心斎橋の雑居ビルで、廃棄野菜を無料で配るモリエージさん。なぜタダで野菜を配り続けるのか、フードロス解消でもなくSDGsでもないその理由。
もし自分をひとつ褒めるとしたら、野菜をもったいないって持って帰って、友達にあげたことなんですよ。それが分岐点。あそこで配ってなかったら、今こんな楽しいことになってない。
エージさんが市場で働くようになったのは、どんなきっかけなんですか?
僕はもともと八百屋の野菜を運ぶ運送屋として市場に出入りしてたんですけど、市場って荒っぽいところもあるから、人がばんばん辞めていくんです。僕が運送屋で入ってる八百屋も社員がどんどん減って、いつの間にか僕が中堅みたいになってて。で、モリちゃんうちの仕事ようわかってるから、中におってくれたほうが助かるねんけどって言われて、それで車乗らんようになって、八百屋の仕事を手伝うようになりました。
市場の仕事ってやっぱりそれだけ厳しいんですね。
あそこにはあそこの法律みたいなんがありますね。でもおもろいんですよ、ええ大人がすぐ喧嘩したりするし。
エージさんには合っていたと。
僕はある意味、市場でしか働けない男なんですよ。市場って人を見た目で判断しない方が多くて、ヒゲ生えてても刺青入ってても、変な格好してても、受け入れてもらえたんです。それと、遊ぶのが好きなんで、人が寝てる時間に働いてでも、遊ぶ時間をつくりたいんです。今は夜中の1時から昼の12時が仕事なんで、9時から17時まで働いている人と8時間ズレてるんですね。今が16時やから、世間の人に換算したら夜中の0時。市場が終わって家に帰って寝てたら社会と交わらんけど、僕は幸いにしてこうして人と遊べるところを見つけたんで、実質夜中の0時からでもどんどん人と会えるっていう最高の環境。
以前の運送のお仕事だったら、なかなか人と会える機会がないですもんね。
そうなんですよ。運送は自分の段取りでできて誰からも口出しされへんのは良かったんですけど、あくまで仕事やから楽しさは見出せんくて。でも今はいろんな人と会えるし関われるし、毎日いろんなこと起こるじゃないですか。ほんまね、ええもん見つけちゃったんすよ、お金に変えられないものを。
運送のお仕事は長かったんですか?
長いですね。出身が福知山で、そっちでも運送の仕事してたんですよ。
そうなんですね!大阪にはいつから?
学生の時に大阪に出てきて、就職で地元に戻ったりしてたんですけど、また12年ぐらい前に出てきました。地元におる時も大阪の友達が多くて、いつも遊びに来てたんです。朝まで大阪で遊んで地元に帰って仕事して、また終わったら大阪に来てっていう生活をしてたんですけど、友達にもう心配やし大阪住んだら?っていわれて、また大阪に。
大阪に出てきたタイミングで、市場の仕事を?
いや、最初はゲストハウスのマネージャーの家に転がり込んで、西成の日雇いに行ってたんですよ。朝5時前に行って、仕事して。それから日雇いやなしに月賦の仕事しようと思って、今の親方の紹介で、野菜の運送業に関わるようになったんです。それが、早朝にミナミの飲食店に行って、冷蔵庫に野菜を届けて回る仕事やったんですよ。でもモメ事があってやめることになって。そんで親方に辞めるっていう話をしたら、モリちゃんその風体やろう?仕事するならもう市場しかないでって言われて、それで市場に出入りするようになったんです。
すごい、ざっと聞いただけでも、波乱万丈ですね。
だからもう、目指したりとか目標にしてなり得たわけじゃなくて、選択肢が少なくて、ただただ流れて行き着いただけなんですよ。ただね、もし自分をひとつ褒めるとしたら、野菜をもったいないって持って帰って、友達にあげたことなんですよ。それが、今ここに至る分岐点ですよね。あそこで、僕もう1玉だけでええですわって言うてたら、今こんなことになってない。
そうですね、1箱もらって、友達に配ったのがすべての始まり。
野菜を渡すだけで、あんなに喜ばれると思ってなかったんですよ。女の子なんて普通にやりとりしてたら、どこ住んでるん?って聞いても、「西区」とかしか教えてくれへんのに、野菜持って行こか?って言うたらマンション教えてくれるんですよ!?野菜ってすばらしいですよね(笑)
モリエージ
京都府福知山市出身。約10年前から、中央卸売市場で廃棄になった野菜を友人に配り始める。2022年10月からは心斎橋の雑居ビルにて、不定期(週2回程度)で<フリー野菜>を実施。愛車はホンダの三輪スクーター「ジャイロ」。<フリー野菜>の実施は、インスタグラムのストーリーズで告知。