夜遊びでしか生まれない何かがある。東京、ニューヨーク、大阪を駆け巡ったOrangさんのシネマティックな半生から見えてくるもの。
借金240万円を背負って、大阪に引っ越すという転換を迎えました。

ちなみに、高校を何度か留年したのには何か理由が?
クラブ遊びの影響で徐々に学校に行かなくなったんです。行ったとしても、朝方にクラブから帰ってきて、周りが登校する前から学校に来てずっと寝てるみたいな。だから勉強もほぼせずの高校時代でした。父から「高校だけは卒業してほしい」って言われたのもあって、目指してはいたんですけど、やっぱり難しくて、しまいには社会と数学の先生から「タカベ君はもう卒業させない」ってはっきり言われちゃって。親と話した結果、そこからは通信制に切り替えました。
逆に言えば、それだけダンスや音楽の世界にのめり込んでいたわけですね。
かっこよく言えば「のめり込んでた」だけど、もう遊びたい欲しかなかったですね。実は、通信に切り替えた後も熱心にやってなくて、最後の1年間は、青山学院に通ってる女の子にレポートを手伝ってもらってなんとか卒業できました。
高校卒業後はどういった生活になったんですか?
通信を卒業できたのが19歳なんですけど、ちょうどその頃に3つ下の彼女ができます。芸能の仕事をしていた子なんですけど、事務所に借りてもらってる下北沢のマンションに、事務所に内緒で僕も住まわせてもらうことになり、そこで初めて実家を出ることになります。しばらく一緒に過ごしていると、当然、僕の影響でその子もブラックカルチャーとかニューヨークが好きになるわけですね。そこで事務所に頼んでお金を出してもらって、語学留学という名目でニューヨークに行くことになったんです。でもそうなると、それまで住んでたマンションに住めなくなりますよね?そこで、再びその事務所に内緒で、僕もニューヨークについて行ったんです。2日目にはバイトを見つけて働いていました。


早いですね!どんなお仕事を?
一番はじめは、日本人向けのホテルのスタッフです。たぶんすごくお金持ちの日本人が、当時所有されていたマンションをホテルに改装するということでスタッフを探されていて。僕はIKEAに行って木材やベッドを買ってきて組み立てたりして、部屋が完成したらルームキーパーの仕事を任されました。チェックインの対応と、たまに観光案内の手配もしたり。でも本当にお金がなかったんで、朝、ホテルに出勤したらまず一番上の部屋からお客さんが置いてったチップを全部屋分かき集めて、そのお金で近くのデリでコーヒーとベーグルだけ買って、ホテルの屋上でそれを食べるというルーティンで1日がスタートしていました。
かっこいい!まるで映画のワンシーンですね。
あとは「トウキョウビデオ」というバイトもしていました。日本のテレビ番組が録画されたVHSがニューヨークに送られてきて、それをデュプリケーターっていう複製機で焼くんです。できたテープを日本人がやってるお店とか住んでる家に配達して、1週間後にまた回収するという。だからホテルスタッフとトウキョウビデオですね。要はビザがなくてもできるバイトを探していました。

それにしてもOrangさんのサバイブ能力の高さが分かります。
能力というか、何も考えてなかっただけですけどね。合計半年くらい滞在していたんですが、最後、彼女と仲が悪くなってしまって、住む家がなくなるんです。1ヶ月くらいは友達の家を転々としたのち、いよいよ彼女とお別れすることになって、帰国しました。
帰国後は、再び東京に戻られたんですか?
はい。でも、ちょっと言いにくいんですけど、ニューヨークから帰ってきてからは、一番遊びほうけてた時で、家もいろんな友達のもとを転々としてたんです。しかも当時は、あらゆる消費者金融会社から金を借りまくっていて、その結果、借金の合計が240万までいってしまって。しかも当時のそういう会社って、取り立てがめっちゃ怖いんですよ!職場の他の人も同じく借金しまくっていたので、毎日職場に電話がかかってきて「おい!○○がいるの、わかってんだぞコラ!」って怒鳴られる日々でした(笑)

これもまるで映画のようですね。大阪に来られたのは何歳の頃ですか?
24歳です。当時の彼女との間に子どもができてしまうんです。「絶対産みたい!」と言われて、僕も何も考えてないから「よし、わかった!」と言ったものの、借金まみれだし、当時の給料は手取り17万とかだから回るわけがないんですよ。働いていた会社の社長から「お前いろんな噂聞くけど、大丈夫なんか?一回今の生活状況を見せてみろ」と言われ、借金のリストを見せたら「もう終わってもうてるやん」って呆れられてしまって(笑)。でもその方から「借金を返すっていう体で3年間家族で大阪で暮らして、返せたらまた東京に帰りなさい」と温情を与えていただきました。そういうわけで、奥さんと、産まれたての赤ちゃんと、猫2匹、そして借金240万円を背負って、大阪に引っ越すという転換を迎えました。

髙倍 優介 a.k.a Orang
東京都出身、大阪市在住。古着やインポートものを扱う『DAILY DOSE quality stuff』と『SIGHTO』、家具や雑貨、古着を扱う『CopyArt Collective』のオーナー。USカルチャーへの深い知見や、ファッションやダンス、クラブシーンに傾倒した経験を活かし、堀江〜アメ村エリア随一の人気を誇る3店舗をプロデュース。「Orang」は、RALPH LAURENの蛍光オレンジのニットを好んで着ていたことから先輩ダンサーに命名されたストリートネーム