幻のように現れる『橋ノ上ノ屋台』。仕掛け人の今村謙人さんは、路上を楽しむ気鋭の屋台プレイヤー。

大正区と浪速区を結ぶ大浪橋。ふだんは人や自転車が行き交う歩道に、ときおり小さな屋台が現れます。ぼんやり灯る行燈に書かれた文字は『橋ノ上ノ屋台』。向かい合う2つの屋台ではお酒と、七輪で炙る小さなアテが売られています。屋号のとおり、橋の上に屋台を出しているのは今村謙人さんと笹尾和宏さんのお2人。今回はこの屋台の発起人であり、各地で屋台のワークショップなどを手掛けているカモメ・ラボ代表の今村謙人さんにインタビュー。建築畑出身の今村さんが屋台に魅せられた理由や屋台のポテンシャル等々、じっくりお話を伺いました!奇しくも取材に伺った日は、『橋ノ上ノ屋台』の1周年。天下の往来で、カイピリーニャを飲みながらのインタビューとなりました。

プロダクトとして屋台を作る人も多いんですけど、僕は商売やって面白かったから屋台をやってる。モノづくりっていうよりも、プレイヤーとして屋台を使っていきたいなと思ってます。

何もない橋のうえにあっという間にお店ができてびっくりしてるんですが、まずこの『橋ノ上ノ屋台』について、教えてください。

僕が笹尾さんに声をかけて、去年の4月に始めました。1ヵ月に1回、僕と笹尾さんの都合が合う週末に屋台を出してます。特に告知とかはしてなくて、SNSで親しい人にちょっとお知らせするぐらいで。

なぜこの場所だったんですか?

駅前はお店たくさんあるから、橋の上の何もないところのほうが面白いかなっていうのと、そもそもよくこの橋の上で、笹尾さんと飲んでたんですよ。ロケーションがいいから好きで。

お気に入りの路上飲みスポットだったんですね。

そうそう、だから屋台を出すならここがいいなと思って。笹尾さんは街を使いこなすことをテーマにした本(※)も出していて、公共の場を使うのが得意なんです。それで、笹尾さんなら一緒にやってくれるんじゃないかと思って。

※『PUBLIC HACK もっと私的に自由にまちを使う』(学芸出版社)

左の屋台がアテ担当の今村さん、右がお酒担当の笹尾さん。

最初に屋台のお話をされたとき、笹尾さんの反応はどうでした?

いいねえ、ヒリヒリすることしたいねえって。笹尾さん変態なんですよ(笑)

最強のパートナーですね(笑)。お2人でこの屋台を初めてちょうど一年とのことですが、振り返ってみていかがでした?

毎回何かがあって面白いなって。屋台の向きひとつでも違うし、路上でどういう振る舞いをしなきゃいけないかとか、クレームを防ぐにはどうすればいいかとか、どうやったら通りすがりの人がお客さんになってくれるのかとか。その都度やってみないとわからないっていうのがすごく面白いですね。

そもそもなんですが、なぜ屋台を出してみようと思われたんですか?

新婚旅行で1年かけて世界一周したんですけど、その途中にメキシコで焼き鳥の屋台を出したんですよ。それが面白かったから、日本でもやりたいなとずっと思ってたんです。

メキシコで焼き鳥の屋台を?

そうそう、世界一周を始めて2ヶ月ぐらいの時だったんですけど、僕がちょっと旅に飽きちゃって。旅って初めての場所に行って、新しいものを見たり聞いたりして、インプットの刺激ばっかりが続くじゃないですか。それでなんかお腹いっぱいになっちゃって。

ひたすら刺激を受け続けるっていう状態ですもんね。

それで、自分でなんかしたいなと思って。そのときはサン・クリストバル・デ・ラス・カサスって街に滞在してたんですけど、宿のオーナーにそういう話をしたら、メキシコは日本みたいに厳しくないから大丈夫だよって。それで、屋台を出そうと。

何かしたいと思ったときに思い浮かんだのが屋台だったんですか?

ずっと旅の途中でも屋台は見てきたんですよ。日本では少ないですけど、タイとか韓国とか、ニューヨークとかメキシコとか、街中で商売している国はたくさんあって。そういう自由さが楽しそうでいいなあと思ってて、屋台だったら気軽に商売できそうだなと思ったんです。

屋台なら、メキシコでも商売できると。

お店を構えるなんて無理ですけど、屋台ならいけるじゃないですか。でもまあ屋台って言いながら、メキシコでは座卓を持って行って、座りながら焼いてたんですけど。

路上に座卓を出して焼き鳥屋さん!いいですね、自由ですね。その屋台はうまくいったんですか?

最初はみんなちょっと遠くから眺めてる感じなんですけど、誰かが買ったらそこからわーっと売れ始めましたね。日本の照り焼きにしたので、匂いにつられて結構お客さんが来てくれて。1回目でけっこう売れたから、2回目からは嫁も手伝ってくれて、結局3回やりました。

匂いが最大の宣伝ですね。商売するのに、言葉的な問題はなかったんですか?

簡単なスペイン語だけ覚えて、あとは1本10ペソ、3本20ペソって書いた紙だけ掲げてました。細かいことはわからなくても、なんとかなるかなって。お店は『pollo japones(ポヨ ハポネス)』って名前にしました。ポヨはスペイン語で鳥、ハポネスは日本みたいな意味なんですけど。

かわいいですね、ポヨ ハポネス。それが、今村さんの屋台の原点ですか?

原点というか、屋台で初めて自分で商売してお金稼いだんですよ。それまでサラリーマンだったから。その経験がすごく楽しかったんです。プロダクトとして屋台を作る人も多いんですけど、僕はどっちかっていうと商売やって面白かったから屋台をやってる感じなんですよ。自分で作れるから作ってるだけで、モノづくりっていうよりもプレイヤーとして屋台を使っていきたいなと思ってて。

仕事をやめて、1年間の世界一周新婚旅行へ。「行き当たりばったりの人生だったんで、まあなんとなるかなって」
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Profile

今村 謙人

カモメ・ラボ代表。大阪市立大学大学院修了。新卒で入社した設計事務所を1年でクビになり、内装や工務店、飲食店などの職に就く。夫婦で世界一周の新婚旅行をした後、大阪へ。現在は大正区を拠点に、屋台づくりや出店のほか、社会実験などのプロジェクトやイベント企画など幅広く手掛ける。新たに「屋台の学校」をスタート予定。

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