朽ち果てた廃屋群をDIYして村をつくる。廃屋ジャンキーの西村周治さんに、自身の取り組みや廃屋の魅力について聞いてみた。


家屋を手入れせずに放置していると、どんどん自然に侵食されていく。その風景や力強さに惹かれます。

今日は、兵庫区梅元町で撮影をさせていただいてますが、ここは一体どうなるんでしょうか?

ここは“村”をテーマに「梅村(バイソン)」という名前を付けて、廃屋群の修繕を進めています。今で半分くらい進んでいて、あと1年半くらいはかかるかな。屋根もなくただ自然に還りつつあった廃屋を半年かけて解体して、屋根を直して柱を一本一本入れ替えて、ギャラリーやシェアハウス、工房などに生まれ変わらせています。とりあえず場所を提供するのが僕の役割で、上手く活用してくれる人がいたらいいなと。利用者や住居者はアーティストが多いので、いろいろ実験できるような場所にしていけたらいいですね。飲食の営業やイベントができるよう、大きなセントラルキッチンも作りました。

ちなみに今入居者を募集している物件はありますか?

梅村の物件はほぼ埋まっていますが、シェアハウスとアトリエが2軒分空いてるので、興味がある方はご連絡いただきたいです。いろんな人と関われますし、人脈を広げたい方やおもしろい場所に住んでみたい方にはおすすめですよ。

一番最初に完成へと近づいた「バイソンギャラリー」は、地域のアーティストが気軽に展示できるスペースに。キッチンを併設し、西村組の皆さんはここでお昼ごはんを作って食べているそう。
1階が工房スペース、2階が住居になっており、若き木工アーティストがシェアハウスをしている。
2階建てて見晴らしのいいこの物件は、アーティスト・イン・レジデンスになる予定。「インスピレーションの源になればと考えています」
ほんのり上品な佇まいのこちらは、まだほとんど手付かず。いずれはホステルにしたいと計画中!

僕が手がけているものにもいろいろあって、長田区の丸山にある「バラックリン」という廃屋群は、ここみたいに借りてくれる人すらもいなくて。使い道もないし、あえてボケてみようかなと。仏像を並べて祭壇を作って祭壇バーみたいなことをしたり、持ってきた野菜をプロの料理人が調理してくれる「ギブミーベジタブル」というイベントをしたり。半年に一回くらいほど、イベントスペースとして活用しています。神の御加護を受けつつ、ライブやDJイベントをしたのも良かったですよ。こういうイベントは、基本出店者にお金を山分けするので収支はゼロなんです。遊びの一環でもあるので、お金のことはもういいかなぁと。

以前開催された「バラックリン」でのライブイベントの様子。

ちょっと踏み込んだ質問かもしれませんが、たくさん廃屋を購入したりイベントを企画したり、西村さんの金銭事情は……?

お金はね、家をいっぱい持ってるんで、家賃収入が入ってくるんですよ。

なるほど、それは素晴らしいですね!

とはいえ超マイナスですが、まぁ何とか暮らしています(笑)。自分でもどこへ向かっているんだろうと思いますよ。僕は直せるものがあるから直しているだけで、これだけ抱えてしまっているから、やるしかないって感じですね。

西村さんが思う、廃屋の魅力ってなんですか?

家って人工的なもので、自然に対してはある種ものすごく不自然な存在なんです。家を手入れせずに放置していると、幼虫が畳の下に入り込んだりシロアリが木を全部食べたりして、自然にどんどん侵食される。いわば大地に還って行こうとするんです。廃屋は屋根が落ちることで内部に水が浸透して、より美しさが増すんですよ。その自然に侵されていく風景や力強さがいいのかな。人工と自然のせめぎ合いが廃屋の中で行われていて、戦ってんなぁっていう感じがしますね。

だけど僕は、それを改修するというめちゃくちゃ不自然なことをしている。シロアリを駆除して幼虫を蹴散らして、人間が快適に住めるように頑張っている。自然に対してこんなにも暴力的なことをして、何をしているのかなと時折思います。

梅村の畑で飼っている烏骨鶏は、人馴れしており近づいても逃げない。毎朝卵をいただいているそう。

扱う物件は廃屋にこだわっているわけですが、新築を建てるのはまた違うんですか?

