国内外の映画祭で受賞し続ける『虹が落ちる前に』が、大阪で再上映決定!監督のKoji Ueharaさんが抱いてきた映画への想いと愛と、これからについて。


自分もバンドのフロントマンとしてフォーカスされてきたから、役者の子たちのプレッシャーや苦しみも分かるんです。

アメ村での凱旋上映ということで、Kojiさんにとってのアメ村とはどんな場所なんでしょうか?

10代の後半からアメ村で夜な夜な遊んでたんですが、20代の頃に生粋のハードコアバンドを組んでライブで大暴れしたり、ソロ活動でもいろんなクラブでステージを重ねてたので、とにかく思い出があり過ぎる場所ですね。最近は何となく元気がないように感じてしまうのが、ちょっと寂しくもあります。

ディープ感が削ぎ落とされて、いい意味で楽しめる観光地になってますからね。

怪しい雑居ビルにもおもしろい店がいっぱいあったし、それこそ『無国籍百貨店』とかね。若い子にそんな話をしても、「アメ村でそのイメージが湧かない」って言われますから。混沌としたアメ村で青春時代を過ごせたのは、よかったなと思います。

怪しさ、恐さ、楽しさ、未知さが全て表裏一体でしたもんね。Kojiさんは現在もクリスマスを冠した某バンドで活動されてますが、映画とバンドの両軸があることについてはどう考えられてるんですか?

それを考えた時にまず思ったのが、バンドに関しては自分がヴォーカルだし、常にフロントでフォーカスされる位置。役者で言えばメイン的な存在で、人の視線を一番集める立ち位置だからこそ、プレッシャーだったり、苦しみも分かるんです。映画は自分が出演するわけじゃないし、監督として役者を撮ってるので、その両方の立場を知ってるのはよかったと思ってます。

役者の心情も理解できると。

若い役者の子たちの今に至るまでの悔しさとか、想いとかもまとめて聞いてあげれるかなと。例えば、エキストラに行った時にゴミのような扱いをされたとか。そんな話も自分が表に立ってきた一面があることで、理解できるんです。僕もいろいろ悔しい経験はありましたから。

例えばどんな?

ハードコアバンド時代の話で、ニューヨークの超大物ハードコアバンド『HATEBREED』 が来日した時に前座をしたんですが、担当のイベンターが僕らのことを「前座のバンドさ〜ん」って呼ぶんですよ。絶対に意図的だと分かるくらい何回も言うから、さすがに腹立ってきてね。ステージに出た時に「誰が前座のバンドさんやねん、コラァ!」ってキレて、演奏を始めました(笑)。まぁ、僕も若かったです。

さすがに胸糞が悪いですよね、それは…。

自分が表に立ってきたからできた経験だし、今、役者として表に立ってる子たちの気持ちも理解できるかなと。こっちの本意だけで映画を作らないような柔軟性は、自分の中にはあるなと思ってますね。

役者の方々の想い、バックボーンまで受け入れることができるってことですね。

ここでこんな風に扱われたら悔しいだろうなとか、役者の子たちのことを常に考え、見てるつもりです。だから、映画を作る上でちょっと厳しいことを言っても、みんな分かってくれるのかもしれませんね。

やっぱり、お互いをリスペクトしてるからこその関係性!Kojiさんはちゃんと見てくれてる、分かってくれてるって、役者の方々も思ってるだろうし。そこにはKojiさんの愛もあるなぁと。

みんな素直に受け入れてくれるし、いい関係が築けてるのは撮影してても感じられますね。

僕が言える立場じゃないですが、そんな関係性も映画の内面的な部分に滲み出てるんじゃないかなって思います。ちょっと気になったので話は変わりますが、タトゥーのことも聞かせてください。両手の甲に入れてるのは、何か意味や想いを込めたものですか?

