『梅田羊肉串』の“働きたくない店主”尾儀洋平さんは、なぜ働きたくないのか。その本当の理由をインタビュー。


わかってもらえない人がくると、すごく場を保つのが難しくなるんです。だから、仲良くなれそうにない人には、いかにきっちり嫌われるかが大事やと思ってます。

Twitter、すごかったですね。バズった反響はいかがでしたか?

そうですね。ありがたかったですけど、でも望まない人が来る場合もあるので、バズった日は、大量のリプライの中から仲良くなれそうにない人を見つけて引用リツイートで晒させてもらうっていう魔除けの儀式をやりました。

そこはやっぱり、ある程度はセグメントしていかないとってことですか?

ある程度どころか、強烈にセグメントしておかないと、この店は成り立たないんです。なぜ今このやり方が成立しているかって、みんなが協力してくれてるからなんですよ。そこをわかってもらえない人がくると、すごく場を保つのが難しくなるんです。何このわけわからん感じっていうのが面白くて来てるのに、その感じがわからない人が来ると興が醒めるというか。

なんとなくわかる気がします。空気感の違う人が来てしまうと大変な感じ…。

そういう人たちも、別におかしなこととか間違ったことを言ってるわけじゃないんですよ、僕が合わなさそうというだけで。でもそうやって引用リツイートすることで、僕が仲良くなれそうにない人とエンカウントする確率が下がるんです。仲良くなれそうにない人には、いかにきっちり嫌われるかが大事やと思ってます。

認知度が高まったがゆえの悩みですね。

僕が店をやってるのは、仲良くなれそうな人にどうやったら出会えるかっていうのが一番なんですよ。だから、そうやってセグメントしておかないと、今ここが好きで来てくれる人たちが、「なんか感じ変わったなあ」みたいになるのは嫌なので。今来てくれてる人が基本で、その人たちと仲良くなれそうな人は歓迎ですっていう感じ。だから、新しく来た人でも、この人いいな、仲良くなれそうやなと思ったら、公開でえこひいきします。

好きな人、そうじゃない人、わかりやすく公開しちゃうと。誰でもウエルカムではないというのが、飲食店の形として面白いです。

でも実際ね、小規模店で成り立つのはむしろ、誰でもOKって感じじゃないと思うんです。地方はまた違うと思うけど、特に都会では。僕は、うちをいいと思って来てくれてるお客さんたちに、安全に知らない人と知り合える場所を提供したいと思ってるんです。なので、合わなさそうな方には、極力嫌ってもらえるように。

それぐらいしておかないと、安心して出会える場所にはならないと。

例えば、ここに来るのに迷って何回もリプライくれた方もあったんですけど、僕はもう「知らんがな」って返したんです。Googleマップより丁寧な説明ができたら、僕GAFAの一角に食い込んでますよね。その方がもし来店したとしても、一事が万事で、コミュニケーションコストがすごくかかるんですね。そうなると、僕が仲良くしたいと思ってる人に掛けられるコストが減るんです。誰にでも平等に接するほど、僕によくしてくれる人に公平にお返しすることができなくなる。それが僕は嫌なので。

営業時間中も、お客さんとスマブラに興じる尾儀さん。こんなことができるのも、独自の「働かない店主」システムならでは。

なるほど…!正直、思っていた以上に「働きたくない」の真意が深くて、びっくりしました。

こうやって喋れる時間があればいいんですけど、今みたいな話を短時間で伝えるには、「働きたくない」って言ってしまうのがわかりやすいんです。完璧にピントが合ってるわけじゃないけど、ふんわりは伝わるので、仲良くなったらだんだんこういう話もしていけたらいいかなって。

SNSの印象では、ただただ働きたくない変わり者の店主さんをイメージしていました。

まあ働きたくないはないんですけど。でも若い子に「僕も働きたくないんです」って相談されて、おおええやん!って前は答えてたんですよ。でも、働きたくないって言うても、やらなあかんことをやらんとただ辞めても、そら何にもならんわなって。だから最近はあんまり簡単に、働かんでええって言わんようにしてるんです。

「働かない」ってむしろ、難しいなと思いました。尾儀さんは将来的に、どうなっていきたいと考えておられますか?

もっと仲良くなれる人と付き合っていきたいです。店を増やしたいとか大きくしたいとかはないですね。機会があって面白そうやったらやるかもですけど、そんな野心的なものは全くないです。

テーブル席で鍋の準備をする尾儀さん。友達でも知り合いでもなく、居合わせた人同士が鍋をつつき合う。

大儲けしたいとかもないですか?

ないですね。さっきもちょっとツイートしたんですけど、ダンバー数っていうのがあって、人間は脳の容積的に、社会的信頼関係を築ける上限があって、それがだいたい150人ぐらいらしいんです。旧石器時代とかの遺跡を見ても、ひとつの集落の人数はだいたい150人程度で、それを超えると共通の言語や法律とかを共有して組織化しないといけないらしいんです。ということは、僕一人が普通にへらへらやりながら仲良くなれる人間は150人なんですよ。それなら、この小規模店は余裕で成り立つので、僕はもうそれでいいんです。

それ以上になっちゃうと、もっと組織的なものになるんですね。

働きたくないとか言ってられなくて、もっとわかりやすく価値共有できる仕組みを考えないといけなくなるんですよ。そんなことしたいわけじゃないから、身の丈に合ったここがちょうどいいんです。
やりたいことでいえば、人間関係の濃度を増すだけ。多くの人と薄く広くつながるより、150人との関係性を濃くしていきたいと思ってますね。

働き方としても、生き方としても、新しい気がします。

でももしかしたら、古いのかもしれないですよ。もっと原始的というか、言語化される以前の社会とかは、そうなってたんじゃないかなって思います。


<尾儀さんのお気に入りのお店>

エデン難波(大阪市中央区西心斎橋)
日替わり店主のバーなんですけど、店長の南野さんと仲良くて、よく店をサボって行ってます。自分が誰と付き合いたいかとか、そういうことをコントロールしようとする意識を持ってるところが近いですね。

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Profile

尾儀 洋平

中華料理店に勤務し、中華料理店を経営した後、ビル管理会社を経て2019年大阪・梅田に『梅田羊肉串』をオープン。「働きたくない店主の店」を標榜し、ドリンクはセルフ、料理は勝手に提供という独自のスタイルで営業。ひっそりフェードアウトさせていた羊肉串は「お客自身が串を打つ」ことで復活、そのことを告知したツイートが大バズりし話題を呼ぶ。現在唯一情熱を傾けているものはスマブラで、スマブラオフ会等も開催。

Shop Data

梅田羊肉串

料金システム:飲み放題1,000円/1時間、永久に出てくる料理1,000円/営業時間
営業時間:店主の興が乗ってきたら~労働意欲がなくなるまで (ツイートで告知)
定休日:日曜・祝日

入店にはTwitterかInstagramのフォローが必須。

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