まちと人と壁と、アートを繋ぐ。大阪・此花発、WALL SHAREが世界のアーティストと協業して残し続ける、ミューラルというカルチャー。


僕らが拠点にする此花で立ち上げたMURAL TOWN KONOHANAプロジェクトでは、世界中のアーティストによって描かれたミューラルが点在。まちのおっちゃんたちも協力的で、使える壁が次々に増えていくという、いいバイブスが生まれてます。

カルチャーとビジネスをうまく掛け合わせたWALL SHAREならではのミューラルプロジェクトがたくさんありますが、大きな転機は何かありましたか?自分たちの未来がさらに拓けたような出来事とか。

久永:三菱鉛筆株式会社さんとの資本業務提携ですかね。

川添:そうやな。これもオープンイノベーションのピッチコンテストがご縁なんですが、2023年に三菱鉛筆株式会社さんに出資を受けた上で、資本業務提携をさせていただきました。誰もが知ってる大企業ですが、その三菱鉛筆さんが初めてベンチャーに投資したのが僕らだったんです。岡山県の真庭市や沖縄県のコザなど、現在も様々な企画を一緒に取り組ませていただいて、僕らとしても企業の信頼度が一気に高まりました。自分で言うのも照れるんですが、すごいことだなと感謝してます。

いやいや、めちゃくちゃすごいこと!ミューラルを通じてアートに触れる機会を増やすことが根底にあると話されてましたが、ミューラルってまちにあるものだからより日常的。そういった部分も含めて、三菱鉛筆さんも共感されたんでしょうね。

川添: 今この瞬間も、ミューラルの前を子どもが通って作品を見てるかもしれないから、一過性のものではないんです。美術館では大きい声も出せないし、写真も撮れないし、作品の前で「これは嫌い」とか言いにくいじゃないですか。でも、ミューラルはまちの中にあるからこそいろんな人の声が聞けると思ってます。近所の居酒屋でも「あの壁画は兄ちゃんたちがやってるんやろ。あの絵は嫌いやけど、この絵は好きやわ」とか、普通に意見を言うてくれる。アートって誰もが自由に意見できるものだし、本来はそうあるべきものなんです。批評することで、その人の中にもアートの意識が深まっていくんじゃないかなと。

久永:僕らが今取り組んでる『MURAL TOWN KONOHANA』は、まさにまちの人の声がダイレクトに返ってくることを実感できるプロジェクトです。正式リリースは2023年9月だけど、その前から動き始めてて、最初はオフィスの隣にある千鳥温泉に描いてもらいました。そのときも含めて、今でもまちの人が自由に意見してくれるんですよ。この作品はイギリスのDan Kithchenerによるもので、本人がSNSにアップしてくれたことで海外アーティストからの問い合わせも一気に増えましたね。僕たちとしても、アーティストたちの描きたい想いを叶えつつ、まちの中でアートが楽しめる場所を作っていきたい。そんな想いで立ち上げたプロジェクトです。

川添:日本に影響を受けたアーティストって、すごく多いんですよ。ただ、日本でミューラルを描きたいけど、壁に描くことへの規制が厳しいから難しいというのが、世界の共通認識にあると感じています。そんな中で僕らみたいな存在が現れたことで、日常的にDMが届く状態が続いています。

千鳥温泉の湯主・桂秀明さんと。壁面いっぱいにミューラルがあり、正面に描かれたタコの絵はバルセロナのアーティスト・YUBIAによるもの。
こちらは日本人アーティスト・KACによるもの。WALL SHAREにとっても盟友的な存在のアーティストです。
そして、こちらが『MURAL TOWN KONOHANA』を立ち上げるきっかけにもなった、Dan Kithchenerのミューラル。タクシーの絵が、めちゃマッチしてるので必見です!

『MURAL TOWN KONOHANA』は、まちにアートを根付かせる活動でもありながら、アートを通じたまちづくりにもなってるような気がします。結構な数のミューラルが存在してますが、ここまで増やせた要因って何があるんでしょう?

