加古川をカルチャーの街に!『Factory No.079』の岩本卓也さんが、地元を盛り上げるために歩んできた15年の軌跡と、これから見たい景色。
何もないなら、作っちゃえばいい。「0から1を生み出す」って言葉はよくあるし、口にするのは簡単だけど、本当に実現していくにはパワーも時間も、並々ならぬ想いも必要。今回取材させていただいた『Factory No.079』の岩本卓也さんは、生まれ育った地元の加古川を盛り上げていくために、街の内側と外側に向けていろんなアクションを起こし続け、「最近、加古川がおもしろいらしいよ」という噂の原動力になってる人です。神戸と姫路に挟まれた街で、どんな想いを持って活動を続けているのか。加古川をどんな街にしていきたいのか、じっくりと話を聞いてきました。そして、『Factory No.079』の15周年記念で行われたART SHOW『SORE TO KORE』のために来ていた、加古川出身のアーティスト・NAOKI SAND YAMAMOTOさんと、2人と親交のあるMHAKさんを交えて、街をぶらりと巡るロケも敢行。いろんな話が飛び交う中で見えてきた街の姿、岩本さんの活動を通じて、加古川に興味を持ってもらえるとうれしいです。「街は人がおもしろくする」というMARZELの編集テーマにぴったりな岩本さんと加古川に、ぜひ注目してください!!
神戸ではなく、あえて地元の加古川で独立。それは、都会への憧れを持った若い子たちに、いろんな影響を与えていきたかったから。
岩本さんは地元の加古川でいくつかお店を展開されてますが、最初に『Factory No.079』を立ち上げた経緯から聞かせていただければと!
昔からスケボーしたり、DJしたりしてて、アメリカへの憧れがずっとあったんです。お金を貯めて遊びに行くのもいいんですが、定期的に行けるようにするにはどうずればいいか考えてて、高校の時もポロ・ラルフローレンに就職したいなと思ってました。でも、日本のラルフに入っても、アメリカにはなかなか行けないなと(笑)
ステップアップが必要ですし、すぐには難しそうですもんね。
それでよく通ってた地元の古着屋のオーナーに相談したら、「うちにおいでよ!」と誘ってくれたので就職することにしたんです。その古着屋のあった場所が、今『Factory No.079』のある場所。
そうなんですか!?ってことは、古着屋さんを引き継いだと?
店を引き継いだわけじゃなくて、この場所を引き継がせてもらったんです。古着屋では10年くらい働いて、アメリカにも買い付けに行ったりして本当にお世話になりました。でも、15年前に古着屋が閉めることになり、その流れで僕も独立することになってね。
なるほど。ちなみにこの場所以外の選択肢はなかったんですか?例えば、神戸の方とか。
もちろん神戸も考えましたが、あんまりピンとこなくて。やっぱり地元でやるのがいいかなと思ったんです。
慣れ親しんだ場所だし、思い入れもありますもんね。
地元を盛り上げたい気持ちもありましたし、他の街を見たことでこの場所も、この空間も好きなんだと改めて実感しました。『Factory No.079』を始めてから商品のラインナップや空間は古着屋時代とはガラッと変わってますけど、店の中から眺める外の景色は変わってない。入口の奥に1本の木があるんですが、あの景色をもう25年眺めてますね(笑)
お店の中から眺める外の景色、めっちゃいいですね。みんなが集まってチルってる感じは、絶景的なものとは違う素敵な光景やと思います。そういった景色もそうですし、岩本さん的に地元にお店を持って良かったと感じるのはどんなことがありますか?
他の街で商売をしたことがないので比較はできないですが、僕も子どもがいて、若い子はみんな都会に憧れてます。昔の僕もそうだったんですけどね。でも、加古川に都会的なものがあれば子どもも離れなくていいし、若い子たちにいろんな影響を与えていけるのかなと。
SNSがある今、情報はすぐにピックできますし、オンラインで買い物もできるけど、それをリアルに味わえる場所がすぐ近くにあると、体験の質は絶対に変わりますよね。
地元の若い子たちもよく来てくれますし、ここで音楽やカルチャーに触れて「DJしたい!」って子には、僕が教えたりもしてます。その中にはdhrma(ダーマ)っていうヤツがいて、今ではビートメイカーとして全国的に活躍してるので、何かを始めるきっかけの一部になったのかなと思うと、すごくうれしいですね。
この景色からいろんな若い子たちが巣立っていったんですね。
自分が若い時にこんな店があったらよかったなって思うし、これからもそんな若い子がたくさん出てくるといいなと。
FROM加古川な子たちが、きっとどんどん出てくるんじゃないですかね!ちなみに岩本さん自身もGREENWORKS名義で全国各地でDJされてますが、始めたきっかけは?
