ポップなドーナツの裏に秘められた求道心。人との縁をエネルギーに疾走を続けるshe she delivery・音々さんが夢見る未来。
いつか店を構えるときには、ライバルであるパパに工事をお願いするつもりです。

音々さんにとって、大阪はどんな街ですか?
高校を卒業して進学する際、大阪を選んで本当によかったと感じていますが、いちばん大きな理由は、人の温かさですね。これまでお話した通り、いろんな人とのつながりがあって、今のshe she deliveryの姿があります。みんな人当たりが良くて、相手のことを自分のことのように考えてくれる。この距離の近さが、私には合っているなと感じています。それから、人を紹介し合う文化にも助けられています。カフェやショップのオーナーさん、スタッフさんが「音々ちゃん、この子知ってる?」って引き合わせてくれるので、活動の幅やコミュニティが広がっていきました。特に今住んでいるエリアは、近くに知り合いのお店がたくさんあるので、頑張っている人が身近にいるのも刺激的ですね。
そんな周囲の人から刺激を受けるのは、どのような場面ですか?
身近な人が、表では見せない努力を積み重ねていると知った瞬間ですかね。例えば、『kamulapar』という屋号でお弁当のデリバリーをしている友人がいるのですが、彼と知り合ったのは、コーヒーショップに置いてあったフライヤーを見て注文したのが始まり。味はめちゃくちゃおいしいし、インスタを覗いてみると、本当にお弁当のことしか載っていません。その後、話をするようになってから「実はこんなオーダーを受けて、応えるためにこんな工夫をしてる」みたいなことを教えてもらって。いくらでも自分を盛って見せられる時代に、リアルな場所で着実に動いている姿を見て「自分ももっとやらなきゃ」と思わされました。

お店で働きながら、she she deliveryとして活動して、DJであり、さらに気になる人には会いに行って……と一貫してフットワークが軽い印象を受けました。
自分では、フットワークが軽いとは思っていないんです。占いでも「頭に計算機が入ってる」と言われるくらい、すごく慎重に考えるタイプなので(笑)。あと、イベントに出るときも自分から「遊びに来て」と言えないんですよね。もともと人見知りで、人を誘うのも恥ずかしいんです。本音では「めっちゃ来てほしい」と思っているのですが……。直接口に出すのではなく、作っているものや活動の結果で、自分を試すつもりでやろうと決めました。
計算機、人見知りとは、少し意外な言葉でした。では、やる・やらないを決める基準のようなものはありますか?
どの活動にも共通するのは、迷いがないかどうか、ですかね。中途半端なことが嫌いなので、自分がちょっとでも迷った仕事はやりません。やるなら100パーセント本気で取り組めるものだけ、と決めています。このあたりは、パパの教えや剣道の影響かもしれません(笑)。それと少し似ていますが、目の前のことが義務になっていないか、にも注意しています。最初は声をかけてもらったことを何でもやっていましたが、忙しすぎると「やりたい」が「やらなきゃいけない」に変わってしまうことに気づきました。作品を良い状態で届けるために、自分のペースでできる範囲を守っています。ベースにあるのは「自分は代わりが利かない存在」という想いです。普段働いているピザショップの仕事も、ドーナツのポップアップも、求められる役割を全うするには、まず体調管理が大事。最高の準備ができるかどうかを考えて、スケジュールを立てています。その上で、本当に行きたい場所か、会いたい人かを判断して動いている感覚ですね。


自分自身を大切にすることで周りも幸せにできる、と。コラボ相手なども大きな要素だと思いますが、she she deliveryとして意思決定をするときに大切にしていることは何ですか?
やっぱりブランドイメージを崩さないことですね。例えば、夜のイベントに誘われても出店をお断りする場合もありますし。時間帯はあくまでひとつの例ですが、自分の出したいものと、その場所の雰囲気が合っているかどうか、そこに本当にドーナツが必要かどうかをまず考えるようにしているんです。だからこそ、オーダーをいただいたときは、相手の要望をしっかり聞きつつ、こちらの提案も織り交ぜて、お互いの想いが詰まったものを作りたい!大きなお店に頼むのとは違って、私だからこそできる自由度の高さと、相手の期待を超える満足感を提供できるかどうかにこだわっています。


最後に、これから挑戦したいことや目標を教えてください。
大きな目標は、30歳までにお店を出すことです。それまでに、ニューヨークなどに出かけて本場の空気をもっと肌で感じたいし、味だけじゃなく経営についてももっと勉強して、しっかり準備をしてから起業したいと考えています。ドーナツにフォーカスするなら、次の日も食感やおいしさをもっともっとキープできる生地を作れるようになりたい。より多くの人に、最高の状態で届けるための改良を続けていきたいと思っています。また、ドーナツを軸にしながら、フォカッチャや焼き菓子なども少しずつ出していきたいなと。そして……これは私にとって一番大切な目標かもしれませんが、ライバルであるパパと仕事することです。


厳しかったお父さんがライバルですか! その心は?
パパは自営業で設備屋さんをしていて、商売人として既に成功しています。今では私もそのすごさがよく分かります。だからこそ、同じ商売の世界に生きる人間として、パパに負けてられないという思いが強くて(笑)。ライバルと言っているのは、いつかプロとして仕事で向き合いたいからでもあります。自分のお店を持つときには、設備のスペシャリストであるパパに工事を依頼したい。そのときまでに「こいつは一人前だな!」と納得するくらいの実力をつけたいと思っています。
<音々さんのお気に入りスポット>
34.6704621_135.4915567(大阪市西区南堀江2)
タイラさんが営む、店名のないコーヒーショップ。もちろんコーヒーはおいしいのですが、タイラさんやそこに集まる人たちに会いに行く、という感覚に近いですね。ツダくんとイベントを開かせてもらったり、『kamulapar』の方と出会ったりと、she she deliveryを語る上で外せないお店です。
ISANDLA(大阪市中央区博労町3)
好きだった音楽がもっと好きになった場所です。行くといつも長居してしまいます。オーナーのIKKEIさんは音楽に詳しいだけでなく、私たちの悩みや考えに真剣に向き合ってくれて、そのスタンスから学ぶことがたくさんあります。これからも背中を追いかけていきたい、尊敬する先輩です!

音々
石川出身。調理系の専門学校に進学するのを機に大阪へ。2023年に一度帰郷するも、再び拠点を大阪に移し、she she deliveryの活動をスタート。谷町4丁目のピザショップ『Henry’s PIZZA』や新町の古着店『beeens』に勤務しながら、ポップアップ出店やオーダー受注をこなす。世界観を投影したアパレルやステッカーなども人気。
Instagram: @__sheshe___
Instagram: @sheshedelivery