出会ってから、人生が変わった。日本におけるFat Lava普及の第一人者、『kiis』の服部敬子さんが魅せられて飛び込んだ、歴史と人の想いが交錯するFat Lavaの世界。

まるで溶岩のごとく流れているディテールと、情熱的なマグマのような真っ赤なカラーのものがあったり。鮮やかだけど奇抜な色使いと、ザラッとしたテクスチャで独創的なフォルムのものがあったり。ミッドセンチュリーから1980年台にかけてドイツで作られた陶器の、Fat Lava(ファット ラバ)。そのFat Lavaを日本で最初に普及させ、後世に残していく活動を続けているのが、南森町にあるFat Lava & German Art Potteryを主宰する『kiis』の服部敬子さん。日本ではコロナ禍でのインテリア需要の高まりと、服部さん自身の活動が本格化したタイミングで認知度が広がり、今では知ってる人も扱ってるお店もグッと増えました。そんな服部さんは、金属工芸作家として活動していた2014年にひょんなことからFat Lavaと出会い、その奥深くておもしろい世界にどんどんのめり込んでいったそうです。ものとしてのインパクト、可愛さ、存在感はもちろんありますが、そこにはどんな世界が広がっていたのか。ここだけでは語り尽くせないほどの背景やストーリーがありますが、服部さんの想いとともにFat Lavaの世界に触れてみてください。見た目だけじゃない、いろんな視点でのものの見方が生まれると思います。そして、めちゃくちゃ素敵だから、皆さんも現物を手に取りながら服部さんと話をして、「これだ!」と思うFat Lavaと出会ってもらえれば最高です!

ドイツに行く度に探して買っていた陶器がFat Lavaというものだと知り、ネットで調べ始めた頃は日本語の情報がゼロ。何度も諦めかけたけど、少しの希望の光が見えてどんどんのめり込んでいきました。

お店にはズラリとFat Lavaが並んでて、ほんと圧巻ですね。まずはこの美しい陶器に興味を持ったきっかけから聞かせてください。

私は元々、金属工芸の作家として、錫を使った作品を制作してました。日本のものも美しくて好きだけど、ずっとヨーロッパの金属製品に憧れていたので、勉強のために現地に行ってみたいなと思ってたんです。ドイツ、イギリス、フランスのどれかに行きたいなと思ってて、ちょっとしたきっかけもあって選んだのがドイツ。その時に自分のお土産として買ったのが、たまたまFat Lavaだったんです。当時はもちろんFat Lavaという名前も知らなかったし、素敵な陶器だなと思っていたくらいでした。

ちなみにドイツを選んだ「ちょっとしたきっかけ」とは、何だったんですか?

話すのも恥ずかしいんですが、ビクーニャっていうアルパカみたいな動物に会いたくて(笑)。ビクーニャは南米の高地に生息するラクダ科の動物で、日本にはいないんですが、たまたまドイツの動物園にはいたので…。それでドイツに決めたんです。

じゃあ、ビクーニャがドイツにいなかったら、そもそもFat Lavaとも出会えてなかったかもしれませんね(笑)。何年前くらいの話ですか?

初めてドイツに行ったのが2014年です。以来、ドイツの魅力にハマってしまって。

このマグカップが、服部さんが2014年に初めて買ったもの。ティーカップセットで8客あったものも、欲しい方に譲ったりして、手元に残っているのは3客のみ。今でも大切に愛用してるそうです。

その魅力とは?

街も賑やかで華やかなんですが、ものを大切にする文化がすごく根付いてるんです。Fat Lavaをはじめ、いろんな陶器や金属工芸品も残っているし、現地の友人がたくさんの友だちを紹介してくれて、この国の文化も人も大好きになりました。初めて行ったのは冬で、「今度は夏においで!」と言われて行ってみると、全然違うドイツが広がっていて…。サマータイムで夜は10時頃まで明るいし、いろんな人が1日を自由に楽しんでいる。緑も多くて、特に菩提樹の香りが抜群に良かったので、そこからは毎年5〜6月頃に行くようになったんです。

ドイツは日本と文化的にも近しいと言われてますし、さらに馴染みやすかったのかもしれませんね。毎年行ってたとのことですが、Fat Lavaとは知らぬまま買い集めてたんですか?

そうですね。行く度に蚤の市などで見つけたら買っていました。当時はまだ金属工芸作家として活動していたので、個展を開催する時に「今回はこんなものを買ってきました!」的な感じで、お披露目会をしていたんです。欲しい人がいたら、その場で販売もしたりして。

Fat Lavaは、数あるGerman Art Potteryの中の一例で使われている名称。インタビューでは、分かりやすいようにFat Lavaという言葉でまとめています。

なるほど。では、買い集めてたものがFat Lavaと知ったのはいつ頃だったんですか?

確か、2018年頃ですね。ヴィンテージやアンティークの見識が深い方と仕事した時に、私も作品と一緒に自分のコレクションを出していたら、「これはFat Lavaだね」と教えてもらい、初めて存在を知りました。その方もそれ以上の情報は持っていなかったので、ネットで色々調べてみたんですが、日本語の情報はゼロ。英語やドイツ語で書かれた情報を必死で探しながらたどり着いたのが、Mark Hillさんの著書、通称『Fat Lava Book』でした。そこで書かれてる解説を読み解いていくうちに、「こんなにもおもしろい世界があるのか!」と思って、どんどんのめり込んでいったんです。でも、私と同じようにFat Lavaの魅力を深掘りしたいと思った人がいたとしても、日本語の情報がないときっと困ってしまう。情報がないなら、私が日本でFat Lavaを一番知っている存在になろうと、その時に決心しました。

すごく大きな決心ですよね。そこからはどんな行動を?

