世界で賞賛されるデザインと音色。大阪発のシンバルメーカー<emjmod>の延命寺さんがずっと大事にしてきた、自分の中にあるものの純度を高め続けること。
これからもやりたいことは山のようにあるんですよ。フジロックにも出たいし、シンバルの生産量も増やしたいし、お世話になった人に恩返しもしたいし、ガンダムとコラボもしたい。でも、一番大事なのは、自分の中にあるものの純度を高め続けていくこと。
まさかの流れでシンバルメーカーを立ち上げることになったわけですが、<emjmod>とはどういう想いで名付けたんですか?
“emj”は延命寺で、“mod”は改造やいい感じに修正されたものという意味のモディファイから名付けました。みんなからは通称、「延命寺シンバル」と言われてますけどね。
なるほど。<emjmod>と共にシンバルに記された延命寺の漢字が、そうさせてるのかもしれませんね。でも、漢字が入ることでかっこよさも増してるし、そこにも何か意図が?
自分でメーカーをするなら海外展開も見据えてたので、漢字は入れたいなと思ってたんですよ。国内のシンバルメーカーは<KOIDE CYMBALS>だけだし、そもそも日本でシンバルメーカーが出てくること自体がレアケース。そういった状況下で、自分が延命寺という珍しい名前だったのはラッキーだったなと。
自身の名前も掲げたシンバルメーカーとしての滑り出しはどうでした?
ドラマーさんをはじめ、楽器屋さんとの繋がりも広がっていて、穴空けショーやマルチトーンシンバルのことを知ってくれてる方も多かったので、独立してメーカーを立ち上げる話をすると、みんなが共感して応援してくれたんです。三木楽器のMIKI DRUM CENTERはすぐに取り引きを決めてくれましたし、新宿のロックイン(現在は閉店)などの大型店舗でも決まり、早い段階で大阪と東京で展開することができました。
それもいろんなご縁を大切にしてきた結果ですよね。先ほどの話の中で、マルチトーンシンバルはアメリカで特許申請中とのことでしたが、海外展開も早い段階で決まったんですか?
そうですね、アメリカ展開もちょっとおもしろい感じで決まって。<KOIDE CYMBALS>の近所に実家があるという女性がいて、その旦那がアメリカ人のベーシストで、たまたま通りかかって工房の中に入って来たそうなんです。Burke(バーク)っていうヤツなんですが、小出さんや僕の作ってたシンバルに興味を持ったみたいで、インスタのDMで「小出さんとはどういう関係?一緒にアメリカでやれへん?」という流れになってね(笑)。小出さんも海外進出したかったそうで、僕も乗じて話を進めることになったんです。
嘘みたいな展開ですね。一瞬、めちゃ怪しんでしまいそう(笑)
でも、めちゃええヤツなんですよ、Burkeは(笑)。それでアメリカ進出の際、僕の作ったマルチトーンシンバルは絶対にパクられるから特許申請をした方がいいと勧められたので、すぐに申請して今は認可待ちの状態ですね。
1年目で国内とアメリカにまで展開できるって、ほんとに幸先がいい。
ありがたい話ですよね。それに、1年目は米米CLUBやサザンオールスターズなど超有名アーティストのサポートを務めるパーカッショニスト、三沢またろうさんシグネイチャーモデルのシンバルを担当させてもらいました。これまでの人との繋がりやご縁もありましたし、現役ドラマーのメーカーというのもトピックスになっていたのかなと。順調なスタートは切れましたが、2年目には案の定というか、Burkeの言ってた通りのパクられ事件も発生してしまって。
Burkeの予感が的中!
トルコのメーカーが、おそらく僕のデザインを見てパクったであろうシンバルをインスタに投稿したんですよ。それでBurkeからも連絡が来たし、いろんな人がその投稿に対して「これは<emjmod>のやつだ!」とコメントしてくれてね。その中の1人にMatt Nolan(マット・ノーラン)という僕みたいな個人で打楽器を制作している人がいて、MattはBjorkやKing Crimsonに楽器を提供しているようなすごい人なんですよ。お礼でメッセージを送ったら、「全然いいよ。お前のシンバルはおもしろい発明だから、頑張ろうぜ!」って感じの返信も届いて。
ひょっとして、その流れから以前Twitterで呟かれてた、King Crimsonとの関係が始まっていくんですか!?
はい、おっしゃる通りで(笑)。King Crimsonが2021年に来日した際に、梅田の駅前第二ビルにある三木楽器で僕のシンバルを見たらしく、それでMattに連絡し、僕の方に「Crimsonのヤツがお前のシンバルをおもしろがってるぞ!今度紹介するから電話番号を教えてくれ!」ってメッセージが来たんですよ。その後にFacebookでKing Crimsonのメンバーから友だち申請されたり、メールが届いたりと、ちょっと現実味のない感じの出来事が続いて、完全にてんやわんや状態でした。
そりゃそうですよね(笑)。でも、延命寺さんのシンバルが確実にKing Crimsonに刺さったってことだし。すごい胸熱な展開!ライブには呼ばれて行ったんですか?
