世界で賞賛されるデザインと音色。大阪発のシンバルメーカー<emjmod>の延命寺さんがずっと大事にしてきた、自分の中にあるものの純度を高め続けること。


ドラム界の錚々たる職人たちを前にして、僕が昔からしてた加工とはゆえ、「シンバルに穴を空けまーす!」なんて絶対に言われへん(笑)。なんとか同じ土俵で話すために作ったのが、<emjmod>設立のきっかけにもなったマルチトーンシンバルでした。

27歳頃から自身の名前を広めるために動き続けてたわけですが、その中で転機になったような出会いはありましたか?

八尾出身の偉大なドラマー・秋山タカヒコさんですね。プロドラマーとして数々の有名アーティストのバックバンドなどで活躍されてる方で、八尾のコミュニティラジオでパーソナリティを務めることになり、帰阪時にはドラムセミナーも開催するって情報を聞きつけまして。これはもう行くしかないなと!1回目のセミナーゲストはクラムボンの伊藤さんで、ソッコー予約したんですよ。でも、当日に時間を間違えて行けなくなってしまって…。

マジですか!?もったいない…。

はい、そんな自分を許せなかった……。貴重な予約枠だったので、スルーされるかもしれないけど謝罪のメールは送っておいたんです。そして、toeの柏倉さんがゲストの2回目の時に、秋山さんご本人と遂に対面することができました。初めて間近で聴いた秋山さんのドラムは、今まで自分が聴いてきたドラマーの中で段違いにすごくて。ずっと師匠的な人を探してたから、「この人しかいない!」と思い、セミナー終わりに話しかけたんですよ。「延命寺という者ですが、前回欠席してしまいすみませんでした」って。

秋山さんはどんな反応を?

覚えてくれてたんですよ!「珍しい名前だし、すぐわかったよ」って。もうテンション上がってしまい、思わずその場でドラムレッスンを直談判。ラジオ収録で帰阪するタイミングに合わせて、月1回教えてもらえることになりました。しかもちょっと確信犯的な話にはなるんですが、レッスンは秋山さんの空いてる時間の一番最後に入れさせてもらい、その流れでごはんも一緒に行けるようにしてたんです(笑)

それは立派な戦略ですね、仲を深めるためにも。

レッスンしてもらえるだけでもありがたい話なのに、一緒にごはんも食べながら話せるなんて、本当に貴重すぎました。いろいろ話してた中で、穴の空いたシンバルが割れて使えなくなったという会話になったので、「僕、直せますよ!直しましょうか?」と答えたら、「えっ!延命寺君、直せるの!?」と、秋山さんも驚いた様子で。ドラマーの人は意外と割れたらおしまいと思ってるから、次のレッスンの時にインパクトドライバーと工具を持参し、その場で秋山さんのシンバルを直したんです。

じゃぁ、秋山さんはさらに驚いたんじゃないですか?

かなりびっくりしてましたね。その時、秋山さんが何かひらめいた様子で、「延命寺君、シンバルの穴空けショーをやってくれへん?」と言ってきたんです。

何ですか、それ(笑)!?そんな言葉、初めて聞きました。

いや僕も同感でしたが、秋山さんは秋山会というドラマーのオフ会をしてて、それをイベント化しようと考えてたみたいなんです。その中のコンテンツとして、「みんなの前でシンバルに穴を空けるショーをしたらおもしろいと思うねん」と言われて。僕ができることなら何でもやりますって感じだったので、「はい!やります!」って即答しました。

で、実際にシンバル穴空けショーはどんな感じだったんですか?

秋山会のイベントにはtoeの柏倉さんやACIDMANの浦山さん、People In The Boxの山口さんなど、オルタナ系の錚々たる方々が集まってました。そんな中に僕がいていいんですか?状態でしたが、アシスタント兼弟子扱いで参加させてもらってたんです。そしてイベントの途中で、「大阪から来た延命寺君のシンバル穴空けショーです!」みたいな感じで始まり、穴を空けるパフォーマンスをして、その流れで錚々たる方々とドラムセッションさせてもらいました。

すごい展開ですね。

僕のパフォーマンスというか、シンバルに穴を空ける行為にも皆さんが興味を持っていただき、以来、年に2〜3回あった秋山会のイベントには毎回出させてもらうようになりましたね。そのおかげでプロドラマーの方々との繋がりがすごく広がったんです。

着々と延命寺という名前は広まっていってたんですね。

まぁ少しずつですけどね。そうやって繋がりが広がる中で、横山和明さんというジャズドラマーと出会い、僕はロックドラマーだけどめちゃくちゃ仲良くなったんですよ。一緒に楽器屋さんに行ってワー!キャー!と盛り上がったり、僕のドラムのイベントにも出てもらうような関係になっていきました。そんな横山さんを通じて仲良くなったのが、ドラマーやドラム講師を務める一方、シンバルのDIYなどにも取り組んでる山村牧人さんでした。専門誌で特集とかも組まれるような方なんですが、ある日、山村さんからメッセージが届いたんですよ。「シンバルのイベントに出ませんか?」って。読んでいくと、出演するのは、日本唯一のシンバルメーカー・KOIDE CYMBALSの小出さん、シンバル職人の山本学さん(現在は世界最大規模のシンバルメーカー・ジルジャンに所属)、そして山村さんという錚々たる面々で…。

繋がりが新たな繋がりを生み、ご縁が連鎖していく状態!

