中学校の先生から盆栽の道へ。若き盆栽作家・伊藤壮吾さんが担う、日本の文化、伝統を次代に繋いでいくための役目。


日本の文化、伝統を繋いでいくのが自分の役目。そして、盆栽と言えば伊藤壮吾!そう言われる存在になっていきたい。

盆栽作家としての活動があってこそだとは思うんですが、伊藤さん自身のスタイルもかっこいいなと。半纏や下駄など、普段の服にも日本文化を昔から取り入れてたんですか?

このカッコをするようになったのも、盆栽を始めてからですね。それまではほぼジャージですし、ネットで見つけた流行りの洋服とかを着てました。盆栽をきっかけに身の回りの日本文化にも興味を持つようになり、半纏や作務衣、下駄、数珠などを愛用するうちに、こういうスタイルも広めたいなと思って。今は大阪の職人さんと一緒にブランドも始めたんです。

ファッションのブランドですか?

そうですね。日本の伝統を落とし込んだジャパニーズカジュアルブランドで、<DANJI JAPAN>という名前でスタートしてます。まずは、下駄から作ったんです。昭和30年代まではほとんどの男性が下駄か雪駄を履いてましたが、現代ではその文化も失われつつあります。そんな現実が悔しかったのもあるし、今でも下駄を履いてるおっちゃんたちの姿を見たら、やっぱりかっこよかった。これが本当のジャパニーズカジュアルやなと。自分も改めて好きになった履物や和服を着用する日本男児がどんどん増えて、海外からも日本のファッションは「素晴らしい!」と言われる風潮を作る。それがブランドの立ち上げた理由であり、目標ですね。

ファッションも盆栽と同様に、伝える、広める、そして残していくという役目を担おうとしてるんですね!

実際、盆栽園などをしてる人も減ってますし、下駄を一緒に作った方は大阪で最後の職人さんなんです。日本の文化や伝統が失われていくのが嫌だし、その現状をどうにかして打破していきたい。それも自分の役目だと思ってます。

好きという気持ちと、この役目を担うことが日々の活動の原動力になってますが、盆栽に触れたり、履物や和服を着用する自身の姿を客観的に見てどう思ったりしますか?

盆栽は中国から伝来したと言われてますが、今のかっこいい存在へと昇華させたのは日本だし、履物や和服も時代とともに育まれてきた日本の生活に由来してる。メイドインジャパンのものに触れる、着用することは、自分の中ではすごく誇らしく感じてるんです。

写真右は、シルバーのリングに盆栽を刻印したお手製のもの。

自身の好きなもの、好きなことに誇りを持てるって、素晴らしい。ひょっとすると、ごはんも白米と味噌汁がマストだったりして?

白米と味噌汁も大好きですけど、食に対してはそこまでのこだわりはまだないですね。友だちとごはん行く時も、とりあえずタバコ吸える店だったらどこでもいい感じなんで(笑)

(笑)。でも、タバコ吸ってる姿もシブいっすよ。

マジですか!?タバコ吸ってる姿をSNSにアップしたら、いろいろ言われるんですけどね(笑)。ちなみにライターじゃなくて、マッチ派です。

そこも徹底してる。スタイルの部分には伊藤さんのこだわりがギュッと詰まった感じですが、生き方の部分でのこだわりってありますか?もしあれば聞かせてほしいなと。

会いたいと思った人には絶対に会いに行きます。SNSを通じて知り合っても、「こんなことしてはるんやぁ」と興味を持つと、すぐ会いに行ってしまうんです。実際に話をして共感し合えたら、またおもろいことを生み出せるかもしれないですし。きっかけはSNSだったとしても、この現代的なツールがあったおかげで出会いは広がったので、これからも繋がり合うことは続けていくと思います。

どんどん動いていくのは、伊藤さんの信条ですもんね。

僕は何もない人間なんですよ。でも、いろんな人に世話になってきて、盆栽の活動も人の助けがあったから続けてこれた。本当に周りの人の力のおかげで今の自分があるんです。だから、ちゃんと恩を返したい。そう思いながら生きてるのも、自分の中でのこだわりかもしれません。

義理と人情というか、感謝の想いを忘れないことも、伊藤さんを突き動かしてる要因なんですね。盆栽作家として独立した当初はご両親も反対されてたと言ってましたが、今はどうですか?

今は応援してくれてます。「今日も頑張ってんなぁ」って感じで。まぁ、こいつには何言っても無理やなと思って、諦めてる部分もあるでしょうし(笑)

好きなことに没頭できてることを喜んでるんじゃないですかね。伊藤さん自身、盆栽と向き合ってる時はどんな精神状態なんですか?例えば、作業する前にモチベーションを上げるための何かをしてるとか。

そういうのは一切ないですね。目の前の盆栽に、ただひたすら向き合うだけ。モチベーションに対する意識なんか、そもそもないと思ってます。

それはどういうことでしょう?

どれだけ盆栽と触れ合ってきたかなど、自分の中の経験値が自信になるし、自信が生まれるほどに気持ちは勝手に高まっていくと思うんですよ。やればやるだけ、自分のためになる。しかも好きなことだから夢中にもなれるし、レベルアップにも繋がっていく。その積み上げ方を分かってるから、日々のモチベーションなんか意識してないんですよ。やる時はやる、気合を入れてって感じで。

日々の積み重ねがあれば、やる気スイッチなんて必要ないと。どんどん貪欲になるし、その方がナチュラルですよね。例えば植物とかに水をやる時に「大きくなってね」とか、声をかけたりする人も多いと思うんですが、伊藤さんは盆栽に声をかけたりもするんですか?