コロナ禍でバックステージでも会えないと言われてたし、大阪や東京の公演スケジュールがどうしても僕の予定と合わずで。「また連絡するわー」って感じで、その時は終わったんですよ。で、翌年の2022年5月にメンバーのPat Mastellot(パット・マステロット)から「7月に大阪行くから会おうや」と連絡が来て、即レスしたのにそこからは音沙汰なしに。正直、なんやねんと思ってたんですが(笑)、「7月14日のライブにおいでよ」と、7月5日連絡が届いたんです。直近過ぎるやろと思いつつも奇跡的にスケジュールが空いていて、ライブに招待していただき、終演後に初対面しました。シンバルの話とかをいろいろして、スティックやCDなどをもらったので、そのお返しに勢いでシンバルをプレゼントしたんですよ。後日インスタにもアップしてくれて、今でもちょくちょくやりとりは続けてますね。
延命寺さんが動き続けてきたからこそだけど、それにしても夢のある話だなと。
昔からボーッとしてるとよく言われるんですが、僕自身はめちゃくちゃ考えながら行動してるんですよね。どうすれば他と差別化できるかとか、自分なりに工夫しないとオンリーワンにはなれないから。
それは行動面でもそうですし、<emjmod>のブランドとしてもですよね。海外を見据えて漢字を入れたお話もありましたが、デザイン面も他とは全然違うなと。素人目線で恐縮ですが、そこはすごく感じます。
ありがとうございます。<emjmod>はシンバルとして音色にこだわるのはもちろん、見た目やデザイン、そしてどう見られるかももすごく大切にしてるんです。ドラマーはドラムセットに座ってシンバルをセッティングする際、シンバルの表面が見えるので、デザインやロゴがいまいちだと気分も上がらない。でも、かっこいいものと向き合えると、自然とテンションや気分も上がるんですよ。僕はドラムセットを舞台装置だと思っているので、ステージに置かれてる光景や映像になった時もやっぱりかっこよくないといけない。これは、僕がドラマーだからこその考えかもしれませんが。
ドラマーとしての視点やリアルな体験が生かされてるし、だからこそ、ドラマーの共感を得てる。シンバルの色味というか、焼けた模様が残ってるのもかっこいいです。
普通のメーカーはシンバルを成形した後に、黒く焼け焦げた跡を全て削って光沢感を出すんですが、僕の場合は模様として意図的に残してるんですよ。跡が残ってると鳴りにくい部分があるため、みんなキレイに削りがちだけど、シンバルの表面全てが鳴ればいいってわけでもないので。それに、やっぱりかっこいいじゃないですか。
セッティングした時にテンションが上がると言ってましたが、その気持ちも何となくわかります。模様は1枚1枚違いますが、デザインする際は下書きなどもしてるんですか?
基本的にデザインのイメージは頭の中にあるので、シンバルと向き合って削りながら具現化していく感じですね。中にはデザインが決まってるモデルもありますが、手作業なので微妙には違ったりもしますし。シンバルは大手メーカーのものでも、大量生産のものでも、合金という特性上、完璧に同じ音色のものはないんです。結局全て違うなら、音色もデザインもその1枚のシンバルのベストを追求したい。それが僕のシンバル製作のポリシー。
シンバルとしてはドラマーの方々に使われてなんぼですが、アート作品のようにも感じます!
僕自身もかっこいいと思って製作してるから、「頼むから割らんといてくれー」と思ってます(笑)。飾る用のシンバルも作ってますし、写真とシンバルのアート作品も作ったり、楽器だけに留まらず、シンバルのいろんな在り方を考えてるんですよ。メーカーとしては、「日常にシンバルを」という裏テーマもありますから。
その裏テーマ、素敵です。ドラマーさんからのオーダーも、めちゃ多いんじゃないですか?
