アートマネジメントを教える大学の講師にして、艶やかなステージを繰り広げるドラァグクイーン。2つの顔を持つ緒方江美さん/アフリーダ・オー・ブラートさんの素顔とは。


何かを伝えたいと思ってやっているわけではなくて、ドラァグクイーンの存在がマイノリティや多様な人が生きる社会のあり方を考えるきっかけのひとつになるなら、どうぞ使ってくださいっていう感じです。

最近は高校生向けの講演や、子ども向けのイベントなどもしておられますよね。

5年も毎週大学で講義をしていると、だんだんそういう機会をいただくことが増えました。子ども向けのイベントは、夏休みにロームシアター京都で行われた『Peek a Queen –For Children’s Curiosity – /ドラァグクイーンによる絵本の読み聞かせショー』がありましたね。

ドラァグクイーンによる絵本の読み聞かせショー!すごい斬新ですね。

『Peek a Queen –For Children’s Curiosity』はもともと大阪で始まって、企画者はドラァグクイーンのショーにもよく観に来て下さるハルキさん。シモーヌ深雪さんが構成と演出を担当されて、6人のクイーンと2人のDJが出演して、私はマネジメントも兼任しました。俳優でもあるドラァグクイーンのイリザ・ローションさんが多彩な声で絵本を読み聞かせし、クイーンがパフォーマンスをして、シモーヌ深雪さんがピアノとパーカッションの生演奏で少し大人な歌を歌う構成。

『Peek a Queen – For Children’s Curiosity – /ドラァグクイーンによる絵本の読み聞かせショー』(主催:ロームシアター京都、企画制作: Peek a Queen Project)には、出演者兼マネジメント協力として参加。

子供たちの反応はどんな感じだったんですか?

泣いてますよ、いやーこわいーかえるーって(笑)。でも最終的には、心臓がどきどきした!とか、面白かった!って帰って行きますね。ふだん見ないようなビジュアルのクイーンを見てもらって、日常にないようなキラキラしたショーを見てもらって、インパクトのある衝撃を受けてもらうという(笑)。

すごい体験ですね、一生忘れないかもしれない(笑)。コロナをきっかけに、クラブの外にでることが多くなりましたか?

私個人の感覚としては、そうですね、コロナきっかけで、今まではやらなくていいと思ってたことですけど、ドラァグクイーンのこととかダイアモンドのことを知ってもらうために、仕事でやってきたマネジメントの経験が役立つことがあれば、使ってくださいって思うようになりましたね。

私はもともと、そういう意識で活動されてるのかなと思ってました。

いや全然なにも考えてなかったですけどね。学校とかでは一応ダイアモンドの紹介とかドラァグクイーンはどういうものかとか説明しますけど、もともと楽しいから続けてきただけのことなので。好きな衣装を着てメイクをして自分の考えたショーでステージに立たせてもらう、以上!みたいな。

活動やパフォーマンスを通じてメッセージを届けたいとか、誰かになにかを伝えたいとかは?

自分のステージができたらそれでいいし、積極的に「なにか伝えたい!」とは思ってないですね。伝えきれるとも思えない。最近はクイーンがLGBTQのアイコンみたいになっている一方で、メディアではおもしろおかしく盛り上げてくれる人として紹介される場合もあります。どれが正しい、間違っているということではなく。私が思うクイーンの魅力はショーをはじめとするパフォーマンスや、それぞれが美しいと思う過剰で煌びやかな演出や表現だと思います。ショーや衣装やメイクの過剰さで既存の価値観や常識を超えていく、「観た人をびっくりさせる」存在かと。
その姿形やパフォーマンスを観て、どう思うかは人それぞれ違うと思います。世の中には色々な人が居ることや、マイノリティや多様な人々が生きる社会のあり方を考えるきっかけになることもあると思います。そういうテーマで依頼が来たときはその役割を担わせていただくんですけど、ただそれが全てではないと。

自分たちが好きなことを楽しんでやっているのが、基本なんですね。

私は先輩たちから、ダイアモンドは権力とか社会的肩書とか関係なく、その場で楽しんだ人が正しいと言われてきたんですね。でも一部の社会構造や世界はそうじゃないことはわかっていて、じゃあそこをもう少し接続するようなことが、アートとかエンターテイメントとかでできればいいのかなって思ってます。

なるほど、それで機会があれば、社会的な活動もされているんですね。

例えば、8月に高校生向けに講義を行いましたが、すごく限定されるけれど、素顔で話すより、ドラァグクイーンの視点と姿で「ルッキズムにとらわれない価値観とは何か」とお話した方が有効であれば、どうぞ使ってくださいと。

緒方江美/アフリーダ・オー・ブラートと名前を併記することに、まだ葛藤もありますけどね、本当にこれでいいのかな、やっていいんだろうかって。

これから何か予定されているイベントなどはありますか?

