加古川をカルチャーの街に!『Factory No.079』の岩本卓也さんが、地元を盛り上げるために歩んできた15年の軌跡と、これから見たい景色。
あの図書館は歴史ある建築物だから、取り壊さないように署名を集めてるんですよ。個人的には「クラブにしましょー!」って、言い続けてます(笑)
では、ここからは岩本さんと、『Factory No.079』で行われていたART SHOW『SORE TO KORE』で加古川に戻って来ていたNAOKI SAND YAMAMOTOさん、2人と親交の深いMHAKさんにも加わっていただき、加古川の街をぶらりと歩いたロケの模様をお届けします!
加古川の街を歩くのは初めてなんですが、大通りから中に入ると、めっちゃくちゃ雰囲気がシブいですね。
岩本:古い街ですが、路地裏もいっぱいありますからね。『RUSTIC』っていうレゲエバーは加古川で27年続く奇跡の店で、イベントで鬼ほど音を出してもクレームが一切ないんですよ。小さい店だけど、路地から通りまで人があふれてる時もあるくらい人気で。
NAOKI:この辺りでよく遊んでたなぁ。ばあちゃんの家がこの辺りで、BB弾を拾ったり、近所の鰻屋で骨せんべいもらったりしてたから思い出深い。実家の喫茶店もすぐ近くにあるし。
MHAK:『アンクル』ね。
岩本:僕もちょくちょく行ってますよ!
NAOKI:じゃぁ、後で行こっか。
行きましょ!岩本さんが始めた『NEW BUILD』は、加古川の名店『エデン』のあった場所だそうですが、NAOKIさんもご存知で?
NAOKI:もちろん!年に1回家族みんなでステーキを食いに行ってた店で、初めてコーンスープを飲んだ場所。ちゃんと記憶に残ってる店だから、卓ちゃんが『エデン』の跡地で店を始めることを聞いた時はびっくりしたけど、すごいうれしかった。
岩本:って言われるのが、プレッシャーなんですよ(笑)。だから店の内装も『エデン』の雰囲気をそのまま残してる部分もあるし、半年くらいかけて僕らの『NEW BUILD』として生まれ変わらせました。
NAOKI:ちなみに昨日の夜は、『NEW BUILD』の店先にある縁側スペースで寝てしまって…。
MHAK:寝やすい場所だし、あまりにも気持ちよく眠ってたから起こさなかった(笑)
NAOKI:軽くビール飲んだりするのにも、めちゃいいし。
気持ちいい場所ですよねー、ここ。NAOKIさんは高校卒業後に加古川を離れ、大阪を経由して東京に行かれてますが、自身の地元をどう見てましたか?
NAOKI:僕らや卓ちゃんの時代は本当に何もなかったから、出ていく選択肢しかなかった。やっぱり都会に行きたかったし、大阪に住んでたのは3年くらいでそこから東京に出たんです。でも、あれだけ何もなかった街に遊べる場所を作ったのはすごいと思うし、僕らのできなかったことをしてる卓ちゃんは、本当に尊敬してますね。
NAOKIさんと岩本さんの出会いは?加古川時代に交流もあったんですか?
NAOKI:出会ったのは東京なんですよ。
岩本:僕は昔から知ってて、NAOKIさんのことをレペゼン加古川だと思ってるんですよ。自分の店でもいつか取り引きしたい気持ちはあったけど、なかなか言えなくて。すると、NAOKIさんの妹が店に来てくれたんですよ。「地元に変な店があるから、見てこい!」って言われたみたいで(笑)。僕も妹さんを知ってたから、久しぶりだねーって話をしながら「お兄さんの<SAYHELLO>を置かせてほしいから頼んでくれない?」ってお願いして(笑)。その流れで東京で会わせていただき、今も仲良くさせてもらってます。
THE地元ネットワークですね。
岩本:兄貴がNAOKIさんと同級生で、妹さんが僕の妻の後輩って感じで。
NAOKI:それで加古川に帰ってくるタイミングとか、卓ちゃんが東京に来る時とかに遊ぶようにもなって。さっきMHAKとも話してたんだけど、6年前くらいに今は無くなってしまった『079BUILD』の壁画も描いたもんね。
MHAK:あれは何のタイミングだっけ?
岩本:『079BUILD』の2周年のイベントですね。
NAOKI:そこでMHAKも加古川クルーと繋がり、東京でも一緒に遊んだりして今回に至るって感じかな。
MHAKさんから見た加古川って、どんな印象ですか?