川添:ミューラルを増やしていくためには2つの要素が必要なんです。まずは、いい壁があるかどうか。そして、まちとコミュニケーションが取れる人間がいるかどうか。此花は梅田やなんばみたいな都市とは異なり、住んでる人との距離が近くて個人オーナーが所有する物件も多い。それに僕自身がこのまちに住んでるから、コミュニケーションもとりやすい。ミューラルを増やすために必要な要素が揃っていたので、まずは自己資金でスタートしたんです。海外アーティストたちの熱量も知れて、まちの人たちの反応も実感できてきたので、これはカタチになるなと。それでスポンサーを募ってプロジェクト化したのが、2023年9月でした。

久永:富士フィルム株式会社さんが、特別協賛というカタチでスポンサーになってくださったのですが、僕らの想いと提案に共感していただき、今も一緒に取り組んでいます。ミューラルの数は現在、16カ国のアーティストによって25箇所にまで増えました!(2025年4月現在)。これからもどんどん増えていく予定です。

イタリアのアーティスト・LUGOSISの作品。ちなみに壁のオーナーは阪神ファンではないらしく、描かれたトラを「俺はネコと思うようにする!」とか「最近見に来る人が多いから入場料もらおうかな(笑)」と言いながら、アートを楽しんでるそうです。
写真左はイギリスのアーティスト・Nick WalkerとSHEONEによるもの。写真右はバルセロナのZosen、日本のMina HamadaとLURKの3人のアーティストによる合作。
こちらは中国の若手注目株のアーティスト・Nutの作品。壁のオーナーさんはこのミューラルの誕生を機に、看板や入口をキレイに整備したそうです。

大企業さんとタッグを組みつつ、カルチャーとビジネスの両軸でちゃんとカタチにできてるのがすごいです。WALL SHAREとしても活動がどんどん広がってきてる中で、今感じる課題とかってありますか?

川添:やっぱり壁の問題ですね。此花でプロジェクトを進めていくための壁と、企業の広告として必要な壁は種類が全然違うし、使い方や表現の仕方も変わってきます。総じて、常に壁不足ではありますね。

久永:ただ此花においては、壁を使わせていただいたオーナーさんが次のオーナーさんを呼んでくれるようになってきてて。『MURAL TOWN KONOHANA』のプロジェクトを知ってくれてる人も多くいますし、いいバイブスが生まれてますね(笑)

川添:基本的にオーナーさんには、「こんなアーティストが来ます」とだけ伝えて、あとは完全に僕らにお任せ状態。どんな作品に仕上がるかは完成までわからないこともありますが、「俺のとこの壁が1番ええわ!」って、みんな言うてくれてます(笑)。ほんまに素敵な現象が起きてるなと。

此花の名中華店『天天菜館』の屋上には、バルセロナ在住の日本人アーティスト・Jun chiharaの作品が。交差点越しに見えるミューラルは、インパクトも大です。

一人ひとりにとって、我がまちという想いがあるってことですね。そうなるとやっぱり心強いはず!

川添:若い力で頼むわーって感じもありますし、聞き取れてない部分もありますが、もちろん賛否の“否”もきっとあると思います。でも、それを含めてまだまだおもしろくなれるなと。

久永:壁を所有する物件のオーナーさんたちの一部はすごく協力的で、廃材やスプレー缶の処理とかも「俺が捨てといたるわー」って感じで。それに、ミューラルに描かれた人物の服装を真似してたりもするんですよ。あとはね、打ち上げでのおもてなしがすごい(笑)

川添:壁に絵を描いて終わるだけじゃないんですよ。壁のオーナーさんとかまちの人と交流できるのも、MURAL TOWN KONOHANAのいいところ。皆さんテンション上がって高価なお酒をバンバン出してくれたりするんですが、特に僕らがお世話になってる克美さんはすごいんです。「持ち曲が1000曲ある!」といつも豪語してて、自身が営むカラオケスナックにいろんなアーティストを連れて行くんですが、いつも完璧にその人の母国の歌を披露してくれます。だからね、みんなめちゃくちゃテンション上がるんですよ(笑)。「俺は絶対に歌わない」と拒否してたアーティストも、めちゃくちゃ歌ってましたからね。そして極めつけは、“We Are The World”。あの曲はね、どの国のアーティストも一緒に歌えるから、最後のシメにはピッタリなんですよ。

