アートマネジメントを教える大学の講師にして、艶やかなステージを繰り広げるドラァグクイーン。2つの顔を持つ緒方江美さん/アフリーダ・オー・ブラートさんの素顔とは。
昼は大学の講師として教壇に立ち、夜は艶やかなドラァグクイーンとしてクラブのステージに立つ……そんなジキルとハイドばりの2面性を持つのが、緒方江美さん/アフリーダ・オー・ブラートさん。緒方さんはフリーのアートマネージャーで、大阪芸術大学の客員准教授や京都芸術大学の非常勤講師も務めておられます。その一方、アフリーダ・オー・ブラートとして京都の『CLUB METORO』で約30年続くドラァグクイーンパーティー『DIAMONDS ARE FOREVER(ダイアモンズ・アー・フォーエバー)』に出演中。なぜ、大学講師にしてドラァグクイーンなのか。最初のきっかけから現在のこと、そして未来のことまで、たっぷりお話を伺いました。
おっぱいをボーンと出してステージに登場して、後ろにふんどし姿のゴーゴーボーイを従えて美空ひばりの『真っ赤な太陽』をリップシンクする姿を見て、「ステージの上はジェンダーレス!」って思ったんです。
私は最初にアートマネージャーの緒方さんと知り合ったので、ドラァグクイーンをされていると知ってすごく驚きました。いつから活動しておられるんですか?
デビューしたのは2004年の11月ですね。今は、1989年に大阪で始まって、1991年からは京都の『CLUB METORO』で行われている『DIAMONDS ARE FOREVER』に出演してます。
1989年から!すごい歴史のあるパーティーですね。
アーティスト集団『ダムタイプ』の音楽などを担当していたDJ LaLa(山中透)さん、シャンソン歌手でドラァグクイーンのシモーヌ深雪さん、『ダムタイプ』の中心メンバーでドラァグクイーンでもあった故・ミス・グロリアス(古橋悌二)さんが立ち上げた、日本で最初のドラァグクイーンパーティーなんです。
そのパーティーに、アフリーダさんがドラァグクイーンとして出演することになったきっかけを教えていただいてもいいですか?
大学3年生のときに、ゲイの友達にイベントのアルバイトに誘われたんです。それが、神戸の『cafe Fish! 』で行われたアジア・太平洋エイズ国際会議(ICAAP)のナイトプログラムで、『IN/SERT』というイベントだったんですね。すごくまじめな会議のアフターパーティーだったんですけど、会場では研究者も医者もドラァグクイーンもゴーゴーボーイもいて、みんな一緒に盛り上がってたんですよ。私はクラブにも行ったことがなくてドラァグクイーンも見たことがなかったんですけど、そこで初めてブブ・ド・ラ・マドレーヌさんのショーを見て、すごい衝撃を受けて。
衝撃というのはどんな……?
おっぱいをボーンと出してステージに登場して、後ろにふんどし姿のゴーゴーボーイを従えて、美空ひばりの『真っ赤な太陽』をリップシンクで歌っていたんです。それを見て、うわなんだこれ!!って。ほんとにびっくりしすぎて何を思ったのか覚えてないですけど、でも「ステージの上はジェンダーレス!!」って感じたんですよ。女性が公衆の面前でおっぱいを出して、男性がその後ろに下がっていて、それでぎゅうぎゅう詰めの会場がめっちゃ沸いてるっていう状況を見たときに、これを私もやりたい!!って。
やりたい!って思ったんですか!?
もう、「これだ!」って以外の言葉がなかったですね。それですぐ、誘ってくれた友達に、私もやりたいんだけど!って話をしたら、京都の出町柳のカフェでブブ・ド・ラ・マドレーヌさんに会えることになって。それで、弟子入りさせてくださいってお願したんです。そしたら、ドラァグクイーンは子弟制度じゃないから、やりたかったら勝手にやりなさいって断られたんですよ。
クイーンは、弟子はとらないんですね。
でも、なりたいんだったら、このパーティーに来なさいってダイアモンドを教えてもらって。そこから、オーガナイザーのシモーヌ深雪さんやDJ LaLaさんと知り合って、2004年にデビューしました。
なりたいと思ってからデビューまでが早い!
