大阪文化服装主席卒が“ファッション”を諦めた理由。河野伸平さんが語る“好き”との適切な距離感。


“好き”との適切な距離感。「全く興味のない服を扱い始めた頃が、一番服が好きだった」

どハマりした結果、全身<サン・ローラン・パリ>になっていた頃の河野さん。カッコ良すぎんか……?

ネットや書店には「好きなもので生きていこう」という風潮もあります。好きであればあるほど、そこから距離を置くのは難しいように思いますが、自分の好きな服を仕事にするのを諦める時に葛藤はありませんでしたか?

むしろ解放されたような気分でしたよ。客観的に洋服を見られるようになって、逆にものすごく服が好きになりました。セレクトショップを辞めて、大手グループ企業に入ったくらいの頃が、人生で一番服が好きだったかもしれません。めちゃくちゃ服も買いましたし(笑)。

転職してお金もあるし、みたいな(笑)。

そうそう(笑)。僕が専門学校生だった頃って、ちょうど天才デザイナーと呼ばれるエディ・スリマンが<ディオール>でディレクターをしている時だったんです。でもお金がないから<ディオール>なんて買えなかった。

ところが、僕が転職した頃にエディが<サン・ローラン・パリ>のディレクターに就任して。おかげで物欲が爆発して、バカみたいに彼の服を買い漁りましたね(笑)。

そこまでずっと我慢していたから。

はい。なんなら借金してまで買ってましたね。返せるかどうかもわからなかったけど、タガが外れちゃったんだと思います。エディの復活に熱狂して、忘れかけていた青春を取り戻したみたいな感じでした。

河野さんにとっては、それが“好き”との適切な距離感だったんですね。

そうだと思います。起業したときに洋服をメインにやらなかったのも、自分の好きなことを仕事にするより、得意な分野―――マーケティングやディレクション――をやった方が、しっかり収益を出せると考えたからです。

特に僕の場合、自分のお金で起業したのではなく、さっき話したみたいに投資してもらって起業したので、きっちり恩返しをする必要がありましたしね。

大切にしているのは「ギバーであること」。

河野さんが日頃大切にしていることは何ですか?

ギバーである―――常に与えられる人間であることです。

どうしてですか?

例えば僕に出資をしてくれた社長さんは、ものすごいギバーです。彼が僕に声かけてくださったとき、「どうしてこんなに与えられるんだろう」と思い、信用経済と言われる分野を勉強したんです。

そこで「自分は経営者としてギブする側に立つのか、テイクする側に立つのか」と考えたときに、長く事業を続けていくならギブする側に立つことが大切だなと思って。

ギブする側に立つ、というのは具体的にどういうことですか?

僕の場合で言えば、このGrowLevel galleryはギブの場です。利益を追求せずに『zawa』にスペースを貸したり、アパレルブランド<MIHEY>にスペースを貸したりして活用してもらうための場所なんです。

あとは株式会社グローレベルを1人でやっているのも、テイクする側に立たないためのポリシーです。

どういうことでしょうか?

コンサルティング業は社員のような守るべきものを持つと、あっという間にテイクする側に立ってしまうんですよ。

例えば僕がホームページを作れるツールを持っていたとしたら、それを売って儲けたいと考えますし、デザイナーを抱えていたら彼のために仕事をとってきてあげたいと考えます。

企業としては至極当然の思考ですよね。

はい。でもお客様にとっては、僕が持っているツールや僕が雇っているデザイナーがベストの選択肢じゃない場合もあるんです。なんならホームページを作ったり、デザインをしたりする必要さえない場合もある。

にもかかわらず、自社のデザイナーを食べさせるためにお客様に「デザイン作ってみませんか?」なんて提案をしたら、それはもう自社のためにお客様からお金を奪うテイカーになってしまうんです。

だからあくまで1人を貫いているわけですね。

そうです。ある程度の品質のものなら、僕がホームページも作れるし、写真も撮れるし、デザインもできます。どうしても必要なときだけ外部にお願いすればいいと思っています。

「くすぶっているなら、とりあえず動いてみる。あとググる」
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Profile

河野 伸平

株式会社グローレベル代表取締役社長。大阪文化服装学院を首席で卒業後、セレクトショップの販売員からキャリアをスタート。その後、sacaiなどの国内ブランドのバイイングを経験し大手グループ企業に転職。IT事業の責任者を担当し、オムニチャネルなどのシステム構築や独自のウェブマーケティングで十数億円以上の売上拡大を行う。また、ブランドディレクターも兼任しデザイン・店舗設計・ブランディングなどをプロデュースした経歴を持つ。

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