ファサードには枯山水!メイドインジャパンのモノづくりを愛する『DENCHU』田中宏章さんが魅了される、モノと人、そしてそこにある物語。

大阪・堀江の一画に、2023年7月にオープンしたライフスタイルショップ『DENCHU』。白いネオンサインと、ガラス張りのファサードから見える枯山水が目印です。オーナーを務めるのはアパレル畑出身の田中宏章さん。自らが目利きした、メイドインジャパンのプロダクトを取り扱っています。アイテムひとつひとつに対する想いが深く、どれも愛着を持ってセレクトしていることが感じられるラインナップ。商品につけられたキャプションからも、作家や作り手へのリスペクトが伝わります。店奥のテーブルとカウンターは、コーヒーや国産ワイン、フードが楽しめるカフェ仕様。コーヒーカップはもちろんスピーカー、果ては浄水器までしゃれていて、とにかく細部までこだわりの行き届いたお店になっています。“モノ”に対する愛があふれたこの場所は、いかにして誕生したのか。その背景をインタビューすると、モノの向こうにある物語の存在が見えてきました。(そして、意外な店名の由来にもご注目)

アパレルの仕事を辞めて、お店を始めるまでに1年ほど空いてますね。その間に、1ヶ月ぐらいかけて車で日本一周したんです。

田中さんが『DENCHU』というお店を始められたきっかけから、お伺いしてもいいですか?

前職はアパレルで、岡山県のジーンズの会社で働いてたんです。販売員からスタートして、MDって商品構成を考える仕事をしてたんですけど、コロナ禍になって海外の工場の出荷がストップしちゃって。日本で作ろうとしたんですけど、日本の工場はなり手がいなかったり、潰れてたりしてたんです。僕が勤めてたのは日本のブランドだったんですけど、生産を安くするために海外に出してしまうと、やっぱり国内の事業は続いていかないなというのをすごく感じて。その頃から何となく、日本にフォーカスしたお店をやりたいなって思うようになりました。

コロナ禍がきっかけで、日本のモノづくりに目を向けられたんですね。

理由はほかにもいろいろあって、アパレルでものを作る時って、アパレルあるあるなんですけど、シーズンのサイクルがあるんです。春夏でものを作って売って、次は秋冬みたいな感じで。シーズンが始まる1年以上前から仕込んで、そのシーズンで絶対売り切らないとダメなんですけど、なんかそのサイクルが自分の中でしっくりこないなというのがあって。

1~2年先を見越しながらモノづくりをして、なおかつ短いスパンで売り切らないといけないんですね。

そうですそうです。

そういうスタンスじゃないものとの関わり方をしたい、みたいな感じですか?

そうですね。僕いま40歳なんですけど、20代の頃とかと比べたらもう物欲が落ちてきてて。自分に合うものとか、長く使えるものとか、そういう視点になってきてるんです。だから、僕自身のタイミングも含めてっていう感じですね。

取り扱う商品のジャンルはさまざま。左から<decka>のソックス、<irose>の革小物、<THE>と<MISOKA>のコラボ歯ブラシ。もちろんいずれも日本メイド。

コロナ禍だけじゃなくて、ご自身の気持ちの変化もあったんですね。それで、退職されてお店を始めることにされたんですか?

いや、アパレルの仕事を辞めて、お店を始めるまでに1年ほど空いてますね。その間に、1ヶ月ぐらいかけて車で日本一周したんです。行ったことがない県を重点的に行こうみたいな。東北に行ったことがなかったんで、まず北上してから南下するっていう旅だったんですけど。最初に東北に行って、最後は九州。沖縄までは行けなかったんですけど、鹿児島の指宿っていういちばん下のところまで行って、砂風呂に入って。

1ヶ月で日本一周って、けっこうハードですよね。

でもそんなに予定をガチガチに組みたくなかったんで。明日ここまで行ってこの辺に泊まろうかとか、前日に決めるぐらいの感じでしたね。

大体1ヶ月で行けるかな、ぐらいの。

そうです。でも北海道がでかすぎて。北海道一周を終えて青森にフェリーで帰ってきた時に、あと10日ぐらいしか残ってなかったんですよ(笑)

残り10日間(笑)!

なので、関東はほぼ行ったことがあるから飛ばして。行ったことのないところを中心に行きましたね。

田中さんが音量を調整しているのが<TRANSPARENT>のスピーカー、右奥の壁にかかっているのは<PENTAIR EVERPURE>の浄水器。

旅の中でお店のコンセプトを固めたり、ヒントを得たり?

その時はまだ、お店を絶対にやろうっていう確信まではいってなかったんです。いろんなところに行ってみて、どういうものが自分の心に響くのかなって。
これ結構あるある質問なんですけど、日本全国を回って、どこの県が良かったですかってよく聞かれるんですよ。

聞きたいです。どこがよかったですか?

山形なんですけど、山形がなぜ良かったかっていうと、パッと入った鰻屋さんのご主人とその娘さんがめちゃくちゃ良くしてくれて。次この辺に行った方がいいよ、こういうの飲んだ方がいいよみたいなことを、すごく教えてくれるんです。最終そういうのが印象に残るなと思って。だから人ありきというか、人と人のつながりみたいなことのほうが印象に残るなっていうのが、日本を一周まわって感じたことですね。

場所っていうよりも、そこにいた人のほうが。

旅では毎日いろんなところに行ったんですけど、ひとつだけ挙げてって言われたら、思い出すのがそれなんです。だから、自分はそういうことに惹かれるし、そういうことがしたいんやろなって思って。帰ってきて、じゃあやっぱりお店やなって思いました。

入り口に枯山水があるんですけど、最初からあれがすごいやりたかったんですよ。だからファサードがでかいところがいいなと思って探してたんです。
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Profile

田中 宏章

神戸市出身。岡山県の児島に本社を構えるアパレルメーカーに約16年勤務した後、「made in Japanがある暮らし」をコンセプトにしたライフスタイルショップ『DENCHU』を大阪・北堀江にオープン。カトラリーやグラスなどのテーブルウエアのほか、インテリア、日用品、食品など、自らがセレクトしたアイテムを取り扱う。コーヒーや国産ワインが楽しめるカフェも併設。

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