呪物は最新のサブカルチャー?! オカルトコレクター/怪談師として活動する田中俊行さんの、怖いけど気になる呪物の話。
最近、呪物を受け入れてくれる人が少しずつ増えてきて嬉しい。チャーミーに上手く操られているような感覚もあります。
田中さんはもともと大手セレクトショップの販売員をしていたんですよね?どうして怪談師の道を選んだんですか?
田中:僕が販売員をしてたこと知ってるんですね(笑)。ブランドに迷惑がかかるといけないので、どこで働いていたかは一応伏せておいてください。大学受験に失敗してインドに逃亡して、お金が一切無くなって3ヶ月くらいで帰ってくるんですけど、帰国後にそのセレクトショップで働きました。僕はそこの名前は知ってたけど、何屋なのかも知らなくて、その店で働いてる友人がフラフラしてる僕を誘ってくれたんです。居酒屋やコンビニのバイトを決める感覚で入ったんですが、服のことなんて全然わかんなくて、案の定あいつはダサいと問題になってましたね。いつも自分なりのおしゃれで挑んでたんですが、どうもあかんかったらしいです。店頭に立たないでほしいとやんわり伝えられて、ほぼ毎日地下の倉庫でストック整理をしてました。
アパレル出身でなぜ怪談師になったのか聞こうと思ったんですが……、そんな話が出てくるとは想定外でした(笑)
田中:とてもじゃないけどアパレル出身なんて言えなくて、バイトをしていた程度です。怪談は子どもの時から好きで、趣味で集めたり怪談イベントを企画して話したりもしてたんですが、稲川淳二の怪談グランプリ 2013(関西テレビ)』という怪談の大会で優勝できたのが大きかった。それが32歳くらいの頃ですね。タレントさんや芸人さん、作家さんが主に出場する大会なんですが、オーディションを勝ち上がると素人でも出場資格がもらえるんです。楽屋にいるのもTVで見たことある方ばかりで、僕はもちろん全然知り合いもおらず、隅っこで身を潜めてました。後から聞いたら、全員が僕のことを過労で亡くなったADの霊やと思っていて、自分にしか見えてないんじゃないんかと疑ってたらしいです。
大垣:僕も3年前に初めてお会いした時、自分にしか田中さんのこと見えてないんじゃないかって疑いました。
田中:そういう人多いんですよ(笑)。今一緒にやってるApsu Shuseiっていう文様作家さんが、「こういう服買いな」「これ着とき」ってアドバイスをくれるんで、何とか怪しくならず人間らしさを保てていると思います。呪物を集めすぎて、僕の半分はあの世に行ってるのかもしれません。
常に呪物に囲まれているせいで、田中さんの存在自体が異質になっているんですかね。ちなみに、田中さんと大垣さんの関係性はいつから始まったんですか?