個人的に新築を建てる意味があまりわからなくて。今の空き家率ってすごく高いんです。人口に対して家屋は飽和状態なのに、なんで新築を建てるねんと考えてしまう。古いものを捨てて、新しいものを作る日本独特の文化によるものだと思いますが、近年3軒に一軒は空き家になると言われているんです。なのにまた新築を建てるなんて、どうしてだろうと。何千万の借金を背負って、お金を返していくのは荊の道やと思いますけどね。

確かに海外だと同じ家を何度も修理して、何世代も住むっていうのが主流ですよね。

それは日本でもやろうと思えば可能ですよ。日本人はパッケージ化された商品が好きだから、自分の家を持つということへの安心感がほしいんでしょうね。だけど一軒家を建ててようやく一人前、という先入観は捨てた方がいいのかなと。新築至上主義みたいなものは、サスティナブルとかSDGsが叫ばれているこの時代に、ちょっと合っていないような気はします。

西村さんならではのDIYへのこだわりはありますか?

修繕の際、新品の材料ではなく廃材を使うことです。この空間もマンションのモデルルームのガラスを貼っていたり、扉の板はロシアから輸出された製品の梱包に使われてるものだったり。舞台美術の廃材の引き取りや解体が多いので、必然的にそういった関係の廃材が多くなります。

「ここにある木材やガラスはすべて廃材。キレイなものも多いですが、放っておくと捨てられてしまうので、ウチで引き取って再利用しています」

アトリエ、ギャラリーなど空間の役割を決めてから、建物を購入しているんでしょうか?

何も決めてないです。いらないからって押し付けられたり、一軒だけという話だったのに3軒セットだったりしますからね。所有軒数も定かじゃなくて、恐らく30軒から40軒くらいはあるのかな。そのうち半分はボロくて朽ち果ててますよ。きっとまだ20軒くらいしか直してないと思います。

解体をしていて大変だったことは?

畳を剥がしたらめちゃくちゃ虫が湧いてたとかは、日常茶飯事ですね。発見したらみんなでキャーキャー言いながら作業します。そんな見たいものでもないですが、それはそれで楽しいんですよ。

怪我をしたことや、危険なこともありましたか?

何度もありますね。上から物が降ってきて頭が割れたり。うちは初心者も多くて、慣れていないと一生懸命やろうとするから、1日目に怪我をするんですよ。そこで一生懸命やらんでええんやと気付いて、2日目から程よく頑張れるようになる。できるだけ手を抜いた方が怪我が少ないんです。だから「西村組」でも、“適度に手を抜こう”という教訓を取り入れています。

経験が必要な職種に思えますが、初めての方も多いんですね。

女性もいますし、大半が初めてですよ。仕事がないから来ました、みたいな。長くやっていると本職に近い動きもできるようになるので、最近は解体のスピードも上がってきています。

ちょうどいいゆるさを感じられる西村組の教訓。
廃屋のDIYは僕の使命であり、生きる意味のようなもの。今後は全国の廃屋を生まれ変わらせたい。
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Profile

西村 周治

1982年、京都府生まれ。一級建築士・宅地建物取引主任士。神戸芸術工科大学建築学科を卒業後、ボロボロの長屋を改装して住み始めたことを機にDIYに目覚め、神戸市内の廃屋を改修しつつ引っ越しを繰り返す。2020年に有機的な建築集団「西村組」を結成、“無理をしない”を合言葉に日々廃屋と向き合う。

西村組
https://nishimura-gumi.net/home/

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