挫折、転職、運命の出会い。大阪ホットドッグ界の先駆者『FAT DOG STAND』店主の佐竹拓哉さんが歩んできたストリートな生き様と、新章。


店は決まったけど、肝心なソーセージは未完成だった。試行錯誤を重ね続けて、今も進化中。

ところで、佐竹さんがホットドッグ屋を目指したきっかけって何だったんですか?

『GAKUYA BURGER』の(飛松)正輝くんと出会って、その生き様に憧れたからなんです。ちょっと長くなるけど、昔の話をしてもいいですか?

ぜひ聞かせてください!

当時、僕はアメ村の自転車屋でバイトしていて、そこにお客さんとして正輝くんが来てたんです。大学時代にダンスと出会い、授業そっちのけでダンス漬けの生活。卒業後もB-boyとして活動してました。でも、野良のB-boyがオーディションを突破するのはなかなか難しくて…。大阪の某テーマパークのオーディションにも落ちて、しっかり挫折しました(笑)。それで自分の好きな自転車を仕事にしようと、バイトしていた会社にそのまま就職したんです。

挫折したとはゆえ、好きなことを仕事にできてるのは結果オーライですよね?

大好きな自転車と関わりながら楽しく働いていたんですが、しばらくして社長が変わってから経営方針も新たになり、会社をすごい勢いで全国に拡大していったんです。ドンドン大きくなっていく会社のスピード感と、自分が理想とする商売の形、その歯車のズレがだんだんとしんどくなっちゃってね…。

事業としては成功しているけど、佐竹さん的にはフィットしなかった。難しいところだと思います。

そんなことがあってモヤモヤしている時に『GAKUYA BURGER』に行ったら、100円で食べようと思えば食べられるハンバーガーを、10倍以上の値段をつけて自信を持って売っていて、それにお客さんも満足してお金を払っている。これって商売としてすごいことやし、気持ちの良いことやなあと。

仕事で悩んでいる佐竹さんに、飛松さんの生き様が刺さったと。

そう。とにかく、正輝くんが打ち込んでいる仕事ぶりを見て「この人の人生めっちゃ面白そう!」って思ったんです。それで、正輝くんにとってのハンバーガー的な存在を探したら、僕にはたまたまホットドッグだったっていうワケなんです。だからもし、正輝くんがバーガーじゃなくて家具職人をしていたなら、僕も職人の道に進んでたと思います。

実は、少し前にMARZELでも『GAKUYA BURGER』を取材した時に佐竹さんのお話が何度か登場してて。聞けば、最初のソーセージが完成した時に飛松さんに食べてもらったとか。

そうなんです!ちなみに正輝くん、何て言ってました?

とにかく、ホンマに不味かったと……(笑)

(笑)。でもホンマなんです。無味、悪臭の消しカスみたいで、燻製の香りだけやたらキツくて、もう最悪でした(笑)。それでも正輝くんは、なんとかして良いところを見つけようとしてくれたのか、ひたすら食べてくれてて。僕がいきなり店を始めようとしてることも知ってたから、ちょっとだけでも飲食店の勉強をした方がいいと、ガクヤで働かせてくれたんですよ。

そういう流れだったんですね。『GAKUYA BURGER』はどれくらい手伝っていたんですか?

トータルで3、4ヶ月くらいかな? 教わったことといえば食材の管理方法とか、飲食のほんまに基礎の基礎。店を始めることは決めてたから、それまでに最低限のことだけ教えてもらった感じでした。それでも正輝くんは「バーガーのことなら教えてあげられるよ」って、最後まで僕のことを心配してくれてましたね。

想像していたより短期間でした。もっと長く働いて勉強することを考えたりはしませんでした?

なかったなあ。ホットドッグ屋になるって決めてたし、ガクヤで働くことが目的じゃなかったから。期間を決めて吸収できることを全部学んじゃおうって考えてた。今思ったらゾッとするけど、なんやったら何も学ばずにオープンしようとしてたんでね(笑)

決めたことにはとことん一直線ですね。

正輝くんからは流石にソーセージの作り方は教えてもらうことが出来ないので、そこは完全独学でした。小学校の遠足以来に『ハーベストの丘』に行って、子ども達に混ざってソーセージ作り体験に参加したこともあります。ひとりだけメモを持って先生にいろいろ質問して、厨房も見学させてもらったりして。完全に浮いた存在でしたね(笑)

光景を想像すると面白いですね(笑)

とりあえず作ってる人のとこに行かなければと思って、ネットで調べてすぐ行ける場所が『ハーベストの丘』しかなかったんです。そんなことをしながら、自宅で試作を日々繰り返してましたね。店の契約は済んだけど、肝心のソーセージはまだ完成してなくて。正輝くんがフレンチのシェフを紹介してくれたおかげで、いろんなスパイスの使い方も教えてもらえて、なんとか納得するソーセージが作れるようになったんです。

私物用の本棚には、雑誌やZINEに混ざって、ソーセージのレシピ本がたくさん置いてある。
周年記念で制作したオリジナルのZINE。友だちをモデルに起用し、その人の日常の中にある光景とホットドッグを撮影したもの。「1年くらいかけて撮影してたので、めちゃくちゃ大変でした(笑)」とのこと。

オープン当時のソーセージって、今のソーセージとだいぶ違うものですか?

そうやと思うなあ。もちろん、その時はベストな味だと思って作ってるけど、焼き方だったり肉の詰め方だったり、スキルはどんどん上達してるし。今でもスパイスを少しずつ変えて、ちょっとずつ味に進化を重ねてますね。

オープンから変わらず愛用しているソーセージメーカー。

まだまだ進化の途中というワケですね!

そう考えると、マジで最初のソーセージは二度と作れない味でしたね(笑)。周りは8年もお店が続いてることをすごく褒めてくれますけど、飲食でのバックボーンがなかった僕にとっては、料理と触れ合った年月も同じ。料理人は料理を作る前に味がわかるっていうけど、僕にはそんなの出来ないから、とにかく作り続けてひたすら試行錯誤してます。やっぱり、せっかくお店をやるなら師匠のこと超えたいし、同じものをしたくない。正輝くんに刺激を与えるような存在になりたいっていう想いは、今も変わらずありますね。

もう一度、『FAT DOG STAND』としての店のあり方を考え直すフェーズに入ったのかも。
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Profile

佐竹 拓哉

レペゼンVALLEY TOWN(谷町)なホットドッグスタンド『FAT DOG STAND』店主。愛称はたくちゃん。元B-boyで、現場の最前線でストリートカルチャーを吸収し、そのエッセンスは店やライフスタイルにも。現在の愛車は自らリビルドした『KONA JAKE THE SNAKE 700』。

Instagram:@fatdogstand

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