大垣:<アシタノシカク>にホラー映画好きのスタッフがいまして、「最近何かあった?」って聞くと必ずホラー映画の話になるんですよ。その子に「アシタノホラー」というアートイベントの企画をお願いして、好評だったので次の年もやることになったんですが、そこで「怪談師の田中さんが最近呪物を集めてる」という話をされまして。「アシタノホラー」は色んな作家さんがホラーをテーマにしたアートを展示するイベントなんですが、田中さんも1点だけ呪物を飾ってくださって。それがおもしろかったので、次は呪物でギャラリー内を埋め尽くしたいという話になったんです。実際にやってみると、すごくたくさんの方が足を運んでくれました。
田中:<アシタノシカク>さんは呪物の見せ方がすごく上手で、怖さを残しながらキャッチーな見せ方をしてくれるんです。僕も別で展示をしたことがあるんですが、見る人への伝わり方が全然違いました。
大垣:展示にはこだわっているので、そう言ってもらえると嬉しいですね。ディレクションに入っているApsu Shuseiさんの呪物に対するコメントもすごくいいですし。そういう力が一体となってイベントを作り出してるなと思います。もちろん田中さんが人気者だからこそ、成り立っているイベントなんですが。
田中:いやいや、僕は最終チャーミーに殺されるだけなんで。
一同:(笑)
大垣:でもこの1、2年でみんなの呪物リテラシーが上がってるように思います。最初の年はガチガチのファンとお化け屋敷感覚で入ってきた超ライトなお客さんばかりだったんですが、今はその中間の人が多いんですよ。田中さんの呪物集めや呪物自体に対する理解が深まっているように感じます。
「呪術廻戦」も人気でしたし、以前より呪物が身近なモノになったのかもしれませんね。
田中:確かにリピーターも多いし、冷やかしで来るお客さんもほとんどいなくなりました。お客さん側も呪物を愛してくれてるように感じます。
大垣:「この呪物を見たいと思ってたんです」って感激されることもあって、じっくり見てくれるお客さんが本当に増えました。先日Xを見ていると、「最先端のサブカルチャーに触れることができた」って呟いてるお客さんを見つけましたよ。
田中:呪物が最先端のサブカルチャーか。そんな風に言ってもらえるのは嬉しいですね。
大垣さんはグッズの販売スペースで、「“推し呪物”のグッズをぜひ探してみてくさい」と仰っていましたね。
大垣:呪物に推しがあってもいいですもんね。それこそチャーミーなんてアイドル呪物ですから。
田中:そんなことになってるなんて、数年前には思いもしませんでした。だって現場にチャーミーを連れて行くだけで怒られてましたから。「なんでそんなもの連れてくるんですか?呪われたらどうするんですか?」ってお客さんに言われたりしましたもん。
大垣:イヌイットの呪物であるトゥピラクも、昔は悪霊として恐れられてたけど、今はグリーンランドの定番土産として多く愛されているじゃないですか。忌み嫌われていたモノがだんだん愛されていく流れって結構あることなのかなって思いました。呪物に関しても、最初はみんな恐る恐る近づいて眺めていたけど、今はお菓子やタバコを供えるくらい親しみを感じてくれていますし。
田中:タバコは僕が後から吸わせてもらいますけどね(笑)
大垣:大阪天満宮って菅原道真が祀られてるじゃないですか。道真は怨念を持って亡くなったから、その怒りや恨みを鎮めるために建てられたけど、今では天神祭で花火を上げたり露店を出したりしていますよね。忌み嫌われていたモノが市民権を得て愛されていく、そういう流れをここ3年間で経験しているように思います。
田中:日本には祟りが起きた時にお祀りして鎮める御霊信仰と呼ばれるものがあるんですが、他の国にもよく似た考え方があって。東南アジアには未練を残して亡くなった人の霊が災いを起こした場合、それを祀ると鎮まって福が来ると考えられているんです。
日本と同じような考え方ですね。こうやってイベントを続けて呪物が人の目に触れる機会を持つことで、呪物自体も浄化されていくのかもしれませんね。
田中:それはあるかもしれないです。人に見られることで怖さが薄まるように思います。
大垣:去年も展示した目の赤いお母さんの呪物があるんですが、最初に見た時はあまりの禍々しさに、手に取るのを躊躇するくらい恐ろしかったんです。だけど今年は「お久しぶりです。今回もよろしく」と親しみさえ感じました。あり得ないことですが、ちょっと小さくなった?と思いました。
