ノリと気合いと、愛があれば。『bistro ENISHI』の谷本悠一さんが仲間と歩んで築いてきた、飲食店の普通じゃない姿とそのカタチ。
2024年2月1日(木)に移転リニューアルオープンした『bistro ENISHI』。淡路町から京町堀へ、そして平野町で再始動した今、その区画には系列店が全て集結するという展開になっています。普通なら系列店が競合店になるのでは?と思っちゃいますが、そうならないのもその姿とカタチが多様だからこそ。オープン初日から相変わらずの賑わいぶりでしたが、お店のことやその背景にあるいろんなストーリーを知りたくて、オーナーの谷本悠一さんに話を聞いてきました!えっ!?マジで!?な展開には驚くこともあるだろうけど、今日まで突っ走れてこれたのには、悠一さんならではのノリと気合いと愛、そして仲間の存在があったから。これからのさらなる展開も気になりつつも、人や街に愛されてるお店の理由を少しでも感じてもらえれば。あとは実際に足を運んで、それぞれのお店の味、スタイル、グルーヴを体感しちゃってください!
再び1階の角地に戻って来れた。自分の中では1度眠らしてたものがまた浮上してきたような感覚。コロナ禍も落ち着いたから、全てのゲストを迎えられるお店にしようと思って。
会員制の立ち飲みだった京町堀の『bistro ENISHI』が、2月1日(木)に平野町に移転リニューアルオープンしました。まずはその経緯から聞かせてもらえれば!
いろんな出会いも関係してるんですが、お店としてコミュニティをもっと厚くしたかったのが理由ですね。系列店が平野町の同じ区画に3つあるので、こっちに移って来れたらさらに連動できるし、メンバーのブラッシュアップにも繋がると思ってたから、良い物件があれば移転したいなと考えてました。僕はけっこう何でも口にしちゃうタイプで、そんな話をビルのオーナーさんに相談したら「じゃあ、ここでやりや!」と言ってもらえたんです。
グッドタイミングな展開ですよね。いつ頃の話だったんですか?
2023年11月くらいかなぁ。僕らの系列店がそのビルの2階にあって、オーナーさんにはめちゃお世話になってたんですよ。ビルの1階にはオーナーさんが運営するお店の『マルーン堂』があったんですが、そのお店とビルのリブランディングも兼ねて、『bistro ENISHI』が入らせてもらえることになりました。
1階の角地という好ロケーション。しかも、同じ区画に系列店が全て集結するのって、なかなか珍しいなと。
ですよね(笑)。ただ、僕らとしてはすごく動きやすくなるし、いろんな場面で補い合えるなと思ったんです。それにこの街でお店を展開して感じたのは、人の流れや街の動線が変化してきてること。近所にはケンケンさんの『ヒロカワテーラー』や森さんの『カクウチちょこっと』などの人気店がたくさんあって、僕らのお店を集結させることで点と点を結べるというか、もっとお客さんも繋げていけるんじゃないかなと。
店主同士の繋がりが濃いエリアですもんね。みんな仲が良いし。
いつも可愛がってもらってます(笑)
だと思います(笑)。京町堀での『bistro ENISHI』は会員制でしたが、移転リニューアル後はその制限もなくなりました。何か理由はあったんですか?
最初に『bistro ENISHI』をオープンしたのは2016年4月で、ここからほど近い淡路町でした。その時も1階の角地で、今も使ってる看板をドーンと掲げた感じだったんです。京町堀に移転した時はコロナ禍だったからその影響もあってクローズドな会員制スタイルにしてましたが、今回再び1階の角地に戻って来れた。自分の中では1度眠らしてたものがまた浮上してきたような感覚だったし、コロナ禍も落ち着いて世の中の事象を気にすることもなくなったから、全てのゲストを迎えられるお店にしよう!そう思ったのが理由ですね。
なるほど。クローズドな雰囲気も良かったですが、お店としては本来の姿を取り戻したと。提供する料理などに変化はあるんですか?
ビストロとしてのベースは同じですが、メニューはけっこう変わってますね。オマール海老を使ったメニューは淡路町でお店をしてた時以来の復活ですし、前菜系のメニューも大きく変化してるので楽しんでもらえれば。
いわゆる『bistro ENISHI』バージョン1時代のメニューが復活してるってのも、ちょっと感慨深いですね。ちなみに“ENISHI”という名前にはどんな想いが?
そのまま“縁”という意味なんですが、僕が18歳の時に就職したセレクトショップがそのまま同じアルファベットの“ENISHI”だったんです。
元々はアパレルだったんですか!?
