愛嬌たっぷりの小さなぬいぐるみにときめいて。ぬいぐるみ作家「tick’n’tack」のaska.さんに聞いた、もの作りの原点とぬいぐるみへの深い愛。
何十年も受け継がれていく民芸品のようなもの作りがしたい。私の本を手に取った方には、もの作りの楽しさを感じてほしいです。
aska.さんにとって、ぬいぐるみは小さい頃から身近な存在だったんですか?
子どもの頃は、ぬいぐるみが好きって特に意識したことはなくて、当たり前に家にあるものという認識でした。私は2人姉妹なんですが、親戚が旅行に行くたびクマとウサギのぬいぐるみを買ってきてくれていて、やたらぬいぐるみが多い家ではあったかな。
捨てられそうなぬいぐるみを救う保護活動も積極的にされていますよね。
骨董市に行ったりリサイクルショップを回ったりして、捨てられそうなぬいぐるみを保護しています。段ボールの奥底でぺちゃんこになってる子を救ってあげて、ケガをしてたら手術して汚れてたらお風呂に入れてあげたりとか。
SNSで活動の記録をアップされているのをよくお見かけします。
Instagramのストーリーズに保護したぬいぐるみをアップすると、たまに「うちにも同じ子がいます」って写真付きのDMを送ってくれる人がいるんです。同じぬいぐるみでも、その子はめっちゃクタクタだったり傷だらけだったりして。そういう姿を見ると、今まで可愛がられてきたんだなぁと思って愛おしくなります。同じ工場生産のぬいぐるみでも、目の位置や表情が個体によって違うから、それもおもしろいんですよ。あと80年代から90年代の古いぬいぐるみって、その子のデザインに合わせて顔のパーツを作っていたりするからすっごく贅沢。モチーフでその時期流行っていたものがわかるのも興味深いです。とはいえぬいぐるみの可愛さに正解はなくて、直観で「可愛い!」と思った子を迎えるべき。相棒にしたい子を見つけて大切にできたら幸せだと思います。
aska.さんのもの作りに影響を与えているものはありますか?
亡くなったおばあちゃんが民芸品の蒐集家で、その影響を受けていると思います。
民芸品の蒐集家?
祖父母の家にサザエさんのエンディングに出てくる蔵みたいな離れがあって、そこには各地のキーホルダーやお土産品、レコードがずらっと並んでいたんです。私はその部屋が大好きで、こっそり忍び込んで、お気に入りの赤盤のレコードをかけながら民芸品をボーッと眺めるのが密かな楽しみでした。独特な匂いも好きだったなぁ。民芸品って1つひとつインパクトがあって、オリジナリティに溢れていてとっても美しいと思うんです。だけどそれだけじゃなく、「こんなにゆるくていいんや」っていうおもしろさもある。それが何十年も残っているって本当にすごいことですよね。そう考えると、時代を超えて手元にやってくるぬいぐるみと民芸品ってどこか似ていて。私もそんな風に大切にしてもらえるもの作りをしたいと考えています。
民芸品のようなもの作り、素敵だと思います。
赤べこや信楽焼のタヌキを再現した「ぬいぐるみんげい」というシリーズも作っています。おばあちゃんの蒐集庫はもう取り壊しちゃって、集めていたものもほとんど処分されたんですが、目が飛び出るタヌキのキーホルダーは私が保護しました。ちなみに妹は、玄関に飾ってあった般若のお面をもらっていました。
妹さんのセンスもいいですね(笑)。もの作りは昔からお好きだったんですか?
お父さんが木型の職人をしていて、絵を描くのも好きだったから、その影響なのかもしれません。おばあちゃんとお母さんは写真を撮るのが趣味で、妹は書道が得意でした。県立美術館も近くにあったので、幼い頃から芸術に触れる機会が多かったように思います。
会社員から作家1本に転身したきっかけはありますか?
昨年まで20年間会社勤めのデザイナーをしていて、作家活動のみに絞ったのは割と最近なんです。コロナ禍で仕事が徐々に減っていたので、挑戦するにはいいタイミングではありました。ずっと働いていた事務所の社長がとてもいい人で、私が辞めると言った際も作家活動を応援して送り出してくれて。コロナ禍でやりたい方向にサッと転換できたのは、周りの人が助けてくれたからだと思います。「ぬいぐるみドリーム!」のみんなと出会えたのも大きいです。ぬいぐるみへの愛情やものを大切にする温かい心を持っている人たちばかりで、あぁ、この人たちも自分と同じ温度でぬいぐるを愛せるんだと安心できる場所を見つけたように思います。
6月初めに「ちいさな ちいさな ぬいぐるみ」という本をリリースされたばかりですが、なぜ本を作ることに?
