愛嬌たっぷりの小さなぬいぐるみにときめいて。ぬいぐるみ作家「tick’n’tack」のaska.さんに聞いた、もの作りの原点とぬいぐるみへの深い愛。

全長わずか4cmほどの小さな小さなぬいぐるみを作る「tick’n’tack」のaska.さん。彼女が手掛けるぬいぐるみは、コンパクトすぎるサイズ感と口元からちょこんと覗く2本の前歯が特徴。作品を販売するたび問い合わせが殺到し、拠点とする関西のみならず日本全国、はたまた海外のファンもたくさんいる話題のぬいぐるみ作家です。手のひらサイズの落書き帳に描きつけたゆる〜いイラストから生まれる小さな“おともだち”は、動物からお寿司、文房具まで、そのモチーフはさまざま。首が動かせたり衣類の着脱ができたりと、思わずクスッと笑ってしまう遊び心溢れるギミックにもときめきます。今回は、6月上旬に初めての本「ちいさな ちいさな ぬいぐるみ」をリリースしたばかりのaska.さんにインタビュー。ぬいぐるみ作家になったきっかけやぬいぐるみへの愛、密かに抱いている野望まで、たっぷり話を伺いました。これを読めばきっとあなたも、おうちにいるぬいぐるみたちに「久しぶり。元気にしてた?」と声をかけてみたくなるはず。ぬいぐるみへの愛に溢れたaska.さんワールド、ぜひ楽しんでください!

学生時代の夢はイラストレーターでした。自分の落書きをベースに、前歯が2本ちょこんと付いた小さなぬいぐるみを作っています。

ぬいぐるみ作家として活動を始めたきっかけを教えてください。

私の原点はイラストなんです。幼い頃から絵を描くのが大好きで、中学生か高校生くらいの頃はイラストレーターの326(ミツル)さんに憧れていました。その方が絵を学べる専門学校を出ていると知り、同じく専門学校を目指すことに決めたんです。地元には専門学校がなかったので、高校2年生の頃から親に内緒で学校説明会に参加していました。そしたら実家に電話がかかってきて、親は私がそんなことしてるのを知らないし就職するものと思っていたからびっくりしちゃったみたいです。そこで初めて「高校を卒業したら絵の勉強がしたい」と親に伝えると、推薦で専門学校に行けるだけの成績を取れたらいいよって言ってくれて。当時は評定がアヒルちゃん(2)だらけだったので必死で勉強して、受験前は友達に数学を教えられるほどになりました。努力の甲斐あって無事合格し、大阪のデザイン専門学校のビジュアルデザイン専攻に入学しました。

もともとイラストレーターを目指していたんですね。

その気満々だったんだけど、やっぱり自分より上手い子がたくさんいて。すごい子は突出して上手やし、センスもずば抜けてるし、ふと出てくるアイデアもめちゃくちゃおもしろいんです。これは敵わんなぁと、自分の才能に限界を感じてしまいました。2年生に上がる時に、イラスト、雑貨プロデュース、インテリア、CG、グラフィックデザインからコースを選択しなきゃいけなくて。「イラストレーターで食べていきたいけど迷ってる」とイラストの先生に相談したら、「これからの時代はMacが使えた方がいいから、迷ってるならグラフィックデザインに行け」と言われてデザイナーを目指せるグラフィックデザインコースを選びました。だから専門学校の最後の1年はデザインしたりロゴを作ったりする勉強をして、卒業後はデザイン事務所に就職しました。

デザイナーからぬいぐるみ作家にはどうやって辿り着いたんですか?

イラストレーターの夢は諦めて、デザイン事務所で頑張っていたけど、なんだかずっとモヤモヤしていて。専門時代の友人が会社に所属せずアクティブに活動している姿を見ると、私は本当にこれでいいのかと自問自答していました。そんな時にブライスっていう人形にハマって、着せ替え用のお洋服を作り始めたんです。もともとお裁縫は苦手だったけど、好きこそ物の上手なれって感じでそれなりに楽しく作っていました。だけど続けていくうち、既製品の人形に洋服を着せるだけじゃオリジナリティを感じなくなってしまったんです。だけど方向性は近いような感覚はありました。そこで原点に立ち返った時、自分はもともと絵を描くのが好きだったことを思い出して。じゃあ好きなことと苦手なことを合わせてみようと、落書きのようなイラストを元にぬいぐるみを作り始めました。ちなみにこれが最初に作ったテディベア(下の写真左)です。

左にいるのが、ピーナッツ型のボディを生かして作ったaska.さんのファーストテディ。右がこくまん。

めっちゃ小さい(笑)。かわいすぎます!

