好きが交差する、自由で楽しいアロマデザイン。調香師・西村道子さんが提案する、日常をドラマティックに彩る香りのある暮らし。

今回インタビューしたのは、京都を拠点にフリーランスの調香師/アロマブレンドデザイナーとして活動する西村道子さん。聞き慣れない職業ですが、コスメや入浴剤等プロダクトの香りから飲食店をはじめとした空間の香りづけまで、香りをデザインするのが主なお仕事です。ここ2年ほどは、四季折々の植物を使った芳香蒸留を気軽に体験できるワークショップも積極的に開催。香りをより身近に感じられる暮らしを提案しています。取材時は芳香蒸留に必要なものを準備していただき、実際に香りを抽出する様子を見せていただきながら話を聞きました。周りを優しく包み込むやわらかい雰囲気と芯の強さを併せ持つ、そんな魅力的な人柄にも注目です。気軽に香りを楽しむ生活ってなんだかすてき、そう思える取材でした。ぜひ読んでみてくださいね!

季節に合わせた芳香蒸留を体験できるワークショップをしています。自分好みの香りをデザインするってとっても楽しいですよ。

今日は蒸留シーンを撮影させてもらえるとのことで、たくさんご準備いただきありがとうございます。いろんな種類の植物を使うんですね。

ワークショップで使う植物は実家のお庭で育てています。ゼラニウム、ローズマリー、カモミールローマン、レモングラス、ペパーミント、ローズヒップなど、今日持ってきたのはすべてそこで摘んできたもの。四季折々の植物をいろいろブレンドして香りをつくっていきます。暖かくなると花が採れるようになるんですが、それを加えると香りも一層華やかな印象になるんですよ。

季節で香りの印象が変わるっておもしろいですね。まずはどんな工程から始めるんですか?

最初に、使う植物を細かくカットしていきます。植物は好きなものを何種類使ってもOK。植物っていろんな効能があって、採れたハーブウォーターをスキンケアに使う場合はそれも考えながらブレンドするんですが、今日は香りがメインの抽出なのでパパッと入れちゃいますね。

今使っているガラスの器具はなんですか?

家庭用の蒸留器です。大きなガラスの蒸留器に細かく切った植物と水を入れて、上部に冷却用の氷を乗せたものを、IHヒーターで20分ほど加熱していきます。温められて上がってきた蒸気が氷で冷やされて液体になり、隣に繋がっている小さなビーカーに溜まっていく。これがハーブウォーターと呼ばれるものです。

よくエッセンシャルオイルという言葉を聞くんですが、それとはまた別ですか?

ハーブウォーターとエッセンシャルオイルは別物で、ハーブウォーターはエッセンシャルオイルを抽出した際の副産物なんです。植物から採れるエッセンシャルオイルって本当に微量で、天然のオイルを抽出して使おうと思うと、とんでもない量の植物が必要になんです。例えば、1kgのローズ精油を得るためには約5トンのバラを用意しなきゃいけない。この蒸留器でエッセンシャルオイルを抽出する場合は、水と油が分離する原理に従って、ハーブウォーターと分離してフラスコ内に溜まっていきます。

ハーブウォーターにはすごく栄養があって、肌への効能を考えながらハーブを選ぶと、そのままスキンケアにも使えるんですよ。ミツロウやグリセリンを混ぜて濃度を変えると、化粧水、乳液、クリーム、バームをつくることができます。すべてこのハーブウォーターがベースになっているんです。

なんだか理科の授業を受けているみたいですね。

実は調香って化学なんです。幼稚園でも香りのワークショップをしたことがあって、その時は、身の回りの香りに興味を持ってもらえたらいいなと思ってミカンを使いました。ミカンって皮、枝と葉っぱ、蕾でそれぞれ香りが違うんです。いつも食べてるミカンにこんなにいろんな香りがあるんだって子ども達も喜んでくれて、「おうちで食べ物の匂いをよく嗅ぐようになりました」という参加したママからの報告も嬉しかったです。

エッセンシャルオイルって植物によって価格が全然違いますよね。

素材の拾油率の違いです。例えば、オレンジの皮を使った香りはたくさん採れるから価格も抑えられるけど、花は香り成分が少なくてコストがかかるから価格が高騰しちゃうんです。

私は知り合いのミカン農家のおばあちゃんを手伝って、ミカンの花を安く譲ってもらっています。ミカン農家さんって甘い果実を収穫するために、花をポンポン間引いちゃうんです。私からすると、それって宝物みたいなものだからもったいなくて。間引く作業をお手伝いしたぶん、通常よりかなり安く仕入れさせていただいてます。

まさにウィンウィンの関係性ですね。SDGs的な要素もあるというか。

今まで捨ててたものやから、「こんなんいるの?」って驚きながらもありがたがってくれました。知り合いが経営してるポン酢工場で、今まで産業廃棄物として捨てていたカボスの皮も買い取っていて。それも喜んでくれました。

なるほど。みんな笑顔になれる素敵な活動ですね。そろそろハーブウォーターが溜まってきましたね。ここからはどうするんですか?

今回は、ハーブウォーターを使った香りのミストをつくります。エッセンシャルオイルを持ってきているので、ハーブウォーターをベースに好きな香りをブレンドしてみてください。

種類豊富なエッセンシャルオイルを組み合わせてオリジナルの香りを調合。出来上がったら写真右の小瓶に詰める。

エッセンシャルオイルもたくさん種類があって迷いますね……。

いろんな香りをブレンドする作業がワークショップで一番楽しい時間でもあります。人によって好みが全然違うから、それぞれ個性があって本当におもしろいんですよ。エッセンシャルオイルもただ香りを楽しむだけじゃなく、「肌を引き締めたい」「ニキビを抑えたい」など、スキンケア用品に使う際はそれぞれの成分も併せて考えつつ肌に合わせてつくります。今回は瓶詰めのフレーバーミストになりますが、クリームにしたりバームにしたりワークショップによって完成形はさまざまです。

フレーバーミストって香水とは違うんですか?

香水をつくる時はもっと濃度を高めなきゃいけなくて。ただ天然のエッセンシャルオイルで香水をつくるのは、とってもコストがかかるからリアルじゃないかも。人工香料と天然香料とのハイブリッドで香りを表現している香水ブランドが多いですね。

もっと自由なイメージで香りを提案したくてフリーランスのアロマブレンドデザイナーに。大好きな飲食の世界に香りが結び付くとワクワクします。
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Profile

西村 道子

京都府出身。地元・京都を拠点に活動する調香師/アロマブレンドデザイナー。コスメブランドでの勤務、飲食店の開業を経て調香の道へ。現在はコスメや空間の香りをデザインしながら、さまざまな場所で香りのワークショップを開催。食べたり飲んだりするのが好きで、街の酒場にもよく出没。

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