近年は業界最大手の島村楽器さんでの取り扱いも始まっていて、プロフェッショナルからアマチュアまで幅広い層のドラマーやパーカッショニストの方々にご購入いただいてます。アメリカで特許申請してるとかの影響もあり、ドラマーの中でも認知度は高まってきてるかなと。
27歳の時に決断した、延命寺の名を広める活動が結実してますよね。
まぁ当初はドラマーで名前を売るつもりでしたが、いろいろあってシンバルメーカーとして広まっていったのも、結果的には独自路線になったのかなと思います。KIHIRAとのTIGER&DRAGONや、昔のメンバーとも別のバンドを組んでるんですが、「延命寺とバンドしてるんやろ?」と言われることもあるみたいで。
それもドラムを軸に、ドラマーとしてのバックボーンがあるからこその逆転現象。延命寺さんにしかできなかったことじゃないですか。
そう言ってもらえるとうれしいです。僕自身こんな感じで自由な動き方をしてるから、業界内では色々言われてたりもしてるみたいですね(笑)。でも、僕みたいなやり方もありだよって後輩たちに伝えていきたい部分もあるし、これだけネットやSNSが発展してきた中で、僕含めてもっと進化していくべき部分ってまだまだあるので、何よりドラム業界をもっと広げていきたいなと思ってます。老若男女誰でも楽しめる楽器、それはドラムです!!みんなドラム叩きましょう!!(笑)
ドラム業界に詳しくないので実情はわかりませんが、いろいろ言われるくらい目に留まる存在になってるってことかなと。その分、応援してくれる人も多いでしょうしね。今までの話を聞いて、延命寺さんはいろんな出会いや縁をたぐり寄せるパワーがあるんだなと思いましたし、ドラム熱・ドラム愛が幼稚園児の時から変わらずというか、どんどん湧き出てるように感じました。想像できない展開がこれからも待ち受けてそうですが、今後の具体的な目標などがあれば聞かせてほしいです!
やりたいことは山のようにあるんですよ。ドラマーとしてはもっと認知されるようになって、いつかはバンドとしてフジロックに出たい。<emjmod>を使ってくれてるドラマーはたくさん出演してるので、僕も自分で叩いてシンバルの音色をあの環境で体感できればなと。シンバルメーカーとしては、日本やアメリカ、カナダ、オーストラリア、台湾に取引先があり、その国々でもっと売れるような数を生産していきたい。そして、マストでやっていきたいのは、小出さんや山村さん、秋山さんをはじめ、今に至るまでの自分を支えてもらった人にどうすれば恩返しができるかってこと。ちゃんと自分なりの恩返しをしないと、さらなる広がりはないと思ってるので。あとは、<emjmod>よりも先に始めていたシンバルの破片で作るアクセサリーブランド<Ceal>の展開も、グローバルに広げていきたいし…。
まだまだありそうですね(笑)
ありますよ(笑)。バンド活動としては今、レストランでの生演奏に注力をしてるんですよ。ライブハウスとかのアングラな感じじゃなくて、音楽ってそもそも日常的なものだからこそ、もっとオーバーグラウンドな場所で楽しんでもらえたらなと思ってるんです。それともう1つ!ガンダムがめちゃくちゃ好きで、今でもガンプラのオフ会とかに参加して夜な夜な作ったりしてるので、いつかガンダムとコラボすることも密かな目標ではあります(笑)
ほんと、想いが活動に直結してますよね。ガンダムとのコラボとかも、延命寺さんがするとなれば斬新。シンバルの色味からして、百式とコラボできたら胸熱ですねー。
うわー、それはめちゃくちゃ熱い!!!めっちゃやりたいです、バンダイさん!!(笑)
今日イチのテンションが出たんじゃないですか(笑)
あー、すみません。ちょっと落ち着きますね…。まぁ、いろいろ話しちゃいましたが、具体的な目標も大事だけど、それよりも大事なのは、自分の中にあるものの純度をどこまで高めていけるかってこと。今に至るまでも、偶然に偶然が重なってヒットが生まれ、僕の人生も大きく変わっていきました。だから、自分の中にあるものの純度を高め続け、それをなるべくしてなるようなところに出し続けていくだけですね。そこでどんな化学反応が起こるかはわからないけど、結果的には絶対におもしろくなる。きっと、今の僕では予想もできないステップがあるかもしれませんから。
<延命寺さんのお気に入りのお店>
エルナージ(大阪市淀川区野中北)
家の近所にあるスペイン料理のお店です。ごはんもすごくおいしくて、築90年の元郵便局を活用した空間がすごくかっこいい。定期的に生演奏もさせてもらってて、かれこれ5年くらいお世話になってます。
延命寺 a.k.a emj
1985年岸和田市生まれ。大阪を拠点に活動するアーティスト・ドラマーであり、2020年よりシンバルメーカー<emjmod>を主宰。その独創的なデザインと音色を持ったシンバルは、国内外の多くのアーティストに愛用されている。自身が所有してきたシンバルはゆうに1000枚を越え、日々新たなデザインと音色を追求中。シンバル製作の一方、ベースとドラムだけで構成された2ピースのインストバンド「TIGER&DRAGON」や「Auver Ride」「THE BODY」などでの活動をはじめ、アーティストのサポートやドラム講師も行う。趣味はガンプラ作り。