9月3日から、渋谷区立松濤美術館で『装いの力 -異性装の日本史』という展覧会があります。松濤美術館からシモーヌ深雪さんに、ダイアモンドの過去のチラシや資料を展示紹介したいとご依頼があって。それを聞いて、「資料の展示ではなく、全体の空間を演出して、新しく作ってほしいです」って、ダメ元で懇願してみました。それで、ディレクションを担うD・K・ウラヂさん、シモーヌ深雪さんを中心にあっという間に壮大なイメージプランが出来上がっていって。一部屋ぜんぶ使ってインスタレーションをすることになって、ダイアモンドのメンバーも一緒に、準備や制作を進めています。

渋谷区松濤美術館企画展「装いの力 -異性装の日本史」展で発表された、『DIAMONDS ARE FOREVER』によるインスタレーション《CQ! CQ! This is Post Camp》

ということは、この展覧会も、緒方さんがマネジメントされているんですね。

一応そうなんですけど、基本的にテーマ決定や作ることに関しては、ウラヂさんやシモーヌさんが進められるので、それ以外のこまごましたことの準備と調整ですかね。
芸術センターでの公演の時もそうでしたが、迷いどころはいつもあって。クイーンのふりをしてアートマネージャーをやるときと、アートマネージャーのふりをしてクイーンをやるとき、公共の場といつものクイーンでの表現との違いは感じていて。性的な表現や資料をどこまで出すか、独特なアンダーグラウンドの専門用語や文言で伝わるかといった相談が出てきたり。あと、「それは予算が足りません」とか「締め切りはあと3日です」とかマネージャーとしては言わないといけないんですけど、クイーンとしては納得いくまで良いものを際限なくクリエイションする方が正しいのにと思いつつ。そこの葛藤はいちばん抱えているところですね。
それでも、ダイアモンドの持っているユニークさや常識を超えていく表現をいろんな人に知ってもらえるんだったら、私がどれだけ怒られようが泣こうがもういいと思って(笑)。

渋谷区松濤美術館企画展「装いの力 -異性装の日本史」展チラシ。華やかなショーや展覧会の舞台裏を、アートマネージャーとして支える。

でも、ドラァグクイーンでアートマネージャーって、すごく貴重な存在だと思います。

緒方江美/アフリーダ・オー・ブラートと名前を併記することに、まだ葛藤もありますけどね、本当にこれでいいのかな、やっていいんだろうかって。

オフィシャルに併記されている方はなかなかいらっしゃいませんよね。これからもお仕事のアートマネジメントとドラァグクイーンを、ずっと続けていかれる予定ですか?

そうですね、続けられれば。やめるつもりはないですけど、呼ばれないとどこにもいけないので。呼んでいただいて、ご依頼があれば続けていきたいですね。

これからかなえたい夢とか、やってみたいこととか、ありますか?

京都精華大学の『#わたしが好きになる人は/ #The_people_I_love_are』というプログラムは3ヵ年計画でやってるんですけど、ずっと言ってるのは、「私が好きになる人を語り合える未来が来ますように」ということ。私はたまたまドラァグクイーンを通じて、社会的権力や肩書きを超えて人と人がつながり合えることを知りましたけど、社会の中では自分の好きな人を語れない人もいるし、語りにくい状況もあります。これから先、誰もが臆することなく、「私が好きになる人は」を語れる未来になること、そういう状況を表現の力で少しでも前に進められることを信じていますし、そうしていきたいと思ってます。

京都精華大学|マイノリティの権利、特にSOGIをはじめとした〈性の多様性〉に関する知識と、それらを踏まえた表現倫理のリテラシーを備えたアートマネジメント人材育成プログラム「#わたしが好きになる人は」WEBサイト。

社会全体が、例えばそれこそダイアモンドのように、いろんな人がいて、それぞれに楽しんでいるっていうふうになったら素敵ですよね。

私も今日の衣装みたいなお姫様ドレスが好きで、等身大のフランス人形になりたいと思ってやってるんですけど、会社とか学校でそんなこと言ったら「は?」って言われると思うんですよ。でもパーティーの中だったらみんな「じゃあドレスを着て、お好きにどうぞ」って。そういうことを無理なく言えるのがダイアモンドや、これまで関わってきた人たちがつくった場だったなって。

8月26日に開催された『DIAMONDS ARE FOREVER』の様子(撮影:haruki)

『#わたしが好きになる人は/ #The_people_I_love_are』というタイトルもすごくいいですよね。

ピープルっていう文字を入れたくて。バーブラ・ストライサンドの『PEOPLE』という曲から貰いました。

ドラァグクイーンのアフリーダさんとして、これからやりたいことはありますか?

なんだろう……クレーンで吊られるショーをやってみたいかな。宙乗りショー。あとは、クラブでもやりたいけど、クラブ以外でもショーをさせていただく機会があればやってみたいですね。遊園地でショーをしたりとか、いいなあって思います。基本ステージが好きなので、どこでもぜひって感じです。

DIAMONDS ARE FOREVER 2022年9月フライヤー

<緒方さん/アフリーダさんのお気に入りのお店>

純喫茶スワン(大阪/京橋)
めっちゃレトロな駅前の喫茶店で、内装も素敵。いつもはコーヒーですが、昔ながらのチョコレートサンデーもいつか食べてみたいです。

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Profile

緒方江美/アフリーダ・オー・ブラート

アートマネージャー/ドラァグクイーン。

『CLUB METORO』の『DIAMONDS ARE FOREVER』出演中。劇場・文化財団勤務を経て17年からフリーランス。一般社団法人地域共生社会創造ラボ代表理事。京都芸術大学、大阪芸術大学非常勤講師。京都精華大学では「#わたしが好きになる人は/ #The_people_I_love_are」のプロジェクトチームに参加。朝日新聞朝刊#MONDAY KANSAI面にコラム「VIVA LA VIDA!」を連載中。共著に「未来のアートと倫理のために」(左右社)。

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