消しゴムはんこ作りから生まれた対話が活動の原点。気鋭の若手絵本作家・原葉太さんに聞いた、夢中の始まりとその先。
僕は消しゴムはんこも木版画も作りますが、昔から作っているだけあって、やっぱり消しゴムの方が手に馴染む気がします。
木に彫るのと、消しゴムに彫るのとどんな違いがあるんですかね?
今は作るものによって木と消しゴムを使い分けていますが、小4からのキャリアもあるので、やっぱりゴムの方が手に馴染むように思います。ちなみに僕は『SEED』さんの「ほるナビ」という商品にずっとお世話になっています。
消しゴムに限定せず、木版を始めたのはどうしてですか?
実は消しゴムってすごく高いんですよ。同じA4サイズでベニヤ板が200円くらいなのに対して、消しゴムは6,000円くらいするんです。コスト面が大きいですかね。木版画を始めたのはここ2〜3年で、僕は木の中でもゴムに近いベニヤの合板(薄い板を重ね合わせたもの)を選んでいます。合板って表面が平らで柔らかいから加工しやすいし、層になっていて剥がれやすいから、版画の白い部分を作りやすいんです。棟方志功さんとか木版画をメインでやられている方は、1本の木から切り出した素材を根気強く、彫って平面から作っていると思います。
果てしない作業のように思えます。
それは本当に果てしないと思いますよ。木を彫る時は基本彫刻刀を使うんですが、僕はカッターが好きで昔から使ってきたので、刃がパキパキ折れるのも気にせずカッターをメインにして彫っています。切り取り線みたいなものを板につけて、それを平たい彫刻刀でメリメリ剥がしていくんです。
インクはいかががですか?
使うインクも違いますね。木版画は水溶性のインクで、消しゴムの場合は油性のシャチハタを使っています。
彫りやすさはに違いはありますか?
一概には言えないなぁ。細い線とかは消しゴムの方が彫りやすいけど、彫る時のストレスが少ないのはベニヤ板ですかね。どちらも回しながら彫っていくんですが、特にでっかい消しゴムはんこは重いしめちゃくちゃ彫りにくいので、下に駒みたいなのを付けて回るようにしています。大きな消しゴムハンコを作っている人があまりいないので完全に自己流ですね。消しゴムは、擦れると表面に描いた下絵が消えちゃうので、ティッシュなどを手の下に噛ませて彫っていて。その分、ベニヤ板は軽いし表面を触りながら彫れるので楽ですね。
何か彫ったものがあれば見せていただきたいです。
大阪に来てから彫ったものだけなんで少なくて、実家にあるものの5分の1くらいかも。今は前の作品の彫り直し作業をしていて中断してるけど、実は新作の絵本も作っています。加工しやすいサイズ感の消しゴムだけを組み合わせた、僕にとっては初めての手法で作る絵本です。
1枚絵を彫っていくのではなく、たくさんの消しゴムを組み合わせて作っているんですね。
お化けみたいなキャラクターが主人公です。最近は、この絵本のとあるシーンに使う1枚を、財布の中に入れて名刺代わりに持ち歩いています。蝋燭や石ころは1つのはんこを使い回していて、それってすごく効率的だなと思いますね。物の配置や構成、修正・加筆がしやすくて、作ってみて初めて使い勝手の良さに気が付きました。
原さんと初めてお会いしたのは、中崎町の『STUDIO.V.C.』というギャラリーでした。そこで数字と平仮名をひたすら彫っていたのが印象的で、喋りながら作業していたのに、手がすごく早かったのを覚えています。
あの時は、お店の人に頼まれてメニュー表に使う消しゴムはんこを彫っていました。授業中にまで彫っていて鍛えられたので、スピード感は結構ある方だと思いますよ。鉛筆と消しゴムとカッターがあればどこでもできるので、仕事の休憩中や旅先でも彫っています。
せっかくなので、新作の絵本のことを少しだけ教えてください。
人間の家に住み付いている妖精のお話です。玄関の靴裏に妖精がいるところからスタートするんですが、最初の場面に登場するビルケンシュトックは僕の私物なんです。自分の持ち物をモチーフにすることも多くて、絵本が完成して展示をする際は、原画の隣に実物を並べられたらと思っています。
ちなみに何ページくらいになる予定ですか?
