中学校の先生から盆栽の道へ。若き盆栽作家・伊藤壮吾さんが担う、日本の文化、伝統を次代に繋いでいくための役目。


幹の太さ、木の肌の荒れ方で樹齢を考えたり、葉っぱが落ちた裸の姿から枝ぶりを見たり。始めた頃は「葉っぱないやん!」と思ってましたが(笑)、盆栽には細部に至るまで見どころがあるんです。

伊藤さんがハマった、この奥深い世界。日々、盆栽と向き合う中で大切にしてることって何でしょうか?

時間をかけること、数を増やし過ぎないことですね。数の部分は1人だからできないという現状もありますが、1つ1つの盆栽にとにかく丁寧に向き合うことが大切だと思ってます。これは聞いた言葉ですが、盆栽は管理してる時間よりも、見る時間が大事なんです。剪定するにしても、ハサミをどの角度で入れるかとか、2本の枝のどっちを切るかなどで、盆栽の印象は大きく変わりますからね。じっと眺めながら考えてると、自然とベストな選択が見えるようにもなってくる。そして、丁寧かつ慎重にすることですかね。

「先人から受け継いだものを育てさせてもらってる」と言ってましたし、マインドだけじゃなく、作業としてもそうあるべきだと。ちなみに1つの盆栽を作品として作り上げる期間って、それくらいかかるんですか?

例えば大きな展示会に出品するための作品なら、数年単位でかかります。植え替えて、枝をしならせるために針金をかけて、剪定していくことを一気にするのは木に負担がかかるからダメなんです。だから、この盆栽の植え替えは今年して、こっちの盆栽は針金をかけてという感じで、何年もかけて完成に近づけていくのが盆栽。1ヶ月追い込んで一気に作るとかは、そもそもないし、できないんですよ。

気長にやるというか、それだけじっくりと向き合いながら育てるから、美しい盆栽になっていくんですね。

盆栽を始めたばかりの頃は「一気にやりたい!」気持ちがありましたけど(笑)、さすがにやったらあかんなと。

伊藤さんが育てて管理してる盆栽たち。

でも、知らなかったら一気にやってしまいそうです(汗)。ちなみに伊藤さんが盆栽を見る時は、どの部分からチェックしていくんですか?

まずは木の肌とかを見ながら樹齢をチェックして、枝ぶりを見ていきます。真っ直ぐのものもあれば、美しくうねってるものもあるし、枝ぶりにはやっぱり惹かれるんですよ。「こんなうねりが生まれるんやぁ。なんでそうなるんやろ」と、ついつい見入ってしまう。そこから葉の付き方、全体的なシルエットを見ていく感じです。

樹齢や枝ぶりを見るんですね!素人だと全体のシルエットに目がいきがちですが。

樹齢は幹の太さ、木の肌の荒れ方がポイントになりますね。それと盆栽の中にも、いくつか種類があるんです。例えば松や真柏といった常緑樹を使い、1年中葉っぱが茂ってるもの。紅葉や楓などの落葉樹を使い、四季の移ろいで葉っぱの姿が変わるものとか。紅葉や楓を使った葉もの盆栽だと、冬は葉が落ちるのでリアルな枝ぶりが見れて、枝の表情とかうねりを細かくチェックできるんですよ。

こちらは橋本さんの盆栽園で見せていただいた、枝ぶりの分かる盆栽。葉っぱの落ちた時期だから見れる光景です。

なるほど!素人発言で申し訳ないんですが、葉っぱのない盆栽は失敗して枯らしたのかと思ってました(笑)。確かに松や真柏と違って、紅葉や楓は葉が落ちますもんね。枝ぶりを見る、そういう楽しみ方にも気づきました!