MHAK:全てを知ってるわけじゃないけど、おもしろい人がこんなにもいるんだと思ったし、すごい元気な街だなと。自分は福島県の会津若松出身ですが、人間的にも街的にもまた違った濃さがあるなって。
NAOKI:ギュッとなってるのがいいよね。東京だと誰かに会うとしても、連絡を取り合ってからだから、偶発的な出会いがあまり残されてなくて。でも、この前大阪に行った時も感じたけど、こっちはそれが多いからめっちゃ羨ましい。僕らで言えば中目黒の『BAJA』っていう店に行かないと友だちとはなかなか会えなかったりするので、そんな場所を作ってる卓ちゃんはすごいなと思う。
岩本:小さい街だから、必然的に濃い人がギュッと集まってるように見えるんじゃないですかね。有名人が歩いてたら、すぐに耳に入ってきますから。「NAOKIさんが歩いてましたよ!」とか。
NAOKI:情報が早い(笑)
岩本:「NAOKIさん、加古川いるんでしょー!目撃情報入ってますよ!」って。街のサイズ的にも動きやすいし、会いたい人とすぐに集まれる距離感が、逆にいいのかもしれません。
NAOKI:前の『079BUILD』の溜まり場感が、こっちの『NEW BUILD』になってる感じ?仲間が集まる場所として。
MHAK:前の店はもうちょっとバー的な雰囲気も強かったよね。
岩本:そうですね、前はもっとガチャガチャしてたので、年齢的にも少し落ち着こうかなと思って(笑)。こっちの店も変わらず、みんなが集まってくる場所にはなってますね。
NAOKI:場所があるってことが大事だしね。じゃぁ、そろそろ卓ちゃんのカフェの方に移動しますか?せっかくだから、初めて加古川に来る人のルートになればと思うし。
岩本:すみません、気を使っていただいて。
僕らもうれしいです!ちょっと歩いて思ったんですが、加古川は昔ながらの飲み屋さん多いですよね?
岩本:駅前にヤマトヤシキっていう百貨店があるんですが、昔はあの辺り一帯に大きな市場があったそうなんです。さらに大昔は宿場町だったみたいで、その名残もあって飲み屋さんが多いのかなと。
MHAK:いい店が多くて、中でもおすすめは『とうしょう』っていうお好み焼き屋。美味いのはもちろんだけど、ここのおばあちゃんがめちゃくちゃかっこいいんですよ。だから今回もまずは『とうしょう』しかないでしょって感じで、昨晩も行ってきました。
岩本:完全に一択でしたからね。でも、こうやって自分の街にある店を好きになってもらうのは、すごくうれしい。
味とか雰囲気、そしてそこには加古川や岩本さんたちの空気感も相まってると思うんですが、その価値を共感してもらえるって幸せなことですよね。今回は『Factory No.079』の15周年記念もあってART SHOW『SORE TO KORE』が開催されましたが、どんな経緯があったんですか?
岩本:15周年記念として何かしたくて、東京に行って2人に相談したんです。「力を貸してください!」って。それでNAOKIさんがいろいろ考えてくれて、MHAKさんたちも作品を出すだけではなく、わざわざ現地まで来てくれて…。感謝しかないです。
NAOKI:この『SORE TO KORE』は、東京の『PADDLERS COFFEE』でも開催したコンテンツなんですよ。コレクター向けに作品を発表するんじゃなくて、初めてアートを購入する体験をいろんな人に提供したいという想いから始めました。気の合うアーティスト仲間が集まり、僕ら自身も活動を始めた頃のようなDIYスピリットで制作した作品を並べてます。
だから、手に取りやすいグッと抑えた価格帯になってるんですね。それにしても、人気のアーティストの方々がズラリと集まってます。
NAOKI:みんなに声かけたら、「協力するよー!」と言ってくれて。MHAKをはじめ、加古川にもアーティストが6人ほど来てくれたし、僕らなりの卓ちゃんへのお祝いができたかなと。
岩本:本当にありがとうございます(涙)。あっ、そろそろ着きますね。あの角地にあるのが、僕らのカフェ『ROOM2 COFFEE & ROASTERS』です。
MHAK:めちゃくちゃ流行ってる。
NAOKI:すごいね。昔はこんなカフェなかったし、若い子がこれだけ集まる場所が加古川にできるなんて想像すらしなかった。
岩本:焙煎所を兼ねたカフェは、加古川では僕らが先駆けですね。2棟あった長屋をブチ抜いてスケルトンにして、傾いてた基礎を直して作ったので、かなり大変でした。
NAOKI:ほとんど手作りでやってるからすごい。しかも、ビールサーバーに描いた絵もまだ残ってるし。
MHAK:ほんとだ!
岩本:ビールサーバー自体はもう使ってないんですが、NAOKIさんの絵が描かれてるので大切に置いておきたくて。
めちゃ貴重ですね、これは!さっきの『NEW BUILD』を見ても思ったんですが、スタッフさんもやっぱり若い子が多いなと。みんな地元の子なんですか?
