この世界でしか味わえない快楽があって、僕はそれをどうしてもやめられない。ピン芸人・九条ジョーの今、そして可能性に満ちたこれから。


コンビ時代はずっとM-1に囚われていて、プレッシャーを感じていました。ピンで活動するようになって表情が優しくなったと言われます。

1月末にコンビを解散されて約半年が経ちました。改めて、解散の経緯を聞いてもいいでしょうか?

九条:「なんで離婚したんですか?」って熟年夫婦に聞いた時に、これが原因ってなかなか出ないと思うんです。決定的な何かがあったわけではなく、お互いやれることはやり切って、次のステップに行きたくなったような感じです。我の強い2人ですし、このまま行った時にどんな未来が待っているかもある程度見えてしまったというか。バイトせずに飯も食えて、知名度も上がってきて。だけどこのまま突き進むより、別の道で行けるかどうかを試したいっていうところが大きいです。仲の悪さを取り上げられることが多いし、話を振られたらボケてそう言わないといけなかったりもするけど、きちんと円満に前を向いた状態での解散でした。

自分の力を試したいという思いがあったんですね。

九条:どのコンビもそうだけど、ネタを書く側の人間と演じる側の人間、コンビの中でも上下関係があって、そこを取っ払いたい気持ちがあって。人からおもしろいと思われたいっていうのが芸人になった動機で、そんな思いを胸に1人でこの道を選んだわけやから、原点回帰みたいなものかもしれません。11年目のスタートということで、10年やってきたことに一旦ピリオドを打って、新しく始めるにはぴったりのタイミングでした。これから1人でどこまでやれるんやろうというワクワクもあります。

前回のインタビューで、「家の扉を開けた瞬間から、“九条ジョー”を演じないといけなくなった」というお話をされていたのが印象的でした。コンビを組んでいた時の九条さんとピンで活動している九条さん、違っていることはありますか?

九条:コウテイの九条ジョーの方が、より九条を演じないといけない強迫観念みたいなものを感じていました。自分だけじゃなく相方のことまで考えなきゃいけないぶん余計に。コウテイは僕がプロデュースしているコンビだったから、それに取り憑かれてた部分はあったのかもしれない。そこにがんじがらめになってしまって、動きづらさは感じていました。そういう思いもあって、先ほどのような言葉があったんだと思います。今は平気で(指でハートを作って)「キュンです」とか(悲しそうな様子で)「シュンです」とか、何の恥じらいもなくできるようになったので、逆に良かったかもしれません。もしM-1だけを目指して漫才のことだけ考えていたら、純粋に今日のような撮影も楽しめてなかったかも。今は仕事をいただけることに感謝していて、すべて全力で楽しむことができています。

ピンになって来る仕事は、以前とジャンルが違ったりもするんですか?

九条:やらせていただく仕事の幅が広がりました。今は自分に合うものって一体何なんやろうと探りながらやっている感じです。MARZELさんも前回は「コウテイの九条ジョー」というので僕にモデルをお願いしてくれたわけで、解散後もお仕事を振っていただけるのがありがたいです。

九条さんが人間的な魅力のある方だから、一緒に何かをやりたいって周りも思うんじゃないでしょうか。例え屋号がなくなったとしても。

九条:今の言葉太字にして書いておいてください。そう言っていただけるとすごく嬉しいです。

ピンになって恋愛バラエティショーにも出演されてましたよね。コウテイ時代には考えられない仕事だと思うのですが。

九条:えっ……、恥ずかし。なんで知ってるんですか(笑)

九条さんについていろいろ調べていると出てきました。

九条:そうなんです。現在の僕の主軸は恋愛バラエティで、これまで2~3番組出させてもらいました。彼女がいないし、芸人やから回せるしボケれるし、見た目も華があるのか使いやすいらしくて。毎回合コンして振られて、ほんと無茶苦茶ですよ。コンビを解散してすぐ恋愛バラエティに出て振られるっていう、こんなに泣きっ面に蜂なことってないです。相方もできへんし、彼女もできへんのか~いって言うて。だけど芸人としてはすごくおいしいので、大変ありがたく思っています。この間の番組では一応マッチングできたので、初めて連絡先を交換しました。今後は恋に仕事にがんばります!(笑)

がんばってほしいです(笑)。ピンネタとコンビでやるネタ、作りやすさに違いはありますか?

