ノリと気合いと、愛があれば。『bistro ENISHI』の谷本悠一さんが仲間と歩んで築いてきた、飲食店の普通じゃない姿とそのカタチ。
最初は誰だって素人だけど、今はプロとして胸を張れるメンバーばっかり。極端な話、チームみんなでスペインにお店を出すとか、そんな無謀なチャレンジもおもしろいなと。
仲間もお店も増えている今、『bistro ENISHI』から始まったお店の変遷も聞かせてください。まず2019年2月に『Écle Enishi』が新町にオープンして、淡路町時代の『bistro ENISHI』は2020年1月に一旦クローズしてますが、その経緯とは?
オープン当初は大変だった『bistro ENISHI』も徐々に手応えを感じられるようになり、常連さんも増えてきた中で、新しいお店を出すなら同じ業態で広げるのはイヤだったんです。やるならどこにもないものがしたいけど、「これならイケる!」ってのもない。そんな時に思いついたのが、モダンメキシコ料理でした。タコスが大好きってわけじゃなかったんですが、包むという発想はおもしろいなと。別にフォアグラ包んでもタコスだし、絶対うまいはず!じゃあ、トルティーヤにも色をつけようって感じで。だから、新町の『Écle Enishi』は、ちょっとした発想から生まれたお店なんです。
発想ありきで、実行してカタチにしていくのがすごい。淡路町のお店をクローズしたのは何か理由があったんですか?
サブリースで借りてたので家賃も高かったし、常連さんが増えてきたらいつかは出ようと考えてたんです。ちょうどスタッフが辞めるタイミングもあったので、だったら『Écle Enishi』に絞った方がいいかなと思って。
なるほど。でも、2020年1月にクローズして数ヶ月後にコロナ禍になったから、結果的にその決断は功を奏したのかもしれませんね。
『Écle Enishi』としてはオープンして2年目を迎えてすぐにコロナ禍になりましたけど、あんまり大変さは感じなかったんです。仲間にも恵まれてたし、普通の営業ができないなら料理形態も変えてしまおう。それくらいフレキシブルに動ける体制だったから、思いきってアラカルトメニューからコースのみのお店にシフトしました。この時もまたノリに近い感覚で、「コースにするならペアリングもしよう!でもワインは普通やから、カクテルで考えよう」って。ただ、誰もカクテルの知識なかったんですけどね(笑)
修業のターンですね。
はい(笑)。やってきたことをゼロに戻し、料理形態を変えることで今まで来てくれてたお客さんは来にくくなるけど、この時間は僕らが成長するべき時間だと覚悟したんです。一旦はお客さんに合わせるんじゃなくて、僕らの成長に合わせてもらおうと思いました。コースを構築しながらいろんなカクテルを作って、「今しんどいけど考えを止めたらあかん!コロナ禍が明けたら絶対に景色変わってるから!」って言い続けながら、みんなで半泣きになって試行錯誤する毎日。でもね、100回くらいペアリングを試したら、バチっと合う瞬間があるんですよ。「これや!これや!」って感じで、ほんまに鳥肌が立つレベル。そういうのを繰り返してペアリングのコースが出来上がり、僕らの食材に対する理解、食べ合わせの妙へのこだわりは、より一層深まっていったんです。めちゃパワープレイですけど、それが僕ららしくもあるんかなと思ってます。
いろんな働き方、働きがいがある中で、ノリと気合いと愛を持って一緒に突っ走ってくれる仲間がいるのは、心強いですよね。
自分で言うのもなんですが、ほんまに仲間には恵まれてます。僕のコンセプトに乗っかって一緒に走ってくれてるから、経験したことや繋がりの全てがプラスになってほしいし、楽しめる環境を作っていきたい。過ごしてる時間もめちゃ長いので、家族よりも家族みたいな感じなんですよねぇ、みんなの存在が。
料理や空間ももちろん重要ですが、やっぱり人がお店の色、姿を形成していくものだと感じます。悠一さんは経営者ではありつつも、仲間のみんなにとっては兄貴的な存在でいるのも、このチームのいいところなのかなと。
スタッフや従業員って思うのがイヤなんですよ。だから仲間であり、チーム。新しいお店を作る時も、やっぱり人ありきで考えますからね。どうすれば仲間一人ひとりのポテンシャルを生かし、成長に繋げられるのか、そこはすごく大切にしてます。どんな仕事にしても、誰だって最初は素人じゃないですか。当然、僕もそうだったし。メンバーの中には、アパレルから転職してカクテルコンテストで日本4位になった子、パティシエからの転身でCHEF-1グランプリでも勝ち進む子、スーパーから転職して人一倍努力してシェフを務めるようになった子とか、元素人でも今はプロとして胸を張れるヤツらがいっぱいいるんですよ。
人が次の環境を生み、その環境がまた人を育てる。飲食業は人手不足も叫ばれてますが、いいサイクルで回ってる感じですね。
『Écle Enishi』は東京出店の話もあったので一旦クローズしてるんですが、現在は『bistro ENISHI』と2022年4月にオープンした『29.CENTRAL』(焼肉店と精肉店)、そして2023年8月にオープンしたモダン居酒屋の『やらずのあめ』の4店舗があります。それぞれのお店でいいメンバーが揃い、平野町のこの区画に集結できてる今は、チームとしても理想的なカタチになってきてるのかなと。
先ほど点と点を結ぶという話もありましたが、この街にこれからさらにいいグルーヴが生まれてきそう!お店の色や姿はそれぞれ違っても、“ENISHI”の名前の通りいろんな“縁”を大切にしてきて今があるなと思うんですが、悠一さん自身の生きていく上でのコンセプトって何かあるんですか?
