなり、ほらこれって鍬(くわ)を渡されて。僕がやることになってるんですよ、見学じゃなくて。

いきなり!それは戸惑いますね。狩猟免許を取るときに、実習とかはあったんですか?

シンスケ:免許なんて、基本はペーパーですから。実技はありましたけど、獣なんか相手にしたことはないです。でも、行くぞって言われて師匠と柴犬の後ろをついて獣道に入っていったら、その先に、雄鹿がかかってたんです。

後ろ足を1本、師匠からほれって渡されたんです。え、これどうしたらいいんやろうと思って。そこから自分が肉を剥がして取るなんて考えられなくて。でもね、これって命じゃないですか。
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Profile

かけがえのない日

元システムエンジニアのシンスケさんとマイコさんの罠猟師夫婦(trapper a.k.a hunter)。罠製作から捕獲、解体、精肉までを行い、“人生で最高に美味いジビエを提供したい”をテーマにイベント等に出店。丹波篠山の持ち山も絶賛開拓中

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