システムエンジニアから丹波篠山で罠猟師になった黒沼さん夫婦が、屋号「かけがえのない日」に込めた想い。


罠っていうのは、後ろ足がかかったらだめなんですよ。だから、この山の中で、動物が踏み出す前足の一歩をとらないといけないんです。

衝撃の狩猟デビューを遂げられたわけですが、そこからどんな流れで猟師として独り立ちされたんですか?

シンスケ:最初の狩猟から4日後ぐらいに師匠の家に行ったら、また獲物かかってるぞと。そしたら師匠が、お前やれんのか?みたいに言うんですよ。僕は弟子ですけど、そんなふうに言われたら、こっちも負けん気がありますし、やるしかないなと思って。ほな、鍬貸してくださいって言うて、罠のところに行ったんです。

狩猟デビューから4日後に、たった1人で?

シンスケ:4日でどこまで成長してるかって、たかが知れてるじゃないですか。でももう、やるしかない。鍬を持って畑の裏にある罠のところにいったら雌鹿がかかってました。最初は躊躇しましたけど、でも思ったより上手にできたんです。うまく気絶させられたし、刺すところも一発でいけて。あんなに触るのも怖かったのに、首を下にして吊って血を抜くのもスムーズにできて、師匠のところに終わりましたって戻りました。多分師匠は、できへんって僕が泣きついてくると思ってたんですよ。でも、やりましたよって言ったら、お前ほんまにやったんかって。

手羽先が触れなかったのに、やり遂げられたんですね。

シンスケ:いや、僕も正直、いけるなんて思いませんでしたね。だから、そこが師匠に対する反骨精神というか、そういう部分でいけたんかなと思ってるんですよ。

たった4日で、すべて1人でこなすことができるって、すごいですね。

シンスケ:その一週間後に、今度は100キロぐらいの大きい猪がかかって。それはさすがにお前やれとは言われませんでした。僕は猪を見るのも初めてやったんですけど、野生の猪はすごいですよ。250ccの単車より迫力あります。しかも雄でたてがみがあるから余計に大きくて。その猪の時が、師匠と猟をした最後です。

今は師匠と一緒に猟をされることはないんですか?

シンスケ:黒豆が終わる時期ぐらいから、だんだん師匠との仲が上手くいかなくなってて。そのあたりも話すと長くなるんですけど、やっぱり考え方の違いとか、軋轢が出てくるんです。それで、今はもう付き合いがなくなりました。でも僕はもちろん師匠やと思ってますし、僕らにとっては間違いなく恩人です。

ということは、猪の猟を見た後は、完全に独学で?

シンスケ:そうですね。猟友会とかにも所属してなくて、マイコと2人、一匹オオカミです。だから、どこに罠を仕掛けたらいいかとかは自分たちで探して。解体するのと肉を冷やすのにきれいな川が必要なんで、まず川があるところを探します。源流に近いところ、上に行くほどきれいなんで、ドライブがてら行くんです。

マイコ:あと、近くにゴルフ場がないことも大切なので、そういう場所がないか、Googleマップで探しますね。

罠をかける場所を探すのも、かかった獲物を処置するのも2人一緒。ただし、罠をかけに行く時だけは、なるべく人間の痕跡を残さないようシンスケさん1人で。

Googleマップなんですね!

シンスケ:ほんま、ドラクエみたいですよ。

でも、この広い山の中でどこに罠を仕掛けるか、どうやって決めるんですか?

シンスケ:きれいな川を見つけたら、その周辺に獣がいるかどうか、休んでいた形跡とか、草を食べた形跡とか、そういうのを2人で歩いて探します。この辺にいるなっていうのがわかったら、次は解体できる場所があるかを確認して、よし行けそうやとなったら、罠を仕掛けるんです。

めちゃくちゃ難しいですね……。どんな罠を使うんですか?

シンスケ:獣が通る道に埋めておいて、獣が踏んだら、バネの力でワイヤーが脚にしゅって締まるんです。こういう罠も、自分でパーツを買ってきて作ってるんですよ。YouTube先生に教えてもらいながら、コーナンとかでパイプ買って。
罠っていうのは、後ろ足がかかったらだめなんですよ。前足のほうが力が強いから、ちぎってしまうし、僕らも危ないんです。だから、この山の中で、前足の一歩をとらないといけないんです。

そんなどこを通るかもわからない動物の前足の一歩を捉えるって、もう当たる気がしないです。

シンスケ:テクニックがあるんですよね。人間も、何か邪魔なものがあったらまたぐじゃないですか。獣も同じなんです。だから、またぎそうなもの、簡単に言えば石を置いたりして、またぐ時に踏み出した一歩目を捉えるんです。

それにしても、難しいですよね。

シンスケ:だから、獲れなくてもあんまりバカにしないで欲しいです(笑)

ということは、獲れた時はやったー!って感じですか?

シンスケ:そこは、なんか複雑なんですよね。松茸狩りやったら、取れたらもうガッツポーズ一色やと思います。でも、罠にかかってるか見に行く時も、かかってるのを見た時も、やっぱり100%ガッツポーズじゃないんですよね、不思議な気持ちで。

かかってた、よっしゃー!ではないんですね。

シンスケ:あんまりそうは思わないですね。なんかじーっと見ちゃうというか。だからこそ、食べないものは、絶対に獲らないです。

獲るのは、食べる分だけ?

シンスケ:そうです、僕らは害獣駆除じゃなくて、美味しくいただくことを大事にしてるので。猟期に入ってから自分らでなんとかできる分はもう獲れてるんで、今はちょっと罠の数も減らしてます。
この前も小さい鹿がかかってたんですけど、逃がしました。逃がすのも大変なんです、向こうも必死やから。でも、助けてくれるとわかったら、伝わるのかして、大人しくしてくれます。

取材の日、罠にかかっていたのは野生のタヌキ。やさしく声をかけながら罠を外してあげると、一目散に山の中へ帰っていきました。

駆除じゃなくて食べるっていうのは、最初に1本後ろ足を持った時の責任感みたいなのが大きいんですか?

シンスケ:食べるのが一番の供養というか、美味しく食べたら納得してもらえるんじゃないかなと思ってます。やっぱり、獣も目を見てきますから。

すごいしんどそうやったから、もう次のことは後から考えたらいいから、早く辞めてって思ってました。その時に、ここ(山)があるっていうのはすごく気持ちの支えになってて。
12345
Profile

かけがえのない日

元システムエンジニアのシンスケさんとマイコさんの罠猟師夫婦(trapper a.k.a hunter)。罠製作から捕獲、解体、精肉までを行い、“人生で最高に美味いジビエを提供したい”をテーマにイベント等に出店。丹波篠山の持ち山も絶賛開拓中

CATEGORY
MONTHLY
RANKING
MONTHLY RANKING

MARZELでは関西の様々な情報や
プレスリリースを受け付けています。
情報のご提供はこちら

TWITTER
FACEBOOK
LINE