左手のものは、僕のことをすごく応援してくれてた子の名前。病気で亡くなってしまって、その時に彼の名前を彫ったんです。右手に入れてるのは、スペイン語で希望を意味する「ESPERANZA」。これは『Dragon Ash』のKjと作った曲の名前なんです。

曲名なんですね。

意気投合して1曲作ることになったんですが、Kjは僕と違ってスーパースターだし、すごい感謝もしてるんです。でも、人間同士だからもし嫌いになってしまうことがあっても、その時は直接伝えて終わり。曲にして歌ったりもしない。そんな想いを込めて彫りました。自分たちの曲名を彫ってるのにビーフとかするなんて、アホなことですからね。両手の甲に入れてるこの2つは、自分の中でも特に意味が強いんですよ。

手の甲だから目に入りますもんね。

常に意識はしておきたいなと。ただ不思議なのもので、完全に自分のカラダの一部になってるから意識を通り越していくんですよ。でも、今こうやって話したり、目に付く場所にあるから意味を聞かれることも多いので、改めて想いを深められる。この両手に彫ってよかったなって思います。

自分たちの会社で、制作から配給まで行ったんです。映画業界ではまだそんなに前例もないので、「映画館で上映までできるんや!」というインディペンデントの力を見せたいし、そのモデルケースを作っていきたい。

では最後に、Kojiさんのこれからのビジョンや夢の話を聞かせていただければと!

まず大前提として、映画や音楽などのクリエイティブなことはやり続けたいという想いがあります。でも、大きなことをしようとすればするほど、当然お金だって必要になる。自分で会社をしてビジネスをしてますけど、やっぱりある程度の資本力がないとやりたいことができなかったり、自由が利かなくなる怖さがあると思ってて。例えば映画で言えば、「この役者さんを使って、こんな内容で作ってくれたらお金を出すよ」みたいな。

自由が奪われてしまう怖さ。

よくある話だと思うけど、それを蹴れるくらいの組織力、資本力は絶対に必要だし、そうじゃなければやりたくないこともやらなければいけなくなってしまう。そうならないためには何をすべきか、どうあるべきかを今すごく考えてるんです。

想いの強さは当然マストですが、規模が大きくなるとそれだけでは乗り越えられない壁も出てきますしね。

僕自身も、どんなカタチでも映画を撮りたい想いに取り憑かれてたらやってしまうかもしれない。もちろん、それをしてる人を否定するつもりは全くないけど、この歳までうだうだとやってきたのでそこだけは抵抗したいと思ってるんです。『虹が落ちる前に』の話で言えば、配給も自分たちでやりましたからね。

マジですか!?

BABY OWLという自分たちの会社で、制作から配給まで行ったんです。いろんな人に異例過ぎるって言われましたね。感覚的には20年以上前にインディーズミュージックが出てきた時のようなやり方かなと。映画業界ではまだそんなに前例もないので、「映画館で上映までできるんや!」というインディペンデントの力を見せたいし、そのモデルケースを作りたいと思ってます。ちょっとおこがましいですが、それは夢ですね。

『虹が落ちる前に』でカタチにしてますし、1つの道標になってると思いますよ!

自分よりも若い世代の子たちが、「俺らもあんな風にやればできる!」と思ってもらえたら。

映画を撮る前から配給も自分たちで行うことを決めてたんですか?

いや、初めはそんなことすら考えてなかったし、配給の“は”の字すら出ずに作ってました(笑)。どうなるかも分からないけど、「とりあえず作ろう!」って。学生が映画を撮りたいと思う感覚と同じですよ。

そして、途中で気づいたと(笑)

作ってる最中に「配給が決まらなかったら、映画館で上映されない!」とか、「そもそも映画館で上映なんて、滅多なことじゃされない!」と言われて…。「そーなんや!」と思いながら、どうしよかなって考えてたんですよ。

で、結果的に自分たちで配給までしたんですね。めちゃくちゃすごいことですが(笑)

『虹が落ちる前に』は自主映画として始まったけど、おかげさまで今となっては「これ、自主映画なん?」と思えるくらいまでにはなってきました。よく言えば、ハイスタ的な感じかなと。インディーズで始まってるのに、「あの人たちは果たしてインディーズなのか!?」みたいな。僕らもまだまだ小さな一歩だけど、そこの線引きはできたかなと思ってます。

今回の再上映を機に、また前へ前へと歩んでいけるかもしれませんね!バンド活動についてはどうでしょう?