香川県高松市のショップなんですが、よく通ってて、自分の中ではカリスマ的な存在でした。いろんな勉強をさせてもらい、展示会や買い付けにも同行して東京のいろんなショップも見てきましたが、どこにも負けんくらいカッコ良くてね。社長にも可愛がってもらってたし、本当にたくさんの“縁”を与えてもらったんです。結局2年くらいで退職して大阪に出ることになるんですが、自分のお店を立ち上げようとしてる時に、ショップを閉めることを聞いたので、社長にすぐ連絡して「あの屋号もらっていいですか!?」って。ずっと使いたいと思ってたという話を伝えたら、「全然あげるで!」と言ってもらえたので、今でも大切に使わせてもらってるんですよ。
形態は違うけど、当時の体験や思い出、社長さんの想いとかも含めて“ENISHI”という名前を受け継いだ感じなんですね。飲食の道にはいつ頃から進もうと思うように?
昼はセレクトショップで働きながら、先輩の紹介で夜は個人経営の居酒屋でバイトしてたんです。ちょっとお金を稼いだろうってくらいの感覚で。おしゃれなセレクトショップで働いてたし、まぁ調子に乗ってましたね。バイトやから適当にこなしてて、飲食を完全に舐めてる感じ。でもある日、お客さんからクレームが入ったんですよ。「あいつ、態度が悪すぎる!」って(笑)。その時は、いつも優しかったオーナーもさすがにマジギレで。「お前普段はよく笑っていいヤツやのに、なんでそんな感じやねん!なんかもったいないわ!」と言われ、ハッとさせられました…。
調子に乗りたくなる年頃だけど、そこでちゃんと気づいたと。
ですね(笑)。試しにセレクトショップでやってるような接客を続けてたら、お客さんからどんどん褒められて、「お前いいやん!」「今日もありがとうな」と言われるようにもなって。あぁ、根本的にあかんことしてたんやなと。接客という行為はもちろんだけど、やっぱり人が大事なんやなと。身をもって気づけた瞬間でしたね。
その気づきもあって、飲食業に魅せられていく感じですか?
アパレル業もいろんな人に接客できますが、お酒も入ってないからある一定以上はなかなか踏み込めない接客で終わってしまうけど、飲食業の場合はまず客層の広がりを感じてたんです。会社員やファミリー、経営者、同業者、普段会わないような人も一気に集まる空間だから、いろんな話も聞けて、繋がりもできる。そして、お酒の席なので、相手が誰だろうと関係なくちゃんと接客してると、僕みたいな若造にもみんなが対等に話をしてくれるんですよ。それがめちゃおもしろいなと思って。昔から独立願望もあったし、飲食の道に進むことを決心しましたね。ただ、どこかのお店で修業するか、1回ヒッピーになって日本から世界を周るか…、ちょっと悩んでたのでひとまず香川から出ることを先に決断したんです。
飲食の道に進もうと思った経緯はわかったんですが、修業するかヒッピーするかの迷いもあったんですね?(笑)
世界のいろんな国を見ておきたかったし、その前に日本のこともまだまだ知らなかったので…(笑)
で、結局は?
とりあえず車で日本を周るヒッピー生活です(笑)。高松から岡山県に行って、鳥取砂丘が見たくなったので鳥取県へ。でも、車で砂丘のギリギリまで入って行ったら砂に埋もれてしまい、動けなくなって…。レッカー呼んだんですが、砂にだいぶやられて修理金額も高くつくことが判明したから、車は廃車にすることにしました。
ってことは、ヒッピー生活は2つ目の県で終了?
あえなく断念で…(笑)
志の半ばにも到達できてない(笑)。まぁ、仕方ないですよね。そこから大阪に出てきたんですか?
僕、片親なんですが、おかんが先に大阪に出て来てたから、ちょっと行ってみよかなってくらいの感じで。その後に東京に行って修業しようと思ってたんですよ。
谷本 悠一
香川県高松市出身。2016年4月に淡路町に『bistro ENISHI』をオープン。同店は2020年1月に一旦クローズ後、2021年7月に京町堀に移転し、2024年4月に現在の地に。他にモダン居酒屋の『やらずのあめ』、焼肉店&精肉店の『29.CENTRAL』、モダンメキシコ料理の『Écle Enishi』(現在移転準備中)も営む。料理人としての本格的な経験はないながらも、ノリと気合いと愛、そして他業種で培ってきた感性を武器に、街の人気店を次々と手がけている。
Instagram: @yarazu_no_ame
Instagram: @29.central
Instagram: @ecle.enishi