昨年の春に『NU茶屋町』で開催された「ぬいぐるみドリーム!」に東京の出版社の方が来ていて、「本を作りませんか?」とお声掛けしてくれたんです。だけどお話をいただいた最初の頃は、自分が14年間積み上げてようやく掴んだものを差し出すことに抵抗がありました。本を出すことによって、作品が簡単にコピーされて売られてしまったら、せっかくのオリジナルがオリジナルじゃなくなってしまう……。それがすごく怖かったんです。だけど後ろ向きな私の背中を「大丈夫だよ」とみんなが押してくれて、挑戦してみることに決めました。自分のノウハウを詰め込んでいるうち、この本を見ながら作ったらどんな子が生まれるんやろうっていうワクワクがどんどん大きくなって、本を作るのが楽しくなりました。本を手に取った方には、作る楽しさを感じてもらえたら嬉しいです。
制作期間はどれくらいかかったんですか?
初めて担当さんに会ったのが「ぬいドリ」のイベントの時だったので、去年の6月くらいかな。何を載せるか相談して、掲載することに決めた34体のぬいぐるみを作ったのが12月くらい。そこから今年の1月に東京で撮影して、文章を書き進めました。
本を読んでいると、かなり細かいところまで教えてもらえることにびっくりしました。
たぶん丁寧に解説しないとわからないから。私は説明書を読むのが好きなので、割と楽しみながら説明文を書くことができました。全ての作品のベースになるクマの作り方があって、それを応用して作っていってもらう感じです。撮影の時に印象的だったのは、まわしが着脱できるお相撲さん。まわしを履かせる説明カットを撮る時、どこまで上げて撮るかで盛り上がりました(笑)
aska.さんの作るぬいぐるみって、カッパの甲羅が脱げたり首が動くようになってたり、他にはないギミックも魅力ですよね。
私のぬいぐるみはフィギュアみたいに飾る人が多いけど、手に取って動かして遊んでほしいという気持ちが根底にあるんです。最初にテディベアを作ったのも、一緒に遊んでほしいと思ったからですし。首が動いたりリボンを引っ張ったらベロが飛び出たり、民芸にもそういうギミックがありますよね。しょうもないけどクスッと笑える、そんなチープな仕掛けが大好きで。自分のぬいぐるみで遊んでクスッと笑ってもらえたらいいなと願いを込めながら、色んな仕掛けを考えています。
本を作る上で大変だったことはありますか?
自分がいつも作ってるものだから、読み手がどこを難しいと感じるのかがわからなくて。難しいポイントを理解するのが難しかった。なので担当の編集さんやカメラマンさん、デザイナーさんと相談しつつ、押さえるポイントを決めていきました。本じゃ伝わりにくい手法を使っている時は、作り方をわかりやすくアレンジしたり。みんなでたくさん相談しました。
写真もめっちゃ可愛いです。
可愛いですよね。カメラマンさんが撮影の小道具をたくさん準備してくれていて、めちゃくちゃスムーズに撮影できたんです。お煎餅を土俵に見立ててお相撲さんを乗せるとか、ピンポン球にキツネやネズミを乗せるとか、カメラマンさんの小物遣いはめちゃくちゃ参考になりました。
すごくいいチームだったんですね。
自分にはないアイデアを持ってる人と意見を出し合って、1つのもの作りをする。それってめっちゃ楽しいことなんだっていうのが新鮮で。学生時代は弓道部に所属していたんですが、団体戦が苦手でいつも意図的に個人戦を選んできたんです。だけど最近やっと、みんなで取り組む楽しさがわかった気がする。機会があれば、またあんな気持ちを味わいたいです。
aska./tick’n’tack
高知出身、大阪在住。関西を中心に、海外でも展示を行うぬいぐるみ作家。落書きのようなイラストを元に作るぬいぐるみは、想像を超えるコンパクトなサイズ感で「思っていたよりも小さい」と話題。世界中に熱狂的なファンを持ち、手掛けた作品は販売と同時に即完するほど。