ラーメン×甲子園×カルチャー。いろんな縁と運命にたぐり寄せられた『ストライク軒』のアッシーさんが描く、人と人との繋がりの先にあるもの。
オーナーが残した200万円くらいの負債を肩代わりして返済し、出店資金を貯めて天満に居酒屋をオープン。ヤンチャな人や愚連隊みたい奴しか来なかったのに、急に医者とか社長とかが来るようになって…。
ラーメンと甲子園が繋がったわけですが、大阪にはいつ出て来たんですか?
高校では全く勉強してなかったので一浪して、大阪の大学に入学したんです。当時はバリバリ伝説を読み過ぎてたおかげでレーサーを目指してて、大学ではすぐに二輪同好会に入りました。バリバリ伝説の登場キャラである聖 秀吉と誕生日が同じだったことにも、妙な縁を感じてしまって。それで、翌週からはバイクに乗って膝擦り小僧状態です(笑)
のめり込むと、とことん派ですね。
とりあえず何でもやってみよう精神は昔からありましたね。ただ、バイクを買うためにお金を貯める必要もあったので、ミナミのパブでバイトを始めたら、次第にそっちの世界にのめり込んでしまって…。結局、大学は中退してしまったんです。
中退してもいいと思えるほど、楽しかったと。
部活の延長みたいな感じでしたし、バンドしてる人も多かったから楽しかったんです。それに今思うと飲食業のイロハを叩き込まれて、相当鍛えられたなと。接客方法は今でも思い出しますし、あの経験がなければ飲食業をしてなかったと断言できるほど。
お金じゃ買えない経験だったんですね。でも、両親は説得できたんですか?
親父には思いっきりぶん殴られましたね。しかも、車の運転中に…。まぁ仕方ないと思います。もう学生じゃないし、自立して稼がないといけなくなったので夜のパブは続けつつ、昼間はリッツカールトンホテルの洗い場でバイトを始めました。料理の鉄人にも出てたシェフのお店だったんですが、「洗い場が的確だ!」と褒められて、スゴイ気に入ってもらえたんです。そのシェフとは今でも仲良くさせてもらってますね。
昼夜掛け持ちでバイトして、どんどん飲食業にシフトしてますね。
でも、ここから人生のドン底が始まるんですよ…。
順風満帆そうですか、何かあったんですか?
先ほど話したパブの下のお店のオーナーと偶然知り合い、新店を出すので店長をしないかと誘われたんです。いい話だと思ったんですが、実際に働き出すと給料も払ってもらえず、挙げ句の果てにはオーナーが飛んでしまって…。家賃も滞納してるし、ツケで飲みまくってた請求がお店に届いて取り立てに来たりで、完全にハメられたなと。
それは笑えないですね…。
僕自身もお金がないから家も引き払い、Tシャツとパンツの着替えをナイキのシューズボックスに入れて持ち歩きながら、知り合いの家を転々とするようになってましたね。体重も46キロくらいまで落ちてたし、精神的にもボロボロな状態。債権者側としては、オーナーが飛んでて僕からしか回収できないので、図書館で法律の本を借りて何とか対応してる感じでしたね。
マジですか…。そんなドン底の状態から浮上するきっかけは何かあったんですか?