岩本:地元もいますし、神戸や大阪から来てる子もいます。中には新潟から来てくれた子もいたりで。
MHAK:普通は逆だよね。
NAOKI:神戸から加古川に働きに来る子がいるとか、思いもしなかった。
岩本:みんな都会に疲れてるんちゃいますか。でも、僕らの店は意外と厳しくやってる部分もあるので、「もっとゆるいと思ってました!」って言われたこともありました(笑)
(笑)。そこはまた別ものですしね。
NAOKI:卓ちゃん、あの図書館はまだあるの?
岩本:耐震の問題でもう閉館しましたが、建物はまだ残ってますよ。今、取り壊すかどうかですごい戦ってます。
MHAK:うわぁ、すごいかっこいい!
岩本:奥に松の木があるんですが、そこで三島由紀夫が自殺する数年前に軍から洗礼を受けたという話もあるんです。歴史ある建築物だから取り壊さないように署名を集めてる最中で、なんとか残していきたいなと。僕個人的には「耐震基準を満たすように改築して、クラブにしましょー!」って言うてるんですけどね(笑)。まぁ全然無理な話だと思うんですが。
こんなシブい建築は絶対に残すべきですよね。維持管理は大変かもですが、また新たな加古川のランドマークになるかもしれないし。
NAOKI:何もない街だったからこそ、雰囲気のある建築物が今でも残ってるんだよね。
岩本:古い建物は多いですからね。そろそろコーヒーも出来上がったので、飲みながら『079BUILD』のあった場所まで歩きますか。
MHAK:あそこも雰囲気がよかったもんね。
岩本:飲食店を始めようと思って、ベランダのある物件を探してたんですよ。で、たまたま見つけたのがあの場所でね。賃貸には出してなかったけど、聞いてみたら「雨漏りしてるから貸せない」って言われて。でも、丸亀製麺の1号店があった場所で縁起もいいし、「自分たちで改修するからお願いします!」と頼み込んで入らせてもらったんです。ただ、大雨の時はじゃじゃ漏れで、お客さんの横にバケツ置いて営業してる日もありました。「涼しくていいねー」と、お客さんにも慰めの言葉をいただきながら(笑)
NAOKI:DIYな店だったもんね。2階がバーで3階がカフェになってて、ベランダのあった3階部分の壁面にMHAKと描いたんですよ。絵を描いて『とうしょう』行って、卓ちゃんの店で飲んでからスナックに…、っていうシームレスな流れが楽しかった。
MHAK:あの時は初めての加古川だったけど、楽しい思い出しかなかったなぁ。
NAOKIさんやMHAKさん、そしていろんな人の思い出が詰まってる場所だったんですね、『079BUILD』は。岩本さんが作ってた料理の味も含めて。
岩本:初期の頃ですけどね、作ってたのは(笑)。今でも疼いたらたまにキッチンに入るんですが、「アレどこ?」「アレ取って!」とか言うから、「もう岩本さんは引っ込んどいてください」って言われてます。
一同:(苦笑)
岩本:ってことで、最後はNAOKIさんの実家の喫茶店を覗いてから帰りますかー。
ナビゲートありがとうございます!
岩本:大体のおすすめスポットは歩いて回れるのが加古川のいいところです。2日もあれば全部見せれるので、また加古川に来る時は案内しますんで!
NAOKI:ほんと、この絶妙に密集してる距離感がいいんだよねぇ加古川は。
岩本 卓也
兵庫県加古川市出身。生まれ育った地元で、セレクトショップ『Factory No.079』、カフェ『ROOM2 COFFEE & ROASTERS』、レストラン『NEW BUILD』を展開。GREENWORKS名義でDJとしても活躍し、音楽レーベル『SOUL POT RECORDS』を主宰。全国各地を飛び回りながら、加古川の知名度を普及させるための活動を続けている。
https://www.instagram.com/factory079
https://www.instagram.com/soulpotrecords
https://www.instagram.com/newbuild_079
https://www.instagram.com/room2mrc
https://www.factory079.jp/
NAOKI SAND YAMAMOTO
兵庫県加古川市出身。プロダクトにアパレルデザイン、ライブペイント、ミューラルなど、場所や手法を超えて表現を楽しみ、国内外のアートシーンで活躍するグラフィックアーティスト。ストリートで人気のブランド<SAYHELLO>を主宰し、アーティストコレクティブ『81BASTARDS』の一員でもある。
MHAK as MASAHIRO AKUTAGAWA
福島県会津若松市出身。ペインター/アーティスト。デザイナーズ家具や内装空間に多大な影響を受け、絵画をインテリアの一部として捉えた“生活空間との共存”をテーマに制作活動を行う。グローバルからストリートまで、様々なブランドにアートワークを提供。アーティストコレクティブ『81BASTARDS』の一員でもある。