公私共にお世話になっているという克美さんと、千鳥温泉のミューラルでパシャリ。

そのグルーヴ感、めちゃいいですね。国籍や立場に関係なく向き合えて、人と人のリアルな付き合いがそこにはある。

川添:みんな「東京よりも大阪の方が楽しい」って言うてくれるんです。僕らもうれしいし、まちの人も歓迎してくれるので、このゆるい感じがアーティストにとっても心地いいのかなと感じてます。

久永:次の日が現場でもみんなガンガンに飲んだりするから、大変でもあるんですけどね(笑)

店内にはいろんなアーティストの作品も飾られていて、MARZELにも登場していただいたGentoさんの作品も。ちなみに昨年開催されたUNKNOWN ASIA2025には川添さんも審査員として参加しており、審査員賞に選んだのがGentoさんでした。

(笑)。それも込みで、ええまちですね。事務所が併設された『壁珈琲』もオープンされましたが、ここはWALL SHAREとしてはどんな位置付けなんですか?

川添:『壁珈琲』は、まちのコミュニティスペースですね。国内外のアーティストと繋がりを持っている中で、『MURAL TOWN KONOHANA』の活動もしてますが、もっとローカルな人とも関係性を構築できたらと思ってオープンさせました。ここをきっかけに僕たちの活動やミューラルについて知ってもらえたら理想だし、将来的には2階も借りて、アーティスト用の宿泊施設もできればなと考えてます。

子どもたちが絵を描けるスペースもあるし、ミューラル以外でもアートと触れ合える空間ですね。それに宿泊もできるようになれば、寝・食・絵が全て一緒になるから、アーティストとまちの人の距離がもっと近くなる。めちゃ理想的ですね。お2人は此花に根ざしながら活動を続けているわけですが、この地にはどんな想いを抱いたりしてますか?

久永:僕は神戸に住んでるんですが、ミューラルをここまで受け入れてくれるまちって本当に珍しい。みんな温かい人ばかりだし、これからもずっと一緒になってまちを盛り上げていきたいなと思ってますね。

川添:このまちに住んでるので、ミューラルに対する喜びの声が増えてきてるのは実感してます。此花以外のまちから遊びに来てくれる人も多くて、少しずつだけど新しい波が来てる感覚。先人の方々がいたからまちとしての活気は保たれてますが、そこにミューラルという要素が加わったことで、さらなる活性化に貢献できるのはうれしいことですね。ただ、このまちを独占するつもりは全くないので、周りと共存しながら、僕らWALL SHAREとしての色も根付いていけばいいと思ってます。

死ぬまでミューラルを増やし続ける。僕らだからできることだし、それしかないんですよ。
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Profile

WALL SHARE

ミューラルを企画・プロデュースする企業として、2020年4月設立。壁画の直訳でもあるミューラルを通じて、様々なシーンでアートと触れ合えるきっかけを作り、国内外のアーティストの活動をサポートしている。2023年9月からは拠点となる大阪・此花エリアで、『MURAL TOWN KONOHANA』プロジェクトをスタート。まちと人とアートが繋がるミューラルを生み出し続け、大きな注目を集めている。

https://www.wallshare-inc.com/
Instagram: @muraltownkonohana

Profile

川添 孝信

WALL SHARE代表。大学卒業後、フォルクスワーゲンとクラウドワークスを経て独立し、ワンエイティーを共同創業。自分の好きなグラフィティやアートの領域で事業を展開するため、2020年4月にWALL SHAREを設立。ミューラルへの果てしない愛と熱量を持ち、カルチャーとビジネスを結びつけながら国内外の様々な場にミューラルを生み出し続けている。

Profile

久永 連平

ミューラルプロデューサー。大学卒業後、有馬温泉の老舗旅館で販促施策やマーケティングに従事。その後、オーストラリアで2年間働き、アジア各国を渡り歩いて帰国し、WALL SHAREにジョイン。世界の多様なカルチャーを吸収しながら、ミューラルのリアルシーンも見続けてきたその眼と感性は、国内外のアーティストから高い信頼を集めている。

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