かわいくて、懐かしくて、どこか切ない。竹内みかさんがメロディペットに見出したのは、儚き「無常観」。

「メロディペット」を覚えていますか?幼い頃に遊園地でよく見た、お金を入れるとメロディが流れてゆっくりと動き出す、あの動物型の遊具です。最近は各地の遊園地が閉園し、メロディペットも減少傾向に。そんな消えゆくメロディペットをテーマに作品を発表しているアーティストが、竹内みかさんです。神戸を拠点に活動する竹内さんの個展のタイトルはすべて「センチメンタル・パーク」。懐かしくて、でもちょっと切ないメロディペットたちの姿を、絵画やインスタレーションで表現しています。今回は、国内外のメロディペットがいる遊園地をフィールドワークしている竹内さんおすすめの「生駒山上遊園地」で取材を実施。メロディペットに心惹かれる理由やその魅力など、たくさんお話を伺いました。読んだ後はきっと、メロディペットに会いに行きたくなっているはず!
講師の安齋肇さんに、「愛人はやめなさい、本妻になりなさい」って言われたんですよ。

今日は3体のメロディペットに会えましたが、生駒山上遊園地のメロディペットたちはいかがでしたか?
貴重な2人乗りタイプでしたね。今は1人乗りのメロディペットミニが主流なんです。2人乗りはもう製造されていないので、なくなる一方だと思います。

1人乗りや2人乗りがあることも知りませんでした。竹内さんはメロディペットをテーマにしている、おそらく世界でただ一人のアーティストさんだと思うのですが、まずアーティストになろうと思ったきっかけから教えてください。
子供の頃からずっと、何かを作る人になりたくて。大学ではグラフィックを専攻して、卒業後は広告代理店でデザイナーとして働いていたんですけど、仕事に慣れてきた頃に、趣味で神戸のイラスト教室に通い始めたんです。そこで、絵を描くってやっぱり楽しいなと思って。絵描き仲間もできて、信頼できる講師にも恵まれて、私も絵を描くことを仕事にしたいと思うようになりました。
グラフィックデザイナーのかたわら、絵を描くことを仕事にしようと思われたんですか?
残業の多い仕事だったので、両立は無理だなと思って会社は辞めました。一念発起してイラストレーターとして活動を始めたときに、同じイラスト教室にもう一度通いなおしたんです。そのときの講師が、イラストレーターの安齋肇さんで。今までの作品を見ていただいたんですけど、全然ダメって言われて。「愛人はやめなさい、本妻になりなさい」って言われたんですよ。

愛人ではなく本妻に、というのは、どういった意味でしょうか?
その当時の作品は、自分がすごくリスペクトしている作家さんの作品に似ているところがあって。なんだろう、それは自分のオリジナルじゃないというか。
なるほど、2番手じゃなくて、1番のオリジナルを目指しなさいというような。それは、ご自身でも思うところはありました?
ありました。だから、その通りやなと思って、めっちゃ悔しくて一晩泣きました。でも、「愛人はやめなさい、本妻になりなさい、君ならなれるから」って言ってもらえたんです。それがきっかけで、自分だけのオリジナリティのあるものを描こうと思って、まずモチーフ探しから始めました。カメラを下げて、近所を散策して、自分の心に留まるものを写真におさめるっていうことをしてたんですけど。そのときに出会ったのが、メロディペットでした。

それはどんな出会いだったんですか?
神戸ハーバーランドのモザイクガーデンに昔は遊園地があって、そこにメロディペットがいたんです。誰にも乗られずに、3体ひっそりといて。それを見たときに、なんとも言えない気持ちになって、言葉にできない感情が沸き上がってきて、これだ!って思いました。
これだ!って。出会ってしまったんですね。
出会えました。言葉にできない感情が沸き上がるって、なかなかないじゃないですか、そういうものって。
その感情を、どういうふうに作品として表現されたんですか?
すぐに絵を描きたい!と思って。ハーバーランドで出会ったメロディペットの絵を描きました。それまではずっと小さい作品しか描いてなかったんですが、初めて140㎝ぐらいの大きなキャンバスに描きました。やっぱりメロディペットの良さを伝えるには、等身大ぐらいのサイズ感で描かないと伝わらないなと思って。
メロディペットの魅力は、小さいキャンバスにはおさまりきらないと。
タッチも写実的になりました。それまでは、デフォルメしたかわいい動物のイラストを描いていたんです。でも、例えば毛並みも、たくさん子供たちに愛されて汚れた感じを伝えるには、写実的に描かないといけないなと思って。

メロディペットと出会ったことで、アーティストとしての方向性が一気に定まった感じなんですね。それからずっとメロディペット一筋ですか?
そうですね。2012年くらいからなので、出会って13年ですね。

竹内 みか
神戸市出身、在住。大阪芸術大学短期大学部デザイン美術学科卒。広告代理店勤務のグラフィックデザイナーを経て、神戸元町にあるギャラリーVie主催の「絵話塾」で学ぶ。2010年から制作を始め、主にメロディペットと呼ばれる動物型遊具をモチーフに作品を発表。これまで国内外約80カ所の遊園地でフィールドワークを行なう。「六甲ミーツ・アート芸術散歩2020」オーディエンス大賞グランプリ、「Independent Tokyo 2024」準グランプリなどを受賞。