44歳ですがまだまだ声も出るし、カラダも鍛えてて動けるので続けていきたいですね。自分の中で「違うかな?」と思うまではね。

メンタルとか、いいものが作れないと思うまではってことですか?

そうじゃなくて、僕の場合はパフォーマンスかもしれない。歌いたいとか、音楽をしたいというよりも、かっこいいパフォーマンスがしたいから。言うならば、バンドがしたいんですよ。

なるほど、魅せるということへの想いが強いんですね。

別に歌うだけならカラオケ行けばいいしね。映像や写真を見た時に、「これはちょっと衰えてるな」と思ったら、音楽は続けないと思います。

音楽性ももちろんかっこいいですが、総合的な魅せる力があのバンドのスタイルでもありますもんね。ちなみにKojiさん自身としては、どんな人間であり続けたいと思ってますか?

これはいつも言ってるんですが、強くて優しい人間でありたい。ただ、その答えに何が当てはまるかはまだ分かってないんですが、そこを意識してこれからも生きていきたいと思ってますね。それと個人的な願望としては、海外に1〜2ヶ月とか住んでみたいなと。若い時にできなかったけど、時間的な余裕も少しはできるようになってきたから、まだ知らないいろんな世界を自分の目で見たいと思ってます。

そうなれば、また新たな世界観がKojiさんの映画にもプラスされるかもしれませんね!長編の第2作目も制作間近と聞きましたが、今はどんな状況なんですか?

脚本は既にできあがってて、今は役者の子たちをオーディションしてる最中です。もうすぐクランクインするので、完成を楽しみにしていてもらえれば!次の作品もめちゃくちゃいい映画になると思いますよ!!

完成が待ち遠しいです!9月16日(金)からの再上映も楽しみにしてます!!


<Koji Ueharaさんのお気に入りのお店>

BANCO(大阪市中央区西心斎橋)
通い続けている店。デート、ミーティング、色々な人と色々な話しましたね。

ニューライト(大阪市中央区西心斎橋)
ザ アメリカ村(笑)。ここのおばちゃんが顔と名前を覚えてくれてからが、アーティストの始まり(笑)

えれふぁんと(大阪市中央区西心斎橋)
実は、僕が初めた店(笑)。今は人に譲った形になってますが、カルチャーの一つになってくれてることがうれしい。


<INFORMATION>

虹が落ちる前に

上映日: 9月16日(金)〜9月22日(木)
場所: シネマート心斎橋(大阪市中央区西心斎橋1-6-14 BIGSTEP 4F)
全日程で上映後に出演者やゲストを迎え、監督とのトークショーを実施!

チケットはこちらから

『虹が落ちる前に』 公式サイト
Instagram:@nijiochi
Twitter:@nijiochi

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Profile

Koji Uehara

映画監督、音楽家。2019年にプロトタイプで制作した短編オムニバス映画『#000(シャープスリーオー)』が関係者上映会ながら、東京、大阪、名古屋の3都市で行われ、約1,000人以上もの観客が来場して高い評価を獲得する。長編初監督作品となる『虹が落ちる前に』はさまざまな映画祭で受賞し、短編2作目の『Orange girl friend』は、先日行われた岩槻映画祭で観客賞と審査員特別賞をダブルで受賞。

その一方で、素顔を隠して活動している某ロックバンドではヴォーカリストを務め、3年連続出演のサマーソニック、ロッキンジャパンといった国内の大型フェスだけではなく、ロンドン、韓国、台湾など海外でも多数のイベントやフェスに出演。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、ミュージックビデオの制作なども行っている。

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