金属工芸作家としての活動と並行しつつ、Fat Lavaの見識を深めることに時間を注ぎ、インスタやブログで情報発信をしていきました。初めはドイツにいる友だちにビジネスパートナーになってもらい、現地に行って蚤の市やヴィンテージショップを回ってFat Lavaを探したり、私が日本にいる時も彼女が仕入れたものを送ってもらったりしていたんです。でも、2人とも素人だし、陶器を送ることすらやったことがないから、輸送時に割れてしまったことなんて何回もありました。補償はどうしたらいいのか…、もう分からないことだらけで…。楽しいけど難しい現実に直面して行き詰まっていたところ、たまたまネット上で1人のコレクターさんと出会ったんです。そして、その方のコレクションから買わせてもらえるようになったことで、一気に前進できました。

大切にしたいと思ってるものが割れちゃうとか、マジで泣きそうになりますよね…。買い付けたFat Lavaは、どのようにして販売してたんですか?

作家としての個展やPOP UPなどでも販売しつつ、そのコレクターさんから買わせてもらうようになったタイミングで、Fat Lava専門のオンラインショップも始めました。2019年6月頃ですね。

「日本でFat Lavaを一番知っている存在になる」と決めてから地道に普及活動もされてきたわけですが、伝えることの喜びをどんな時に感じたりしてましたか?

個展やPOP UPでも楽しみにしてくれる方が増えてきて、オンラインショップを始めてからは、今まで接点のなかった方の購入がさらに増えました。当時はインスタのフォロワーも500人くらいだったんですが、ネットで調べてたどり着いてくれたんだと思います。実は、昔から憧れていたスタイリストの方にも買っていただけたことがあって、「私以外にもFat Lavaの魅力を感じてくれてる人がいる!」と思えて、ほんと嬉しかったですね。私自身の世界も一気に広がりましたし、Fat Lavaの魅力をこれからも伝えていくためにお店を持とうと思って準備してた矢先に、コロナ禍になってしまって。

服部さんの世界も広がったし、その魅力に気づいた人の世界も広がってる。好きなことでそれができるって、ほんと幸せなことですよね。でも、コロナ禍にぶち当たってしまった。

緊急事態宣言が出た日は、お店の床を1人で剥がしてる時でした(涙)。どうなるんやろ…お店は今から始まるのに…と不安もいっぱいでしたが、ここまできたらやるしかないなと。そこが、この陶器と私の転換期でもありました。

自宅で過ごす時間が長くなってましたし、オンラインショッピングのハードルが世代を超えて一気に下がった時期でしたもんね。

ただ、ドイツからの空輸便が止まってしまっていて…。需要はあるのに送れない状況をFat Lavaのオンラインコミュニティに打ち明け、「日本で広めたいから誰か手を貸してほしい」と伝えたら、イギリスやオランダ、ポーランドの10人くらいのコレクターさんが協力を申し出てくれたんです。ドイツのコレクターさんも「便が再開したら送ってあげるよ!」と言ってくれて、そこから仕入れのルートが大きく変わりました。

ビジネスとして初めて企業から買い付けを依頼された年の旅と、その時の戦利品。ベルギーで奇跡的にゲットしたものは、憧れのスタイリストさんのもとへ。

助け合いですね。きっと、服部さんのFat Lavaへの想いをみんなが感じてたからこそだと思います。そして、仕入れルートが広がったことで、より多くのFat Lavaも集められるようになったと。

数を集められることも嬉しいことでしたが、私にとって一番だったのは、たくさんのコレクターさんと繋がれたこと。そのおかげで自分の知らない情報をより深く知れるようになり、Fat Lavaのおもしろい世界がさらに広がったんです。ある方はコレクター歴が30年だったり、ある方は9000点以上所有してたり、そんな情報も含めて日本の皆さんに伝えられるようになリましたからね。いろんな角度からFat Lavaの魅力を伝え、知ってもらえる、大きな転機にもなったと思います。

まだまだ解明できていないことがあるFat Lava。だから、自分の視点で推測したり考察できるし、これからもいろんなストーリーが生まれてくるはず。
123
Profile

服部 敬子

大阪生まれ奈良育ち。『kiis』主宰。短大卒業後、アパレルショップの勤務を経て、金属工芸作家として活動。ヨーロッパの金属工芸に憧れてドイツに行った際、たまたまお土産で買ったものが後にFat Lavaと判明する。以来、その奥深い世界に興味を持ち、「Fat Lavaを日本で一番知っている存在になる」と心に決め、探求を続ける。コレクターとして収集する一方で、オンラインショップやSNSで情報を発信し、2020年1月23日にFat Lava & German Art Potteryという名前で専門店を南森町にオープン。2021年1月23日には、Fat Lavaを世界的に広めたMark Hillの著書『Fat Lava Book』の日本語版を自費で出版する。2025年にはFat Lava協会を設立予定で、日本における第一人者としてFat Lavaの普及と後世に残していくための活動に奔走中。お酒と酒場と人が大好き。

https://www.fatlava.net/

CATEGORY
MONTHLY
RANKING
MONTHLY RANKING

MARZELでは関西の様々な情報や
プレスリリースを受け付けています。
情報のご提供はこちら

TWITTER
FACEBOOK
LINE