それは“お店屋さんごっこ”から始まった。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主・竹重みゆきさんの14年。
自由にできるようになって、実は足かせが取れただけだったんだなって。

千鳥橋に移転してから、元店長さんがお店を離れ、竹重さんが正式にオーナーになられたんですよね?お一人で切り盛りするようになって、どんな変化がありましたか?
彼が店長で、私は副店長だったので、あくまで私はサポートという意識だったんです。実際の業務はほとんど私がやってたんですけど、気持ち的にはそんな感じで。でも自分が店長とか代表みたいになると、矢面に立つことになるので、そこはやっぱり怖いなと思いました。何かあったときは自分の責任だし、金銭的にもやっぱり2人と1人じゃ違うし。最初はすごく不安でした。
でも、それまでも実質的には竹重さんが運営していたわけですよね?
そうなんですけど、ふわっと趣味の感じで始めて、覚悟もなくやってきたので、自分が店を背負っていくぞ!っていうマインドではなかったんです。でもいきなり辞めるわけにはいかないから仕方なく続けてたら、全然困らなかったんですよ。


え、そうなんですか?
はい、全然困らなくて。例えばこの床も、もともとガレージだったのでガタガタのコンクリートで、ずっと気になってたんです。でも前は勝手に変えることができなくて。だから、元店長がいなくなって爆速で大工さんに連絡して、床を張ってもらいました。そしたら、「あれ?自分の力でできた!」ってなって。これまではお伺いを立てないとできなかったことも自由にできるようになって、実は足かせが取れただけだったんだなって気付きました。
屋台骨を支えてたのは、竹重さんご自身だったと。
いつの間にかそうなってたんですね。でも副店長の頃に比べたら、やっぱり先のことも考えないといけないようになったので、そこは昔より大人になったかなと。勢いよく突っ走ってきた20代を経て、いまはちょっと変わってきたかもしれません。

これから、どういうことをやっていきたいと考えておられるんですか?
そういう将来的なことっていうよりは、出版をコンスタントに、せめて年1冊は出していこうとか、展示をこういうペースでやっていきたいとか。自転車操業なので、一度車輪を止めると動き出すのが大変なんです。いままでは行き当たりばったりでやってきたんですけど、これからはペース配分を考えてやってきたいなと思うようになりました。
社長ですね…!でも、始めた当時はミニコミというかZINEみたいなものがこんなにブームになることはイメージされてましたか?
まさかこんなことになるとは!って感じで。びっくりしてます。昔はSNSとかで情報を得て、ピンポイントに欲しい本を買いに来る方が多かったんですけど、いまはZINEというジャンル自体に興味を持って来てくれる方がすごく増えて。すべての棚をじっくり見て選んでくれるので、すごくありがたいですね。

本自体のクオリティも上がってますか?
印刷所で刷ったものが増えましたね。自分でデザインができない場合は、知り合いのデザイナーに依頼される方も増えました。そのほうが即売会でも手に取ってもらいやすいようです。ただ、コピー機で印刷して手製本したような本にも、きちんとした機械で作られた本にはない魅力があるので、クオリティの上下ではなく幅が広がったという捉え方をしています。
紙の本はなくなると言われながら、ZINEのような新たな文化も定着しましたよね。
ベストセラーとかは減ってると思いますけど、細分化されて草の根みたいなものがすごく増えてるので。多様化してますよね。
ZINEの中で竹重さんがいま注目されているのは、どんなジャンルですか?
最近すごく勢いがあるのは、やっぱりエッセイとか日記の本ですね。これからどういう感じで広がっていくのか、一時的なブームで過ぎてしまうのか、気になります。

一般の方の日記やエッセイが注目される時代なんですね。では最後に、これから出してみたい本や、構想中の本があれば教えてください。
いろいろあります。でも、実現させるのが先なので、それまでは内緒にしておきます!
<竹重みゆきさんお気に入りのスポット>
梅香東公園(大阪市此花区梅香1)
『シカク』の近くにある公園で、広くてベンチがたくさんあるので、気候がいいときはここでお弁当を食べてからお店を開けたりしています。春は桜が満開になって特に綺麗です。
安治川トンネル(大阪市此花区西九条~西区安治川)
全国的にも珍しい、川の底を通るトンネルです。自宅から『シカク』へ行くときにこのトンネルを通るんですが、川を挟んだ2つの町の雰囲気がけっこう違っていて。ワープゲートを通ったような、ちょっと非日常的な感じがして楽しいです。

竹重 みゆき
大阪府枚方市出身。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主。
専門学校卒業後、就職せずに“お店屋さんごっこ”感覚で、住居兼店舗の1Kからミニコミ誌ショップ『シカク』をスタート。中津商店街への移転を経て、2017年より千鳥橋に拠点を移し、ミニコミ、リトルプレス、CD、雑貨、衣類など、普通のお店に置いているけど普通の人は買わないようなニッチなアイテムを集めたセレクトショップとして営業中。展示やイベントも開催し、出版レーベルとしても活動。