田中:呪物側も祀られて人に見られることで、鎮まる思いがあるのかもしれません。
大垣:祀ってくれたからもういいよ、次はみんなを幸せにするよ、みたいなね。今回開催している「祝祭の呪物展」には、祀られなくなった呪物も忌み嫌われていた呪物もちゃんと祀ってあげようという意味が込められていて。そのためにみんなお供え物を持ってきてくれているんですよ。
田中:チャーミーと撮影する時、その場に応じた雰囲気を出してくれてるなと思うことがあるんです。ポップに撮りたい時はポップに写ったり怖くしてほしい時は怖い顔をしたり、たまに「今日めっちゃ怖い顔してるやん」みたいな時があるんですよ。彼女も演技してるんだなと思いますね。
チャーミーはビジネスパートナーのような存在なんですよね。
田中:可愛がると殺しに来るドメンヘラなんで、ある程度距離を取って関わるようにしています。逆にチャーミーに遣われているような感覚もあって。僕はずっと神戸に住んでいたんですが、チャーミー単独の仕事が増えて、よく1人で東京に行っちゃうようになったんですよ。心霊番組で貸してくださいというオファーも多くて、忙しくてなかなか帰ってこなくなったんです。それもあって、僕がチャーミーを追いかけて3年前に上京しました。彼女が僕を上手く遣って、自分の呪物仲間を増やしているのかなと思います。
田中さん自身、知らず知らずのうちにチャーミーに操られているのかもしれないんですね。
田中:で、最終的に殺されるんですよ。
大垣:最近田中さんは、自分自身が呪物になろうとしていますもんね。それもチャーミーの意志かもしれませんよ。
田中:確かにそうかも。先日海外に行った際、体内に呪いの針を入れてもらったんです。これはもろに体への影響が出ていて、最近肩が上がらなくなりました。
単に体がダメージを受けているだけのような気も……(笑)。田中さんはこの先に何を目指してらっしゃるんですか?
田中:よく聞かれるんですが特に決まってないです。博物館を作ったら?と勧めてくれる人もいるけど、今はそういう気が全くないし、興味のある呪物だけをとりあえず集めていきたい。それこそ大垣さんみたいな方がいてくださると、世に出すきっかけができるのですごくありがたいです。自分1人でやってると、チャーミーの仲間をひたすら集めてるだけになっちゃうんで。
大垣:僕らこそ、田中さんを通して不思議なことをたくさん見せてもらえるのが楽しいんですよ。呪物展に来るお客さんの熱量を眺めているだけでもワクワクします。
田中:1つひとつに物語が存在していて、そのストーリーに思いを馳せることができるのがいいのかもしれませんね。自分では持ちたくないけど興味はあるから、一定の距離を取りつつ安心して見られますし。所有する危険は僕が担っているので。
大垣:恐ろしいストーリーを求めている人ってこんなに多いんだと思いますね。グッズも用意しているので、呪物展に来た思い出に持ち帰ってもらうのもおすすめです。
大阪編は終わりましたが、次回の「祝祭の呪物展」は7月17日(水)から8月3日(土)まで東京で開催されます。
田中:展示スペースが少し広くなるので、大阪編よりパワーアップしてお届けできると思います。日本ではあまり見られないモノも出そうかなと考えていて。エンタメやカルチャーの1つとして楽しんでくれたら嬉しいです!
<田中さんのお気に入りスポット>
インディアンカレー(大阪市北区芝田)
関西に戻ってきたら必ず食べに行きます。いつもスパゲッティに挑戦しようか迷うんですけど、結局普通にカレーを食べてしまいます。
自由軒(大阪市中央区難波)
生卵を上にポンと落とした、独特な混ぜカレーが好きです。
<INFORMATION>
祝祭の呪物展2024【東京会場】
日程: 7月17日(水)〜8月3日(土)
場所: 東京タワー 3F TOWER GALLERY(東京都港区芝公園4-2-8)
当日チケット:1,500円
日時指定電子チケット:1,300円
※共に特典ステッカー付き
日時指定電子チケットのご購入はこちらから
田中 俊行
1978年生まれ、神戸市出身。怪談師、オカルトコレクター、イラストレーター。オカルト好きの母の影響で幼少期から怪談の収集を行っており、近年は世界各国の呪物を150点以上集めている。「稲川淳二の怪談グランプリ2013(関西テレビ)」で優勝するなど、怪談師としての腕前も折り紙付き。
Youtube:田中俊行チャンネル『トシが行く』