自分のスタイルを持つカッコいい人になりたくて。最近気になる“看板屋のあの子”、サインペインターの岩切理子さんに会いに行く。
1つひとつ異なる筆跡やちょっとしたブレなど、手仕事の温かみを感じられる味わい深さが魅力のサインペインティング。ある人との出会いをきっかけに、筆と塗料を使って手描きの看板やロゴ、内装デザインを手掛けるサインペインターとしての活動をスタートし、街で“看板屋のあの子”と呼ばれている女の子がいます。それが、今回インタビューした<PUCCA SIGNS>の岩切理子さん。おっとりとした彼女の雰囲気とは裏腹に、ビビッときたものへ飛び込む決断力と行動力はまさに電光石火!印刷技術などの発達で、技を継承する人が減っていく中、手書きの魅力を今に伝える職人さんです。今回は、大阪・北浜のコーヒーショップ『ブルックリン ロースティング カンパニー』で店前のロゴをペイント中の理子さんにお話を聞きました。「関わったショップに幸せが舞い込みますように」と商売繁盛を願いながら丁寧に描く姿、とってもカッコよかったです!これを読めば、街の看板やロゴを眺めるのが楽しくなるかも。ぜひチェックしてください!!
憧れの人との偶然の出会いをきっかけにサインペインターの世界へ。ペイントをしたりコーヒーを淹れたり、好きなことはとことんやるスタイルです!
手描き看板屋さんになるまでのお話を聞かせてください。
専門学校でプロダクトデザインを学んだ後、大阪のベビー用品の会社で3年半ほど企画の仕事をしていました。もともと海外のサインペインターさんをインスタでフォローしていて、そのデザインを眺めるのは好きでしたね。だけど自分で何かをやろうと思ったことはなかったです。大きなきっかけになったのは、全国を飛び回っているサインペインターの田辺竜太さんとの出会いでした。日本各地で看板や内装デザインを中心としたハンドペイントをしている方で、すごくカッコいいなと密かにフォローしていたんです。ある日、私の幼馴染のストーリーズに大阪の現場で作業している竜太さんが偶然アップされていて。こんな貴重な機会もう一生ないかも!と思って会いに行ったんです。
初めてお会いした竜太さんはどんな方でしたか?
作業している姿もお人柄もめちゃくちゃカッコよかったです。私は当時会社に勤めていて、定時まで仕事をした後、毎日竜太さんに会いに行ってました。お話をするうちに「私もサインペインターになりたい」と思うようになり、そこから3ヶ月くらいで会社を辞めて、竜太さんのお弟子さんのような形でノウハウを学ばせてもらうことになりました。
すごい行動力!竜太さんの姿にそこまで惹かれるものがあったんですね。
そうなんです。私はいわゆる横乗りカルチャーが好きで、海外のスケーターやストリートファッションにずっと憧れがありました。竜太さんは地元の静岡県浜松で20年ほどボードショップを営んでいて、長らく趣味でペイントをしていたそうなんです。サインペインターとして本格的に活動を始めたのは、40歳を超えてからここ10年ほどだというお話でした。そんな竜太さんの話を聞いていると、技術やセンスはもちろんすごいけど人間的にもとても魅力的な方だなと。自分のスタイルを持っている姿がカッコよくて、私もこんな大人になりたいなと惹きつけられました。
「やってみたい」と伝えた時、竜太さんはどんな反応を?
「じゃあ現場に付いて来る?やりたいなら一緒に来ればいいじゃん」ってフランクに言ってくれて。竜太さんがまとっているラフなムードも私の背中を押してくれました。
理子さんはもともと絵や文字を描くのは好きだったんですか?
子どもの頃からイラストやフォントを描くのは好きでした。だけどそれを職業にしようと考えるほど真剣に向き合ったことはなくて、竜太さんに会って初めて自分もやってみたいと感じたんです。
竜太さんにはどんな風に教えてもらったんですか?
作業の現場に付いて行って、技術面のことやお客さんとのやりとりを色々教えてもらいました。でも仕事に関することだけじゃなくて、一緒にご飯を食べたりドライブしたり、とにかくお互いの話をたくさんしましたね。横乗りカルチャーの話から、今後人としてどうやって生きていきたいかという話まで幅広く。その辺りの波長が合ったのも、良かったなと思います。
基本的なことになるかもですが、サインペインターさんってどんなことをする人なのかあまり知らなくて。教えていただいてもいいですか?