九条:10年積み重ねてきてるんで、やっぱりコンビのネタを書く方が良いです。そもそも舞台上にツッコミがいない状況で、どうやってウケるねんって最初は思っちゃいました。「なんでやねん」って言ってくれる人がいないので、「べっぴんさん、べっぴんさん、1つ飛ばしてべっぴんさん。そいでね……」って自分で続けなきゃいけない。その難しさはひしひしと感じています。だけど今は変なゾーンに入っていて、スベってることを楽しんでいる状態。ウケたら全部自分1人の力やから、それはそれでやりがいあるしめちゃくちゃ嬉しい。先日ピンになって初めて単独ライブをして、すごく大変だったけど、やりがいがあって楽しかったです。

自分だけを観に来てくれているお客さんばかりってことですもんね。コンビももちろん大変だけど、全部1人でやらなきゃいけないピン芸人さんもほんとすごいです。

九条:同期にゆりやん(ゆりやんレトリィバァ)がいるんですけど、あいつすげえなぁって解散して改めて思いました。こんな大変なことをずっと1人でやってたんやと。

今後はコンビで活動していきたいという思いもあるんですか?

九条:ないことはないけど相方選びがなかなか。もし組むなら前のコンビがよぎらないようなスタイルがいいので、理想としては男女コンビやトリオですね。もしくはウサギやゾウと一緒にやるとか。とにかくスタイルの異なる形にできればいいなと思っています。コウテイっぽいなぁと思われたら解散した意味がないので。

それでも九条ジョーは九条ジョーであり続けないといけない。難しいところですね。

九条:療養のため2~3ヶ月ほど実家に帰っている時、本当は芸人を辞めようと思っていたんです。だけどこのままフェードアウトは気持ち悪いし、自分の中で納得ができなくて。毎年M-1の敗者復活、準決勝にいって、あと1歩のところでコンビを解散して。こんな感じで終わるのは違うだろうと。重い腰を上げて戻ってきたところ、何かが吹っ切れたのか今はこんなのも(指でハートを作る)できるようになりました。復帰してからは、「顔が変わった」「表情が優しくなった」と会う芸人みんなに言われます。

確かにお顔がやわらかくなったような。

九条:コンビ時代はずっと思い詰めていたんだと思います。漫才にグッとなっている自分を書いていただいた前回のインタビューとは違って、今はモデルをしたり俳優をしたり本を書いたり、それらを全力で楽しんでいる自然な姿を出せているんじゃないかなと。お金の余裕はないけど気持ちの余裕はできたかな。僕、今の方がいいよな?

野村:今の方がいいよ。

九条:やっとイーグルのひと言目が出ました(笑)

野村さんから見て九条さんの変化は感じますか?

野村:去年はM-1に勝たなければっていう彼のプレッシャーを僕も感じていて、正直そこまでがんばらなくてもいいんじゃないかって思っていました。だけど彼はひたむきだから、それを僕が言うのは違うなと思っていて。長年蓄積された疲労やプレッシャーが、去年の年末に爆発したんじゃないのかなと。年末にご飯に行った時、解散するかもっていうのは聞いていたんです。でも彼自身が決めたことならいいんじゃないんかって。今年に入って恋愛バラエティショーにも出演していて、去年だったら正直考えられないなと。

九条:確かにそうやなぁ。

野村:今回のMARZELの企画内容だと、去年の九条は出たがらなかったかもしれない。解散を経ていろんな重圧から解き放たれて、いろんな表現を良しとできる寛容さを会得できた九条だからこそ、こんなに素敵な撮影になったんだと思います。それがもっといい方向に作用してくれたら、とてつもない爆発が起こるんじゃないのかな。

九条:ほんとにベストフレンド、めちゃくちゃいいこと言うよね。去年はイーグルにずっと気を遣わせてて、「ごめんなぁ時間がないのに」とばかり言わせてた。彼は僕にとって、心の奥底にある思いを共有できてさらけ出せる大事な友人です。

今は種まきをして、どの幹が大きく育つか観察している状態。この世界でしか味わえない快楽があって、僕はそれをやめられませんでした。
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Profile

九条ジョー

NSC大阪35期。2013年に結成したお笑いコンビ・コウテイを今年1月に解散し、現在はピンで活動。芸人としてはもちろん、俳優やモデル、作家としても活躍する。最近ではドラマ「だが、情熱はある(日本テレビ)」に出演。自身が運営する公式ファンクラブ「ボクノ終脳室」も要チェック。

公式ファンクラブ: https://www.kujo-jo.com/

Profile

イーグル野村

石川県出身。端正な顔立ちが特徴の<THE モンゴリアンチョップス>の看板スタッフであり、どんな時も身体を張れる貴重な人材。九条ジョーとは2018年に知り合い意気投合。九条がTV番組に出演する際のスタイリングを担当したりグッズ制作に携わったりと、活躍の場を広げている。

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