親から仕送りもらって大学にも行かせてもらい、それでも中退してこんな事になってしまった。親のスネはもうかじれないし、自分で何とかしないといけないと思ったんです。それで、自分でケジメをつけるために天満に『マッシュアップ』という居酒屋を2003年にオープンさせました。あのオーナーが残した200万円くらいの負債は肩代わりしてきっちりと返済し、出店資金を貯めてようやく再スタートできたんです。
肩代わりした負債を完済したのもスゴイですし、腹をくくって大勝負に出たと。
調理師免許も取って、本気で始めましたね。もちろん、すぐに軌道に乗るわけないんですが、お店のすぐ近くにストリップ劇場があったんですよ。そこには伝説のセクシー女優さんがたくさんいてて、ショーの後にみんなが来てくれるようになってね。最初は本物かどうかも分からんし、偽者かと思ったくらい。だって、青春時代のエロスが突然舞い戻ってくるみたいな感覚なので、「え、何で?」状態になりますよ。みんなほんとにいい人ばっかりで、その中の1人、吉野サリーちゃんが料理人を紹介してくれたんです。その人が、僕の人生を大きく変えてくれた料理人の松本シェフでした。
エピソードの振り幅がめちゃくちゃ広いですね(笑)
松本シェフと仲良くしてもらう中で、料理のこともたくさん指導してもらえました。そこからさらに料理にのめり込み、スペインの三つ星レストラン『エル・ブジ』のビデオを貸してもらい、オーナーシェフのフェランが日本で訪れたお店も全て行きました。料理に対する気づきもたくさん生まれたし、それ以降も『マッシュアップ』でお世話になってる仲買の魚屋さんにいろんな名店を紹介してもらい、食べ歩いて自分の料理をどんどん磨き上げていったんです。
昔の音楽の話もそうですけど、好きなものや自身が熱量を注ぐものへの探究心は相当ですよね。
そうやってどんどん料理に打ち込んでいると、またまた人生の転機がやって来ましてね(笑)。今で言うインフルエンサーやブロガー的な人が来店し、料理の批評を自身のサイトに公開してくれたんです。そのサイトには名だたる高級店が載ってたんですが、『マッシュアップ』の料理の点数がめちゃくちゃ高くて…。次の日から、電話がじゃんじゃん鳴り出したんですよ。
スゴイ影響力!
今まで毎日数えるくらいの人しか来てなかったから、こっちも「えー!!!」みたいな。しかも、医者とか社長とか、地位のある人ばっかりで、「ちょっと待って!客層ちゃうやん!」状態ですよ。ヤンチャな人や愚連隊みたいな奴しかおらんお店だったのに(笑)。テレビや雑誌にも出てる有名な料理人の方も来たりして、正直、お店としては正解なのか不正解なのか分かりませんでしたね。
その変貌ぶりには戸惑いしかないですよね(笑)
気づいたら『あまから手帖』の居酒屋の星という企画でフィーチャーされたり、料理の業界誌などからもたくさん取材を受けたりするようになってました(笑)
でも、アッシーさんが本気で料理に取り組み、おいしい味を生み出してたからこその結果だと思います。やっぱり、おいしいお店は人が人を呼びますし。
ほんと感謝しかないですね。
じゃ、その頃からさらに人との繋がりが広がっていく感じですか?
そうかもしれませんね。正道会館が近いので元K-1ファイターの中迫さんもよく来ていただいてて、ある日「ジュンスカのライブ行く?」って誘われたんです。そのライブの打ち上げで宮田さんとお会いして意気投合し、今では家族ぐるみで仲良くさせてもらってます。小学生の頃から大好きなバンドの方とそんな関係が築けるなんて、幸せなことですよね。僕が昔から大好きなブランド『ギャラリー1950』の北さんは「宮田さんが来たんでしょ?」と言って足を運んでもらえましたし、北さんの飲み友だちがジュンスカの元マネージャーだったソニーミュージックの方で、そこから音楽関係の方がたくさん来るようになったり。ジュンスカの純太さんが「民生君が2回来たらこの店は本物だよ」と言ってたんですが、奥田民生さんも2回来ていただきました。
憧れの人たちが続々と…。
自分のお店に自分の大好きなバンドの人たちがわんさか来るなんて、「何これ?」「どうなってんの?」状態で、考えられないことですからね。シャンプーハットのてつじさんも、芸人さんをたくさん連れて来てくれますし、音楽とお笑いの“宮田さん”にはスゴイ縁があるんだなと。
それだけの人が集まるって、おいしさだけじゃなく、アッシーさんの人柄と人徳もあるからなんでしょうね。
これまでの人生で、人と人との繋がりはほんとに大切にしてるんです。ドン底も経験しましたけど、そこを切り抜けられたのも、やっぱり人との出会い、繋がりがあったからこそなので。人ってスゴイな、人の力ってスゴイなと、日々思ってます。
アッシー/芦田雅俊
愛媛県宇和島市出身。グルメな居酒屋『マッシュアップ』やオールドスクールなラーメンスタイルを貫く『ストライク軒』を展開する株式会社無線飲食の代表。趣味は温泉&サウナで、『ストライク軒』は和歌山県湯浅町の二ノ丸温泉にも出店しており、公私に渡って風呂ライフも進行中。スニーカー好きで、STUSSYコレクターという一面も。
ストライク軒 NOODLE STUDIO
兵庫県西宮市甲子園町1-82 阪神甲子園球場レフトスタンド1F
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定休日/月曜