場所が「媒体」。元『カジカジ』メンバーを中心にした中崎町STAND MAGが仕掛ける、新しい編集スタイル。

『カジカジ』が休刊―― 。その衝撃的なニュースが駆け巡ったのは、2020年7月のこと。関西発のファッションカルチャーマガジンとして時代を牽引してきた同誌の休刊は、関西文化系にとって大きな打撃であり痛手でした。あれからもうすぐ2年、『カジカジ』『カジカジH』出身の4名のクリエイターが現在拠点としているのが、中崎町のSTAND MAG。1月には中崎町の情報をギュッと凝縮した限定3000冊のフリーブックを発行、そのクオリティの高さで界隈の話題をさらいました。今回はSTAND MAGにお邪魔して、新たな拠点での活動やこれからの展望などについて、メンバーの皆さんにお話を伺ってきました。

「決まったのがすごい急だった」休刊を経て、フリーランスの集合体として再集結。

STAND MAGのマネージャー・名越亨さん。本業はフリーランスのスタイリスト。

『カジカジ』『カジカジH』の編集メンバーだった皆さん(栗山さん、高松さん、和島さん、村上さん)が、名越さんがマネージャーを務めるこのSTAND MAGに集まることになった経緯を教えていただいてもいいですか?

栗山:亨ちゃん(名越さん)が、「こういうスペースがあるよ」って声をかけてくれたのがきっかけで。

名越:もともとFM802のギャラリーだったこの場所のリニューアルを、僕がお手伝いすることになったんです。それで、若手のフリーランスが使えるインキュベーションスペースにしたらどうかと提案したら、いいねということになって。僕も長くフリーをやってるので、ミーティングとかに使える場所があったらいいなと思ってたんですね。
それと時を同じくして、『カジカジ』が休刊することになって、僕も『カジカジ』にはすごいお世話になってたから、良かったらここでみんなでやりません?って声をかけたんです。フリーランスの集合体みたいになったらいいなと思って。

『NAKAZAKI ACT』の編集長を務めた栗山倫佳さんは「コロナがなかったら、フリーになってなかったかも」

フリーランスの集合体って、魅力的ですね。

名越:1人で考えるより周りに誰かがいたほうがいいし、それぞれに得意分野があるから、それを持ち寄ったら仕事もうまく回るんじゃないかなと思ったんです。

皆さんそれぞれに、ここに集まった感じなんですか?

名越:最初に栗山さんに相談して、そこからですよね。

栗山:亨ちゃんから話を聞いて、私から元編集チームのメンバーに「こういう場所があるんやけどどうする?」って声をかけて。それで集まったのが今のメンバーです。他のメンバーはみんな無事に転職して、東京に行った子もいれば地方に行った子もいます。

高松:このメンバーだけかな、就職決まってないの。

和島:決まってないんじゃなくて、自由を選んだの、私たちは(笑)

自由を選んだ人が、ここ中崎町に集まったんですね。皆さん『カジカジ』が休刊になったタイミングで、フリーランスになる予定だったんですか?

高松:決まったのがすごい急だったので、しばらくボーッとしてました。一番動きが早かったのは村竜(村上さん)かな?

村上:辞めて就活するっていう感じでもなかったから、これを機にフリーになろうかなって。『納豆マガジン』もそうですけど、失業手当がもらえる期間が半年ぐらいあったから、その間に一冊出せるかなと思って。たっぷり時間のある間に何かやりたいことをやろうかなって思いました。

入社4年だった村上竜一さんは退社後、自身が編集長となって『納豆マガジン』を刊行。

栗山:私は全然フリーになる気はなくて。コロナがなかったら、本当は海外に行きたかったんですよ。別に向こうで仕事したいとかじゃなくて、とりあえず海外に行って、フリーになるのか転職するのか、ゆっくり考えたいなと思ってたんです。でもコロナで海外にも行けず、ありがたいことにお仕事もいただいたりして、意図せずにフリーになる流れができてきたような感じです。

心機一転、フリーでがんばる!みたいな感じではなくて?

栗山:いやもう全然。休刊が決まっていきなり目の前に無限の選択肢が広がって、何しようかな?って。

たしかに、急に「明日から自由!」ってなっても戸惑いますよね…。

栗山:他の仕事も考えたりしましたね。でも、わじ(和島さん)もフリーになるって決めるの早かったよね?

和島:休刊が決まった瞬間から、どうしようかな、フリーになろうかなって。何か面白いことできたらいいなあと思って。なんでも楽しめそうな感じはありました。

「急でびっくりした」と言いつつ、いち早くフリーランスになることを決めた和島美緒さん。

高松:僕も同じような感じですね。新しい会社に勤めたいって気持ちもなかったし。声をかけてもらった仕事を手伝ったり、心斎橋PARCOで麻婆豆腐のイベントもやりました。

麻婆豆腐のイベントですか?

高松:昔から麻婆豆腐が好きで、自分でイベントやったりしてたんです。そしたらPARCOさんから声かけてもらって。飲食を仕事にしてきたわけじゃないから大変な部分もありましたけど。でも休刊が決まってからここに来るまでは、いろんなことにチャレンジできる期間ではありましたね。

麻婆豆腐を愛する高松直さんの脳内メーカーには、たしかに「麻辣」の文字が。

皆さん『カジカジ』は長かったんですか?

栗山:私が一番長いかな。18年か19年ぐらい。19歳から『カジカジ』やってたから、今年で編集者として20年目なんですよ。引くほど長い(笑)

高松:僕で14年、和島さんが僕の半年ぐらい先輩かな。ここ3人(高松さん・栗山さん・和島さん)はみんな編集長も経験してるんですよ。

編集部にいた時と、フリーランスになってから、仕事に対する意識の変化はありましたか?

和島:フリーになって、「和島さんに」って声をかけてくれる人のために、役に立ちたいなっていう気持ちはありますね。新しく出会う人が増えたのも嬉しいし、そこからまた広がっていったらいいなって。

栗山:いて当たり前だったメンバーや外注さんの存在がすごく大事なことに、フリーになってあらためて気づきました。全部自分で決めていかないといけない仕事も結構あるので、ちょっとしたことを気軽に相談できた仲間は大切だったなって。そういう意味では、このSTAND MAGがあって良かったって思います。

高松:それはありますね。僕も1人やったらフリーはやれてないと思う。

この場所があるからフリーランスをやれる?

高松:そうですね、ここがなかったら、全然関係ないことをしてたかもしれない。

和島:麻婆豆腐屋になってたかもしれへんね。

高松:そこまで勇気ないです(笑)。でもやっぱり『カジカジ』のつながりのおかげですね。いきなりこんなおっさんがフリーランスになっても、仕事なんていただけないですから。

この場所自体が「媒体」。立体的な場を持つことで得た、紙の編集では実感できなかったもの。
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Profile

STAND MAG

中崎町を拠点に編集活動を行う、元『カジカジ』編集部を中心としたクリエイタークルー。フリーディレクター・エディター・ライターとして活躍しながら、ヘア、納豆、古着、麻婆豆腐など各々の「好き」をさまざまなカタチで発信中。2022年1月には、中崎町を1冊まるごと特集した『NAKAZAKI ACT』を3000部限定で発行。拠点とするアパートメントに併設するはギャラリースペースでは、多様なイベントも展開。

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