もちろん“縁”もそうですし、生き方として大切にしたいと思ってるのは、おしゃれに楽しく稼ぐってこと。別におしゃれってしなくてもいいことだけど、例えば「あのお店に行くからおしゃれしよ」とか、自分の感覚的におしゃれだと思うものを食べて高揚感に繋がることって、あるじゃないですか。ブランド物や高価な料理がそうではなくて、あくまでも意識の高さやこだわりの部分。そういったこだわりが共存できているのがおしゃれな場所だと思ってるので、僕らも空間、料理、立ち振る舞いもおしゃれであるべき。まぁ、心の持ち方ですね。
お店とお客さんのこだわりが共存することかぁ、確かに!そんなお店は、いい景色に見えますし。
あと、楽しくというのは、自分たちが楽しんでいないと、ゲストも楽しめないってこと。僕らも時間を費やす場所だし、お客さんには時間を使っていただく場所だからこそ、まずは楽しむことが不可欠なんですよ。そして、ちゃんと稼ぐことがかっこいい。まぁ、最後は当たり前のことだけど。
やっぱりその生き方が、今のお店にも滲み出てますよね。お店やチームとしての今後のビジョンはどんなものを描いてるんですか?
東京にも出たいし、海外にも挑戦したい。僕は常に言葉に出していくタイプだから、これからの“縁”や出会いも大切にしながら動いていきたいなと。ただ、そこには自由度もあって、めちゃ極端に言えば、全てのお店を閉めてチームみんなでスペインのサンセバスチャンにお店を出すとか、ニューヨークに出すとか。無謀だけど、そんなチャレンジもおもしろいなと思ってます。
そこにノリと気合いが見え隠れするのも、悠一さんらしい(笑)。チームを引っ張るそんな一面がありつつも、周年では率先して酔いつぶれてたり(笑)、そういう人間味のあるところにチームのみんなは惹かれてるのかなと。
よく怒られてますけどね(笑)。でもまぁ、人間らしくは大切かなぁ。経営者と1人の人間としての脳内バトルもあるんですが、やっぱり人間の方が勝っちゃう。だから、最後は愛やなと。自分はもらってばかりやから、もっともっと人のことを愛せる男にもなりたい。失敗も成功も分かち合えればって思うし、そんな綺麗事を言うからには、綺麗にできるまでとことんやり続けないとあかんなってね。
<谷本さんのお気に入りのお店>
タコクイーン(大阪市淀川区西中島)
西中島南方にあるたこ焼きバーです。めちゃお世話になってて、僕のアナザースカイなお店!
南禅寺HARADA(京都市左京区鹿ケ谷上宮ノ前町)
お出汁が抜群の割烹料理屋さんで、仲良くしてもらいつつ、いつも勉強させてもらってます!
THE MUSEN IN SHOCK(大阪市中央区南船場)
南船場の大人気のカルチャースタンド。オーナーのテッちゃんの人柄大好きで、周年の時はゲストで立ったりもしてます!
odd numbers(大阪市中央区南船場)
DOBERMANのSWE君が営むセレクトショップ。僕の着てる服は、ほぼ全身がココで揃えてます!
bistro ENISHI
住所: 大阪市中央区平野町4-3-1
TEL: 06-4708-7128
営業: 18:00〜24:00
休み: 不定休
Instagram: @bistro.enishi
谷本 悠一
香川県高松市出身。2016年4月に淡路町に『bistro ENISHI』をオープン。同店は2020年1月に一旦クローズ後、2021年7月に京町堀に移転し、2024年4月に現在の地に。他にモダン居酒屋の『やらずのあめ』、焼肉店&精肉店の『29.CENTRAL』、モダンメキシコ料理の『Écle Enishi』(現在移転準備中)も営む。料理人としての本格的な経験はないながらも、ノリと気合いと愛、そして他業種で培ってきた感性を武器に、街の人気店を次々と手がけている。
Instagram: @yarazu_no_ame
Instagram: @29.central
Instagram: @ecle.enishi