42ページくらいですね。結構長いから大丈夫かな……。
200ページほどの長編も作られてませんでしたっけ。
確かに、そう考えるとまだマシなのか。それは詩画集という体で出した、短編を6話ほど収録している作品です。6話まとめて思い付いた時があって、1冊ずつ出すには物語として短すぎるし、全部関連のありそうな話だから1冊にまとめたんです。あれも大変だったなぁ。
絵本を作る時は、キャラクターと物語のどちらから思いつくんですか?
キャラクターですね。僕の絵本には必ず特徴的なキャラクターが登場するんです。キャラクターから思いついて、そいつがどういうことをしてたらおもしろいかなって考えて、それを広げてストーリーを紡いでいく。そことは別進行で、身の回りで見つけた素敵なものを絵のモチーフや構図に取り入れて、物語に組み合わせていきます。今作っている絵本は、ページを区切らずに続く日本の古い絵巻物を参考にしました。物語を通して全て登場人物が同じ大きさで、無駄な描き込みがないんですよね。明確なわかりやすさが気に入って、今回の参考にしてみました。
なるほど。そう言われると、絵巻物に通じる部分があるように思います。
で、今回登場する敵が壁に掛かっているコイツです。細かい設定があるわけじゃないけど、たぶん人間なんですよね。僕のビルケンを履いてるから、もしかしたら僕自身なのかもしれないけど。人間の家に住んでいて、玄関におかしな抜け穴を見つけてから、妖精たちにしつこく付きまとうんです。妖精と言いつつちっちゃい神様のようなもので、最後に痛い仕返しにあうお話です。子どもがこれを読んだらきっと妖精を応援するだろうから、その場合はあいつが敵になるのかなって。でも大人が読むと、彼はタンクトップと半パンを着てビルケンシュトックを履いて、普通にベッドで寝てる普通の人間なんです。恐らくそこに気付いて、変な奴らが自分の家に住んでる想像をするという2層構造になっています。あいつはめっちゃ変な顔をしてるけど、魔法の力を持ってるとかにはしたくなくて。見た目だけだと妖精の方が人間に近いけど、完全に変な顔のあいつが人間です。
新作はいつ完成する予定なんですか?
来年の春が来るまでには完成させて、展示をしたいと思っています。まだ5分の1くらいしかできてないけど……、とりあえず頑張ります。後半はだいぶ集中力も増して、徹夜とかもしてラストスパートをかけていくはず。そんな生活になるのも楽しみだな。
こんなこと言ったらおこがましいと思うんですけど、僕はジブリが大好きで、制作の流れのドキュメンタリーとか観てたら、すごく共感するんですよ。ジブリはたくさんの人が力を合わせてやっているけど、そのマクロレベルのことを1人でやっているのが僕なのかなって思うんです。
なぜそう思ったんですか?
たぶん工程の順番が同じだからです。まず絵コンテを作って、下書きをして彫って、1つずつキャラや物を配置して、流れを確認して、修正・加筆をする。物語に絵付けする作業の参考にしているのは、絵本作家さんよりアニメーションかもしれません。
原 葉太
2001年生まれ、東京出身。小学生の頃、年賀状作りから消しごむはんこに興味を持ち、現在は木版画や消しごむはんこを用いた絵本を制作している。主な展示は、「きみのはなし」@恵比寿BOOTLEG GALLERY、2人展「詩画集こどもの展示」@神保町ブックハウスカフェ、「ファンタジー」@阿佐ヶ谷古書コンコ堂/muma/JUDEE(三店舗同時開催)、「わだまりあんにの展示」@阿佐ヶ谷ギャラリー白線など。