ショップの看板やロゴ、内装デザインを手描きでペイントする職人さんで、日本語でわかりやすく言うと“手描き看板屋さん”です。日本でサインペインターと呼ばれる人は少ないですが、アメリカなどでは割とメジャーな職業なんですよ。昔の日本では銭湯に描かれた富士山とか映画のポスターとか、印刷技術が発達する前は全部看板屋さんの仕事だったんです。
自分の作品を制作するアーティストではなく職人さんになるんですね。デザインはどうされてるんですか?
会社員時代にグラフィックを勉強したので、ニーズがあればデザインもやらせていただいてます。すでに決まっているデザインを描いてほしいと言われることもあるし、ロゴからオリジナルでデザインしてほしいと言われることもある。要望に合わせて臨機応変に対応しています。手描き看板屋は必ずその先にお客さんがいるので、そこが自分の作りたいものを作るアーティストとの違いですね。
相手の意図を汲み取ってハンドペイントで表現する。確かにクライアントワークですね。
お店の雰囲気やコンセプトに合わせてデザインやフォントを考えるのは結構好きなんです。お店のテーマがNYスタイルだから都会的なイメージで、とか。映画や本からインスピレーションを得ることも多くて、そういう世界観作りが好きなのかもしれません。自分は乗らないけどスケボーも好きだからデッキの裏に描いてるアートを参考にしたり、ストリートアーティストから影響を受けたりすることもありますね。
サインペインターの活動を始めて何年くらいになるんですか?
3年くらいかな。その間は、竜太さんの元で学びながらサインペインターとして自分の仕事も受けつつ、コーヒー屋さんでアルバイトをしていました。それこそ『ブルックリン』でも働かせていただいていて、ここでの繋がりや出会いは今でも大切な財産です。最初は知り合いの飲食店さんが興味を持ってくれて、「うちで描いてくれない?」という依頼をいただいてたんですが、スタートして1年くらいで知らない方からもインスタ経由で連絡をもらうようになりました。ご飯を食べたり飲みに行ったりするのが好きなので、酒場で偶然会った人からお願いされることもあって。「仕事何してるの?」って聞かれて、「手描き看板屋をしています」って言うとすごく興味を持ってくれるんですよ。
確かに、めちゃくちゃ興味が湧きます(笑)。どんな職業なのか色々聞きたくなるし、何より理子さんのキャラクターがすごくチャーミング。すてきなお人柄もあって、お願いしたいなって思うんでしょうね。インスタの投稿に付けている「#看板屋のあの子」というハッシュタグもキャッチーだなって思います。
あのハッシュタグは友達がインスタの投稿をする時に付けてくれて、なんかいいなって思ったんで私も使ってます。そんな風にアイコニックな肩書きがあるのっていいですよね。
コーヒーもたまに淹れてらっしゃるんですよね。
色んなカフェで働いてきたんですが、最近は知り合いが西田辺で『W&B Delicious Service』というローカルファミリーレストランを始めて、私もたまにコーヒーを淹れるのを手伝っています。もともと1階がカフェで2階は豆の焙煎スペースになっていて、「まだ空間にゆとりがあるし良かったら使ってみない?」と言ってくれたので、今は2階をアトリエとして使わせていただいてます。もともとお寿司屋さんだった建物を自分たちで解体・施工して造っていて、すごくカッコいいお店なんですよ。
『W&B』さん気になってました!理子さんも手描きでロゴをペイントされてましたね。
アトリエがあることが私のモチベーションです。カフェで働く人や通ってくれるお客さんってユニークな人が多いから、それが私にとって大きな刺激になっていて。インプットもアウトプットもできるいい場所だなって思います。現場がある日は現場で作業して、それがない日は豆を焙煎する香ばしい香りに包まれながらコーヒーを淹れる。好きなことは全部やっちゃえっていうスタンスです。
岩切 理子
サインペインター。大阪府出身、1997年生まれ。専門学校のプロダクトデザイン学科を経て、ベビー用品の会社に就職。その後、サインペインターの田辺竜太さんに従事しノウハウを学ぶ。現在は<PUCCA SIGNS>として、関西を中心に飲食店やアパレルショップなどの手描き看板や内装を担当。コーヒーが大好きで、以前は『ブルックリン』に勤めていたそう。