それは“お店屋さんごっこ”から始まった。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主・竹重みゆきさんの14年。

千鳥橋駅から徒歩5分。住宅や商店が立ち並ぶ、下町情緒あふれる一角に『シカク』はあります。ここで扱うのは、ミニコミやリトルプレスなどのインディーズな出版物と、“ふつうに置いてあるけど、ふつうの人はなかなか買わない”ニッチな本。ギャラリースペースも併設されていて、展示やイベントも随時開催されています。さらに、個性的な本づくりを行う出版レーベルとしての一面も。そんな『シカク』を運営するのは、オーナーの竹重みゆきさん。専門学校を卒業してすぐ、当時のパートナーとともに“お店屋さんごっこ”感覚で始めたのがすべての始まりでした。そこから約14年、お店を開いた日から始まったドラマチックな日々のこと、子ども時代のエピソード、そしてミニコミ文化の変遷やZINEブームについてなど、いろいろお聞きしました。
1Kの部屋に本棚が1つあって、「この棚が店です」みたいな。

取材前にnoteで竹重さんの『シカク運営振り返り記』を拝読したのですが、めちゃくちゃ面白かったです…!まず2011年に、就活をやめて卒業後いきなりお店を始められたんですよね?
人生舐めてますよね。あかんかったら就職すればいいかと思って、お店屋さんごっこみたいなノリで始めました。
就職しないことに対しての不安とかはなかったですか?
『シカク』は元パートナーと一緒に始めたんですけど、その人に会うまでは人並みに就職して、まっとうな人生をイメージしてたんです。でもその人がもう、典型的なダメなバンドマンみたいな感じで。そこで固定観念がなくなったというか、意外と適当にやっててもなんとかなるかもと思って(笑)。よく考えたら就職も別にしたいわけじゃないし、人間関係も下手でバイトでもなじめなかったから、いったんやってみようかなって。それで、元パートナーを店長としてお店を始めました。

しかも最初は、1Kの自宅兼店舗というスタイルでしたよね。当時、“住み開き”という言葉もよく耳にしました。
谷町六丁目に『ポコペン』ってうカフェバーがあって。「劇団子供鉅人」主宰の増山さんがやってた自宅兼バーなんですけど、劇団が東京に行ってる間そこをお手伝いしたことがあったんです。あそこもただの家なんですけど、店だと言い張ってて(笑)。あ、こんな感じでもいいんやなと思って、あの当時の大阪の独特な空気感を取り込んで始めた感じでした。
『ポコペン』、懐かしいですね。それで「いけるんちゃう?」みたいな感じで始められたと。でも、どうしてミニコミ誌のお店にしようと思ったんですか?
もともとオタクだったので、アニメの二次創作の同人誌はずっと好きで、自分でも描いたりしてたんです。だからそのあたりには馴染みがあったんですけど、ミニコミ誌のことは元店長に教えてもらって、初めて知りました。すごく面白いカルチャーだなと思って、もっと広められたらいいなって。その頃はまだ細々としたジャンルで、扱ってるお店もほとんどなかったので、これはもったいないなって思ったんです。

商売としてっていうよりも、広めたいっていうお気持ちで。
そうですね、商売にするには明らかに無理だろうと思ってました(笑)
自宅兼店舗はけっこう大変だったそうですが、その後、広い場所に移られたんですよね。古い物件をリフォームされてましたが、そのときは「このお店を本格的にやっていこう!」という気持ちでの移転だったんですか?
中津商店街で、家賃1万5千円の物件が見つかったのが大きかったですね。「この家賃ならやっていけるかも」と思えて、続けられる理由ができたというか。じゃあもうちょっとやってみよう、みたいな流れでした。そこも2階が住居になっていて、お店と家と合わせて1万5千円で生きていけるので。それがいちばん大きかったと思います。
お店も広くなって、扱うミニコミ誌も増えました?
そうですね、50タイトルぐらいかな。もともとが狭すぎたので。1Kの部屋に本棚が1つあって、「この棚が店です」みたいな。
(笑)! その後、中津のお店も手狭になったということで2017年に、此花区にある現在の店舗に移転されるわけですが、なぜ千鳥橋に?
特に場所にこだわりはなかったので、大阪市内がいいなってくらいで。北加賀屋とかもアートで町づくりみたいなことをしていたので見に行ったりしたんですけど、<見っけ!このはな>っていうアートイベントの物件ツアーでここを知って、いいなと思って。
ありましたね、<見っけ!このはな>。空き家をアーティストに貸したり、展示やワークショップなどいろいろなイベントを開催していた記憶があります。
そういうのもあって、アートで盛り上がる街なのかなと思ったんですけど、でもその翌年から<見っけ!このはな>がなくなってしまって(笑)。でも最近はまた少しずつお店も増えてきて、またちょっと活気が出てきました。

とは言え、中津に比べると千鳥橋はマイナーな印象がありますが…。
中津も最近はちょっとイケてる感じになってますけど、当時はシャッター商店街で昼間は暗いし、なんで中津で店やってるんですか?って言われるぐらいの感じだったんですよ。そもそも『シカク』は特殊な本を売ってるので、通りすがりで入ってきても買わないんです。何ここ?って感じで入って来て、何ここ?のまま帰っていくので(笑)
そうなんですね(笑)!ちなみに、『シカク』という店名にはどんな由来があるんですか?
空白みたいな、スペース的なイメージで。本も売るしイベントもするし、いろいろやりたいなと思っていたので、本だけの印象にならないようにと思って。

余白の四角、みたいな。最初は本当に記号の□だったんですよね?
そうです。でも検索に引っ掛からなくて。調べられないから、シカクになりました。

竹重 みゆき
大阪府枚方市出身。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主。
専門学校卒業後、就職せずに“お店屋さんごっこ”感覚で、住居兼店舗の1Kからミニコミ誌ショップ『シカク』をスタート。中津商店街への移転を経て、2017年より千鳥橋に拠点を移し、ミニコミ、リトルプレス、CD、雑貨、衣類など、普通のお店に置いているけど普通の人は買わないようなニッチなアイテムを集めたセレクトショップとして営業中。展示やイベントも開催し、出版レーベルとしても活動。