めちゃくちゃ光栄ですが、僕なんかはシンバルに穴を開けて加工したり、独学で修理してただけですからね。それでも山村さんからは「ぜひに!」とお誘いいただいたので、参加することを決心したんです。

どんなイベントだったんですか?

シンバルカフェという名で、シンバルを作ってる小出さんと山本さん、改造してる山村さんと僕で、いろんな観点からシンバルを語り合うイベントでした。しかも東京と大阪の2会場で開催するので、これはちゃんと準備して挑まないとなヤバいなと。「穴を空けまーす!」「割れても削ったら使えるようになりますよー!」なんて、絶対言われへんなと(笑)。だから、必死こいてシンバルを切り刻みながら自分の頭の中にあるアイデアをカタチにしていきました。その時に作った1つが、現在アメリカで特許申請中のマルチトーンシンバルなんです。

こちらがマルチトーンシンバル。普通は思いつかないような独創的なデザインです。

延命寺さんと言えば、<emjmod>と言えばのシンバルですね!かなり追い込まれた中での製作だったんでしょうが、あの形状はどう着想したんですか?

端まで切り刻んだらどうなるかと思ったのが、始まりですね。ディスクグラインダーでシンバルを切り込みながら試行錯誤を重ね、均一化された音色にならず、しかもキレイに音が広がり、形状も見たことがない仕様。このマルチトーンシンバルが完成した時は、「これなら戦えるんじゃないか!同じ土俵で話せるんじゃないか!」と思いました。

皆さんの反応は?

マルチトーンシンバルをはじめ、気の狂ったようなシンバルばかりを僕は並べてたので(笑)、最初の反応はみんなが「何ですか、これ!?」って感じでした。小出さんにも「何じゃこりゃー、おもしろいことしてるやん!」と言っていただけましたし、普通のシンバルじゃないことが、受け入れられたのかと思います。

シンバルメーカーとしての第一歩を踏み出した感じですね!

僕自身はシンバルメーカーをしたいなんて、全然思ったこともなかったんですよ。あくまでもイベント用に作っただけだったし、どちらかと言えば音楽活動におけるシンバルの在り方に悩んでる時期でもあったので。

どんな悩みがあったんですか?

ベーシストのKIHIRAと僕で2017年頃からバンドを組んでて、メンバーの脱退とかいろいろあって現在はTIGER&DRAGONという2ピースのインストバンドで活動してるんですよ。KIHIRAはその昔、僕が組んでたバンドのボーカルを引き抜きにきたヤツでね、どういう因果か今は一緒に音楽やってるんですが、とにかく出す音がえげつなくて。ベースからケーブルを2本に分けてギターアンプとベースアンプに繋ぎ、ギターアンプにはエフェクターをいっぱいかけてるから、ベースの音がしなくて、音の帯域がめちゃくちゃ広い。僕が使いたい落ち着いた音色のシンバルだと、一瞬でかき消されてしまう。そんな悩みもあったし、イベントを通じて小出さんとも仲良くなれたので、自分のシンバルを作りたい想いがあったんです…。

 

それで、小出さんに弟子入りを志願した?(笑)

はい、ご縁は生かしてこそなんで(笑)。「時間がある時においでよ!」と言っていただけたので、2019年頃から小出さんの元でシンバル製作を本格的に学び始めました。いろいろ教えていただき、僕的には小出さんの元で学ばせていただけたから、シンバルのプロデュースもできるなと目論んでたんですよ。例えば、KOIDE CYMBALSの延命寺モデルとか。で、その想いを伝えてみたんですが、国内流通は大人の事情でなかなか難しいとなり、ワンオフ(オーダーメイド)ではなく製品化したもので、なおかつアメリカでの販売なら可能ということでした。じゃぁ、「その方向でやりましょー!」と言うと、小出さんからはまさかの言葉が。

延命寺さんが<KOIDE CYMBALS>で修業していた時に作ったもの。こちらはアメリカで販売されていたそうです(現在は販売終了)。

えっ!何て言われたんですか!?

「延命寺君、自分でやり!シンバルはもう作れるし、変わった音を鳴らすし、うちとは違うから自分でやった方がいいよ」って。

小出さんにそこまで言っていただけるのもうれしい限りですし、延命寺さんのことを認めてた証ですね。

全くもって予期してなかった展開ですが、「師匠がそうおっしゃるなら、やります!」と、覚悟を決めました。そして2020年に独立して、シンバルメーカーを立ち上げることになったんです。

これからもやりたいことは山のようにあるんですよ。フジロックにも出たいし、シンバルの生産量も増やしたいし、お世話になった人に恩返しもしたいし、ガンダムとコラボもしたい。でも、一番大事なのは、自分の中にあるものの純度を高め続けていくこと。
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Profile

延命寺 a.k.a emj

1985年岸和田市生まれ。大阪を拠点に活動するアーティスト・ドラマーであり、2020年よりシンバルメーカー<emjmod>を主宰。その独創的なデザインと音色を持ったシンバルは、国内外の多くのアーティストに愛用されている。自身が所有してきたシンバルはゆうに1000枚を越え、日々新たなデザインと音色を追求中。シンバル製作の一方、ベースとドラムだけで構成された2ピースのインストバンド「TIGER&DRAGON」や「Auver Ride」「THE BODY」などでの活動をはじめ、アーティストのサポートやドラム講師も行う。趣味はガンプラ作り。

https://www.emjmod.com/

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