自分も最初は不思議やったんですよ、「枯れてるやん!葉っぱないやん!」って(笑)。でも、やっていくうちに気づかされましたね。盆栽における枝ぶりの大切さに。

改めて見させてもらうと、めちゃくちゃ細かいですもんね。枝ぶりってこんなにも繊細なのかと。ちなみに、土の上に苔が貼られた盆栽があるじゃないですか。あれは何か意味があるんですか?それとも自然に生えてきたとか?

苔を貼ってるのは、展示会などでの見栄えをよくするための演出なんですよ。まぁ、お化粧するみたいな。盆栽を育てる環境としては、本当はない方がいいんですけどね。展示会などでの演出で言えば、盆栽に合わせる鉢も重要なんです。仮に1000万円の盆栽だとしたら、最低でも100万円の鉢を合わせたりします。高級なスーツを着てるのに、安い革靴じゃダメってこと。普段は成長させるための鉢で育てるけど、展示会を控えてる時はお出かけ用を合わせる、そんな感じですね。この辺りの知識も、いろんな展示会を巡りながら橋本さんに教えてもらいました。

苔はお化粧、鉢は靴、すごい分かりやすいです。身近に橋本さんという偉大な方がいて、本当によかったですね。日々、盆栽に触れながら、伊藤さん自身もどんどん成長していってるのかなと、話を聞いてて感じます。

展示会などでいろんな作品を見ることも大事ですし、尊敬する方々の技や心意気を間近で見れるのはめちゃくちゃラッキーやと思います。橋本さんはもちろん、兵庫県加西市にある『盆栽翠松園』の松末さんにもすごくお世話になってるから、正直、日本で一番恵まれてる環境にいるなと。橋本さんとか、「これ持って行け!あれも持って行け!」って感じで、いろんな盆栽や鉢をいただいてますから(笑)

伊藤さんの人柄とか熱意もそうさせる理由じゃないですかね。ちょっと気になったんですが、盆栽は受け継いでいくものでありつつも、その元になる木はどうやって仕入れてるんですか?ゼロから自分で育てるってこともあるんですか?

ゼロから自分で育ていくのは、ほぼ不可能やと思います。すごく小さなものでも10〜20年かかるから、盆栽園や盆栽農家さんが育てたものを手に入れて継承していく。あとは高齢になって育てるのが難しくなった方から譲り受けたり、託されたり。盆栽を育てるのは本当に時間がかかるので、人生をかけたとしても足りないんですよ。

まさに継承ですね。

1人で育て続けるには限界がありますし、育てる人間が変わりながら受け継がれていく。それが盆栽なんです。

盆栽にはそんな物語があるんですね。バトンを繋ぐように継承していく、すごい素敵なことだと思います。

その物語を想像したら、めちゃ興奮するんです。「この盆栽は樹齢◯◯年くらい」という話を聞くと、育ててきた人のことを考えたり、どんな場所で育ててきたんかなとか、想いがどんどん巡り始めて興奮が止まらなくなる(笑)

この奥深い世界は、ロマンそのものかも。

今、自分は育てさせてもらってるけど、次の人に繋いでいくことを考えると、どこまでも丁寧になるし、慎重になる。そして、盆栽作家としての活動を通じて盆栽好きが増えれば、継承されていくチャンスも増える。盆栽の魅力を伝える、広めていく活動の原点は、やっぱりここにあると思いますね。

日本の文化、伝統を繋いでいくのが自分の役目。そして、盆栽と言えば伊藤壮吾!そう言われる存在になっていきたい。
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Profile

伊藤 壮吾

盆栽作家。1998年、大阪府堺市生まれ。大学を卒業後、中学校での体育の先生を経て、盆栽作家に転身。「古風な生き方」を人生のテーマにし、盆栽の魅力を伝える、広める活動を続けている。また、日本に古くからある履物や和服を次代へと繋いでいくために、ジャパニーズカジュアルブランド<DANJI JAPAN>も設立。盆栽を軸に、日本の文化や伝統を独自の視点で発信、表現するスタイルが注目を集めている。

https://danji-japan.stores.jp/

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