銭湯やサウナ、クラフトビールグッズを展開する<Chain&co.>の牛嶋亮さんに聞く、リスペクトの精神を込めたヒップホップスタイルのもの作り。
ダジャレみたいなもの作りが得意。元ネタに対してリスペクトを込めた、質のいい遊びみたいなことをしていきたい。
銭湯やサウナのグッズを作り始めたのは、いつ頃からなんですか?
本格的にデザインの仕事を始めてからですね。そのあたりから徐々に忙しくなって、『トランスポップギャラリー』にもなかなか足を運べなくなりました。デザイナーをしている反動かもしれませんが、プライベートでは自分の好きなモノを作りたいという欲が出てきたんです。誰かにオーダーをもらって作るのではなく、自分のできるクリエイティブを突き詰めたいと思っていて。そこで作り始めたのが銭湯グッズでした。
どうして銭湯グッズに着目されたんですか?
最初に「ロッカーキー」を作ったのが、2018年、2019年あたりだったかな。当時銭湯やサウナがブームになっていたんですけど、僕、小学校3年生くらいの頃から銭湯に通っていたんです。仲の良かった友達と、週に2回ほど通うのが日課になっていて。小学生って夕方5時くらいには帰ってきなさいって言われるじゃないですか。だけど銭湯に行くと夜の8時くらいまで友達と一緒にいられるから、特別感もあるんですよね。それもあって、めちゃくちゃ通っていました。大人になってからはスーパー銭湯派だったんですが、立て込んでた仕事が落ち着いたタイミングで、小学生時代に通っていた銭湯に訪れてみたんです。そこで昔ながらの「ロッカーキー」に懐かしさを感じて。ちっちゃい頃から腕に着けていて、本来は邪魔なはずやのに、なぜか違和感を感じないんだよなぁと。違和感がないことに対して、逆に疑問を持ったんですね。そのとき、これが昔のゲームボーイみたいなクリア素材だったら可愛いんじゃないかと思って。急いでアクリルやガラスを加工できる場所を調べると、今回の取材場所にも使わせていただいた『FabCafe Kyoto』がヒットしたんです。機材のレクチャーもしてもらえるし、めっちゃええやんと思って、次の日に早速アクリルを買って作ってみました。
次の日に! すごい行動力ですね。
出来上がったモノもまさにイメージ通りで、とりあえず10個くらい作って友達に配ってみたんです。これを買いたいと言ってくれる知り合いも増えて。いつも助言をくれていたハッシーに見せると、「これは万人受けすると思う。とりあえずネットショップを開いてみたら?」と言われたんです。あまり気は進まなかったんですが、半ば強制的にやることになって。しぶしぶ写真を撮って載せたところ、『オズマガジン』から連絡をもらって、誌面に掲載してもらえることになりました。渋谷パルコの「パルコ湯」というイベントにも出展して、一週間で500個くらい売れたんです。なんかめちゃくちゃバズってるやん!ってなったんですけど、僕自身は流行りものが全然好きじゃないので、少し複雑な心境ではありましたね(笑)
天邪鬼なんですね(笑)。銭湯グッズの話をもっと聞きたいです。
僕、サラリーマン時代に残業するのが嫌で、さっさと仕事を終わらせて帰りたかったんです。だけど上司もいるし、自分から言い出すのもなかなか勇気がいるじゃないですか。それをどうにかできないか考えていて、思い付いたのがこの名札。自分の名札をサウナに切り替えとけば、コイツ帰りたいんかなって上司も察してくれるんじゃないかなと。
なるほど。胸元でさり気なくアピールするってことですね(笑)。クラフトビールのグッズも制作されていますが、何かきっかけがあったんですか?
高校時代から仲のいい友人が東京にいて、戸越銀座にある『ドリフターズスタンド』に連れて行ってくれたんです。旅道具とクラフトビールの店なんですが、そこのオーナーさんが僕のグッズに興味を持ってくれてたみたいで、ポップアップをやらないかと誘ってくれたんです。だけど僕、あんまりお酒が強くなくて、ビールもあんまり飲めないし迷っていたんですが、気にしなくて大丈夫と言ってくれて。とはいえ、「せっかくやったらビールも好きになってほしい」とサーブしてくれたのが、エクリプティックというヘイジースタイルのビール。初めて飲んだとき、ビールってこんなに美味しかったんやと衝撃を受けました。ボトルのジャケもカッコよくて、心の中で「高けぇ」と思いながら、たくさん買って帰りましたね。
そこで実際にポップアップをしたとき、クラフトビール界では有名な方が、銭湯の鍵を買ってくれたんです。それが、代々木の『ウォータリングホール』というビアパブで店長をしているユウヤさんという方で。後日連絡をいただいて、銭湯の鍵を『ウォータリングホール』の8周年仕様のデザインで作ってほしいと依頼を受けたんです。その時期から僕の中で、銭湯とクラフトビールがどんどんリンクするようになりました。
趣味の範囲をどんどん広げる中で、銭湯とクラフトビールとの接点を見出したんですね。
今日着ている「ヘイジー」のスウェットも、クラフトビールをテーマにしたグッズです。質感にもこだわりたかったから全部自分でやっていたんですけど、もっと量産できるようになりたいと思ってた矢先、シルクスクリーンの会社を経営している方と知り合って。去年くらいまでそこで働いていました。小さな会社だったんですが、できることはすごく多くて。シルクスクリーンはもちろん刺繍機やレーザーカッター、裁断機もあって、いろいろと勉強させてもらいましたね。
会社の仕事もこなしつつ、自分の好きなモノを制作されていたと。
練習がてらやらせていただいてました。今日もこのあと行かなきゃならなくて、先ほど話した『ドリフターズスタンド』のグッズを作るんです。クラフトビール×アウトドアをテーマに、<Chain&co.>のエッセンスを加えてほしいと言われて。日本におけるハイキングの達人といえば松尾芭蕉で、俳句とハイキングをかけて……、と考えて浮かんだデザイン。クラフトビールを片手に休憩しつつ、松尾芭蕉が一句詠んでいるシーンを切り取りました。ちなみに手首には銭湯の鍵を着けています。
まさか松尾芭蕉が登場するとは。おもしろいアイデアですね。アートワークのインスピレーションは、どんなところから思い付くんですか?
必ずしも正解じゃないと思うけど、ハッシーが教えてくれたのは、デザインは基本的にオリジナルが存在しないっていこと。だからどれだけ色んなモノを見て、それをリスペクトできるかが大事なんだと。そこへ何かと何かの掛け算が上手くハマって、偶然出来上がるモノが真の“良いデザイン”なんじゃない?と言われていました。僕も彼の言葉を大切にしていて、できるだけいろんなカルチャーに触れるようにしています。
今まであまり分かってなかったんですが、僕は声を使うラップはできないけど、モノとしてのラップというか、ヒップホップスタンスでもの作りをするのが得意なんです。ダジャレみたいな感じですかね。とはいえ安直なサンプリングは好きじゃないので、元ネタに対してリスペクトを込めた、質のいい遊びみたいなことをしていきたいと思ってます。
牛嶋 亮
1988年生まれ、滋賀県出身。銭湯やクラフトビールなどを題材に、雑貨やアパレルグッズをリリースする<Chain&co.>を手がけるアーティスト。かなりの銭湯ラバーで週に2、3回は必ず訪れるそう。1時間半ほどかけて3、4回交互浴を繰り返すのが牛嶋流。