手足が動くように作ってみたけど、まだ作り慣れていないのでプルプルしてます(笑)。その子を作った後、もうちょっと大きい子を作ってみようとサイズアップして、おまんじゅうみたいな顔をした「くまん(くまのおまんじゅう)」を作り始めました。それをもう少しコンパクトなサイズ感にアレンジしたものを「こくまん」と呼んで、今でも作り続けています。このシリーズが友達や知り合いにも好評で、この時からぬいぐるみ作家としての活動をスタートしました。

aska.さんのぬいぐるみがそんなに小さいのはどうしてですか?

いつもイラストをベースにぬいぐるみを作っていて、そのイラストがそもそも小さいんです。画用紙やキャンバスが大きいと理想のバランスにならなくて、1番自分の思い通りに描けるのがこのサイズ感。大胆にでっかく描いていくより、落書きをするように端っこの方からちまちま描いていくのが好き。下書きなどは一切せず、寝る前などに描きつけています。

ミニサイズのお絵かき帳に小さなイラストがぎっしり。眺めているだけでワクワクします。

イラストがベースになっているから、作品の線にゆるさがあるんですね。平面から立体に落とし込むのって難しくないんですか?

後ろ姿なんかは作りながらその都度考えています。型紙も特になく、イラストを元に布に直接型を描いて、それを切って縫うのが私のスタイル。時々開催しているワークショップの1つに、お客さんが描いてきた落書きを元にその場でキットを作り、それをぬいぐるみにしていくっていうのがあるんです。この間は古墳を作った方もいました。自分にない発想を持ってる方がたくさんいらっしゃるので、私も刺激をもらっています。

1円玉と比べてもこのサイズ感!「思っていたより小さい」と言われることが多いそう。

aska.さんの作品は即興的な要素もあるんですね。モチーフのチョイスもかなり独特ですが、どんな風に選んでいるんですか?

私は日常に根差したプロダクトがどうしようもなく好きで。例えば、傘や靴って長年形が変わらないじゃないですか。それってすごいことだと思うんです。ヤカンや絆創膏、タバコなんかは普遍的なデザインへのリスペクトを込めて作っています。なかでもタバコはSNSで色んな人からアクションをもらいました。私はタバコを吸わないけど、フォルムが可愛いなぁと思うんです。しかも人のストレスを軽減するために数分だけ燃えて終わっていく儚さ。そこにキュンとしちゃって。タバコが1番輝いているであろう煙が出ているシーンを、ぬいぐるみにして切り取りました。

タバコを“可愛い”って思える感性が素敵です。歯がちょこんと出ているのも特徴ですが、どうしてですか?

なんとなく自分に似ているからなのかなぁ。もともと出っ歯がコンプレックスで、小学生の頃に矯正したんです。なのにぬいぐるみには前歯を付けていて……、どうしてなんでしょうね(笑)。ペットやぬいぐるみって自分に似てくるってよく聞くから、もしかすると無意識に自分と重ね合わせているのかも。初めて歯を付けたのは、アー写に使っている目が青い白クマちゃんなんです。だから白いボディで青い目の子を作ると、それを知ってるファンの方がサッと買ってくださることも多いです。7年前くらいから、ほぼ全ての作品に歯を付けるようになりました。

こちらは初期の作品。歯が出ている子と出ていない子が混じっています。

ぬいぐるみに付いてる歯は随分小さいですが、何を使っているんですか?

ずっと前に購入したスウェードのリボンです。1m分買ったんですが、ちょっとずつしか使わないので燃費がめちゃくちゃいいんです(笑)。目もここまで小さなサイズのものが市販にないので、1つひとつ自分で作って使っています。

何十年も受け継がれていく民芸品のようなもの作りがしたい。私の本を手に取った方には、もの作りの楽しさを感じてほしいです。
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Profile

aska./tick’n’tack

高知出身、大阪在住。関西を中心に、海外でも展示を行うぬいぐるみ作家。落書きのようなイラストを元に作るぬいぐるみは、想像を超えるコンパクトなサイズ感で「思っていたよりも小さい」と話題。世界中に熱狂的なファンを持ち、手掛けた作品は販売と同時に即完するほど。

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