たまたますぐイベントがあって、ショーをしてみたらと言われて、デビュー曲は山本リンダの『どうにも止まらない』の英語バージョン。扇町公園で開催された性感染症予防啓発のフェスティバルで、2トンのステージトラックで初披露しました。
どんなパフォーマンスをするかは、自分で考えるんですか?
曲も振付も自分ですね。でも最初は、リズムの取り方とかいろいろ教えてもらいました。ドラァグクイーンはリップシンクっていうのがパフォーマンスの基本で、要は口パクなんですよ。自分の好きな歌手とかディーヴァ(歌姫)の曲に合わせて口パクをするんですけど、どうやったら映えるように口を大きく開けられるかみたいなことも教えてもらって。振り付けは自分で考えたものを見てもらったんですけど、そのころ私、太ってお腹が出てるのを気にしてたんですよ。そしたらブブさんに「あなた、この素敵なお腹があるんだから!もっと揺らしなさい!」って言われて。女の子はスリムなほうがかわいいと思い込んでいたのに、ここではお腹が出てるほうが褒められるんだ!ってびっくりして。
世間の常識とは全然違う評価なんですね。
体も大きいほうがすばらしいって言われるし、かつらもきれいにとかして被るより大きくボリュームを出したほうがいいし、付けまつ毛も5枚ぐらい重ねたほうがいいって。“キャンピズム”と言って、過剰性の美、既存の制約を超えた新しい姿になっていくみたいなところがあって、とにかく過剰にしたほうが褒められるんですよ。「正しい」って言い方をされるんですけど。
あと、「見立て」と言って、レディ・ガガが髪の毛に空き缶をカーラーみたいに巻いてたように、チープなものをセンスよく見せる付け方とか、そういうのがとにかく面白くて。どんどん魅了されていきました。
当時はまだ大学生ですよね?
そうです。芸術系の大学で、アートマネジメントを専攻してました。真面目に通ってたつもりだったんですけど、美術史なんてもうやってる場合じゃない!って(笑)。学校で教わる美術史や歴史よりぜんぜんリアルだって感じでハマっていきました。
初めてのクラブ的なイベントでドラァグクイーンに出会ってから、その世界に一気にのめりこんだという感じなんですね。
フロアにいろんな国籍の人がいて、研究者や医療関係者もいて、派手なお兄さんやお姉さんもいて、いま思えば色んな属性を持つ人たちもいっぱいいて。それがみんな一緒くたにショーを見て盛り上がるという場を体験して、これだ!って思ったんでしょうね。
それまで、ドラァグクイーンという存在自体はご存知だったんですか?
まがりなりにも芸大生なので、ダムタイプと、美術作家としてのブブ・ド・ラ・マドレーヌは知ってました。でも最初は、ああ授業で習ったアーティストがいる!と思っただけで。
ブブ・ド・ラ・マドレーヌさんもアフリーダさんも女性のクイーンですよね。ドラァグクイーンはゲイの男性による女装というイメージでしたが、そんなことはないんですね。
ダイアモンドはもともとアーティストや様々なジャンルのパフォーマーがたくさん出演していて、女の人も多かったんですよ。だから、私も女性だからという理由ではなにも言われることなく、すっとデビューさせてもらいました。日本では少ないですけど、女性のドラァグクイーンもいます。
緒方江美/アフリーダ・オー・ブラート
アートマネージャー/ドラァグクイーン。
『CLUB METORO』の『DIAMONDS ARE FOREVER』出演中。劇場・文化財団勤務を経て17年からフリーランス。一般社団法人地域共生社会創造ラボ代表理事。京都芸術大学、大阪芸術大学非常勤講師。京都精華大学では「#わたしが好きになる人は/ #The_people_I_love_are」のプロジェクトチームに参加。朝日新聞朝刊#MONDAY KANSAI面にコラム「VIVA LA VIDA!」を連載中。共著に「未来のアートと倫理のために」(左右社)。