それも別にないですね。意識は盆栽に向けてるから「こいつはちょっと水足りてないなぁ」とか「このラインを揃えた方がキレイなぁ」とか、常に気づきはありますけど。

なるほど。盆栽は、見る時間が大事と言ってましたもんね。ってことは、音楽をかけることもない?

集中してて時間もあっという間に過ぎてるので、聴き入ってることはないですが、たまに音楽をかけることはありますね。そこは無意識で、なんとなく今日は音楽をかけようかなって感じで。

ちなみにどんな曲を?

その時の気分によって違いますけど、邦楽や流行ってる洋楽、ヒップホップとか、オールジャンルですよ。

例えば?(笑)

めちゃ聞きますね(笑)。まぁ、矢沢永吉の『I LOVE YOU , OK』とか、尾崎豊の『COOKIE』とか…。

へぇ〜!世代的にはかなり上の曲ですが、いつ頃から聴いてたんですか?

高校生の頃ですね。当時、カラオケが上手いとモテるって聞いてたので、友だちとカラオケに行きまくってる時期があって…(笑)。でも、最近の曲ってめちゃくちゃ難しいじゃないですか。全然上手く歌えないから、昔の曲ならまだイケるかなと思って、そこから聴き始めて歌うようにもなったんですよ。

そういう物語があったとは!ぶっちゃけていただき、ありがとうございます。でも、人生って不思議ですよね。コロナ禍になる前は、盆栽作家になるなんて伊藤さん自身も想像してなかったでしょうし。

そのまま体育の先生を続けてたかもしれないですからね。当時と比べると、さらに変な感じになったというか、こじらせてきてるなぁと(笑)。でも、自分の中では、先生を超える素敵な仕事に出会ってしまったんでね。

めちゃかっこいいと思いますよ。伊藤さんのいろんな姿が見えてきましたが、盆栽作家としてこれからチャレンジしたいこと、実現していきたいことを最後に聞かせてください!

まだまだ勉強中&修行中ですが、盆栽を次代へと受け継いでいくための活動をずっと続けていきます。盆栽と日々向き合い、盆栽の魅力を伝えていく、広めていく。これは自分の役目だと思ってますし、そこから派生したブランド活動も含めて、日本の文化や伝統のバトンを繋げていきたい。最近は少しずつですが、自分の周りでも盆栽や日本の文化、伝統に興味を持ってくれる人も増えてきてるので、その流れをさらに遠くの人にも向けていきたいですね。

今回のインタビューが伊藤さんの活動に少しでも役立てば、僕らもうれしいです。

あとは、今は実家の庭が作業場になってるので、自分のアトリエを持つことも目標です。SNSでの発信だけでなく、リアルな場があることで人も集まりやすくなるし、そこで談笑しながら伝えることができれば、伝わり方も変わってくるかなと。自分も展示会などで実物を見て驚いたり、興奮したりしてきたので、そんな場を作っていきたいですね。

百聞は一見にしかず、的な。ホテルや飲食店、ギャラリーでの展示などでも、伊藤さんの盆栽を見ることはできると思いますが、展示会への出展の予定はあったりするんですか?

昨年は盆栽作家として独立したばかりだったので展示会への出展はしてませんが、今年は日本盆栽大観展に出したいと思ってます。日本最大級の展示会なんで、楽しみにしておいてもらえれば!そういった出展も精力的に行いつつ、大阪を拠点に活動してるので、関西のもっといろんな場所にも盆栽を置き、たくさんの人に見てもらえる機会を増やしていきたいですね。そして、盆栽と言えば伊藤壮吾!そう言われるまでの存在になっていきたいと思ってます!!


<伊藤さんのお気に入りスポット>

龍安寺(京都府京都市右京区龍安寺御陵ノ下町)
枯山水の石庭で有名な世界遺産のお寺です。仕事帰りにフラッと立ち寄って、あの美しい枯山水の石庭を眺めながら勉強させてもらってます。

盆栽翠松園(兵庫県加西市別府町)
橋本さんと同様に、めちゃくちゃお世話になってる松末さんが営む盆栽園です。店舗販売もされてて一般の方も入れるので、ぜひ足を運んでもらいたいです。マジですごいレベルの盆栽が揃ってるので!

123
Profile

伊藤 壮吾

盆栽作家。1998年、大阪府堺市生まれ。大学を卒業後、中学校での体育の先生を経て、盆栽作家に転身。「古風な生き方」を人生のテーマにし、盆栽の魅力を伝える、広める活動を続けている。また、日本に古くからある履物や和服を次代へと繋いでいくために、ジャパニーズカジュアルブランド<DANJI JAPAN>も設立。盆栽を軸に、日本の文化や伝統を独自の視点で発信、表現するスタイルが注目を集めている。

https://danji-japan.stores.jp/

CATEGORY
MONTHLY
RANKING
MONTHLY RANKING

MARZELでは関西の様々な情報や
プレスリリースを受け付けています。
情報のご提供はこちら

TWITTER
FACEBOOK
LINE