加古川は昔、めちゃくちゃヤンキーが多かったんですよ(笑)。でも、僕らのちょっと上の先輩たちがスケボーを始めてて、そこには今もお世話になってるプロスケーターで写真家の荒木塁さんや、<SAYHELLO>のNAOKIさんがいました。当時は気軽に話せるような関係ではなかったんですが、そんな先輩たちの姿を見て僕らもスケボーを始め、スケートビデオなどを見て音楽にも興味を持つようになった感じです。DJを始めた頃はモテたいというミーハー心もあったけど(笑)、やっていくうちに本質がわかってきたというか、そんな浅はかなものじゃないなと。
環境というか、岩本さん自身も先輩たちの影響を1つのきっかけにして、カルチャーシーンに浸かっていったんですね。
スケボーはもうできないですが、おっさんになってもレコード愛だけは消えませんね。『Factory No.079』にレコードショップを併設してるのも、そんな理由があるからなんですよ。
ちゃんとDIGれる量のレコードがあるのは、音楽好きや若い子にとってはうれしい限りかと。岩本さんは『Factory No.079』の他に飲食店もされてますが、そこにも何か始めた理由があったんですか?
ずっと服屋をしてますが、店でイベントもしてたので、その後に遊ぶ場所がなかったんですよ。若い子も増えてきてたので、みんなで遊んだり、カルチャーの話をしながら飲める場所が欲しかったし、必要だなと思って。それで2016年2月に、多国籍料理を出す『079BUILD』を友だち4人とスタートさせました。
『Factory No.079』に続き、若い子やこの街のために次の場所を生み出したと。でも、飲食業は全くの異業種だし、料理とかはどうしてたんですか?メンバーの中に料理人がいたとか?
いいえ、最初の頃は僕がやってました(笑)。お客さんに「どう?うまい?いける?」って、聞きながら。めちゃくちゃいい風に言えば、お客さんも店作りに参加してる感じですが、ようやってたなって思います。
ノリと勢い、大切ですよね。それに、地元だからこそのメリットもあったのかなと。
昔からの友だちには本当に助けてもらいました。そういう面でも、地元でよかったなって(笑)
持つべきものは、友ですよね。その後の飲食店の展開としてはどんな感じで?
友だち4人で始めた『079BUILD』は最終的に僕が引き受けることになりましたが、、2021年3月に焙煎所を併設したカフェ『ROOM2 COFFEE & ROASTERS』を立ち上げ、昨年までは地元の日岡山公園にある複合施設の中で大バコのレストランもしてました。でも、ちょっと忙しすぎて手に負えず、僕もそこにつきっきりで他のことができなかったので、譲渡することにしたんですよ。で、僕もだいぶ身軽になったなと思ってたら『079BUILD』の場所が立ち退きになり、別の場所で『NEW BUILD』としてリスタート。なので、現在は2つの飲食店も経営してる感じになります。
けっこうトントン拍子の展開じゃないですか。それに『NEW BUILD』は、加古川の名店の跡地を引き継いだと聞きました。
元々は『エデン』という洋食屋さんのあった場所なんです。加古川市民なら誰もが知ってる店で、“エデンのカツメシ”という認知度がブランド化してるほど。そんな店だったから、閉店して1年くらい経ってるのに誰も手をつけてなかったんです。
エデンの跡地に入るのは、それなりの勇気もいると。
でも、僕はあんまり気にしないので、「じゃぁ、入りまーす!」って感じで。最初はみんな「エデンが復活した!」と勘違いして食べにきてましたね。「カツメシはあるけど、エデンではないですよ」って毎回説明してたくらい、加古川の中では有名な店の跡地で『NEW BUILD』を始めました。それが今年の3月ですね。
それだけ人気のあった店の跡地で、カツメシも提供してるとなれば、プレッシャーもあったんじゃないですか?
加古川市民に愛されてた店の跡地だし、もちろんプレッシャーもありましたけど、それが飲食業をさらに楽しめてる要因にもなってますね。妻も背中押してくれますし、独立して『Factory No.079』を立ち上げる時も「いつかやるんやったら、早くやり!ダメになったらその時考えたらいいし」って応援してくれるので。まぁ、「いつになったら私をラクにさせてくれんのよ」と、よく言われてますけどね(笑)
岩本 卓也
兵庫県加古川市出身。生まれ育った地元で、セレクトショップ『Factory No.079』、カフェ『ROOM2 COFFEE & ROASTERS』、レストラン『NEW BUILD』を展開。GREENWORKS名義でDJとしても活躍し、音楽レーベル『SOUL POT RECORDS』を主宰。全国各地を飛び回りながら、加古川の知名度を普及させるための活動を続けている。
https://www.instagram.com/factory079
https://www.instagram.com/soulpotrecords
https://www.instagram.com/newbuild_079
https://www.instagram.com/room2mrc
https://www.factory079.jp/
NAOKI SAND YAMAMOTO
兵庫県加古川市出身。プロダクトにアパレルデザイン、ライブペイント、ミューラルなど、場所や手法を超えて表現を楽しみ、国内外のアートシーンで活躍するグラフィックアーティスト。ストリートで人気のブランド<SAYHELLO>を主宰し、アーティストコレクティブ『81BASTARDS』の一員でもある。
MHAK as MASAHIRO AKUTAGAWA
福島県会津若松市出身。ペインター/アーティスト。デザイナーズ家具や内装空間に多大な影響を受け、絵画をインテリアの一部として捉えた“生活空間との共存”をテーマに制作活動を行う。グローバルからストリートまで、様々なブランドにアートワークを提供。アーティストコレクティブ『81BASTARDS』の一員でもある。