ポップなドーナツの裏に秘められた求道心。人との縁をエネルギーに疾走を続けるshe she delivery・音々さんが夢見る未来。
一度地元に帰ったのですが、1週間後にはもう「大阪に戻ろう」って(笑)

今や引っぱりだこのshe she deliveryですが、プロジェクトを始めたきっかけが気になります。そもそもなぜドーナツだったんですか?
実は「やろう」と思って始めたわけではなくて……。
どういうことですか?
調理・製菓の専門学校に進学するために石川から大阪に出てきて、卒業後少しだけ働いたのですが、地元に戻ることにしたんです。ただ、せっかく友だちもできたので「帰る前に何かやりたいな」と、イベントでドーナツを出すことにしました。当時働いていたお店は、ヴィーガン向けのケーキやドーナツを作っていて、そこのドーナツが大好きだったので。私自身はヴィーガンじゃないけれど「作り方は分かっているし、自分が食べたいと思うドーナツを作ってみよう」と思い立ったのが始まりでした。ドーナツを専門で作っている人が周りにいなかったのも、選んだ理由のひとつです。イベントには予想を上回る人が来てくれて、ドーナツもすごく好評でした。
お別れパーティーのような感じだったんですね。その後は石川に帰られたんですか?
はい。でも、1カ月半くらいで大阪に戻ってきて(笑)

急展開すぎます!(笑)
ワーキングホリデーに行く資金を貯めようと思ったのですが、やっぱり大阪が恋しくて……それに「お金も大阪で貯めたらいいじゃん」って(笑)。帰った1週間後には「戻ろう」と決めていました。そんなタイミングで、帰る前のイベントに来てくれた友だちが、大阪でイベントをやるからと出店に誘ってくれて。最初で最後だと思っていたことが、すぐにつながって、今も続いているという感じです。彼女が働いている『CopyArt Collective』のOrangさんも、何者でもなかった自分に声をかけてくれたことがうれしかったですね。結局、石川に帰って貯めたお金は引越しでほとんど使い果たしてしまいましたが、それくらい想いは強かったし、結果、間違っていなかったと思います。
実家のご家族はびっくりされなかったですか?
幼いころから厳しい家庭で、そのときも両親は「絶対ダメ!」という感じでしたが、「もう部屋も契約したから」と押し切りました(笑)


すごい決断力と行動力ですね。昔から調理や製菓の道に進みたいと思っていたんですか?
おばあちゃんが民宿を経営していたこともあって、飲食という仕事は身近にありました。私も作ることが大好きで、幼いころの夢はパン屋さんだったんです。ターニングポイントになったのは、小学1年生のころ作ったトマトバーガー。トマトをバンズ代わりにして、卵やレタスを挟んだオリジナルのバーガーだったんですけど、パパやママが「めっちゃおいしい」って褒めてくれて。それがうれしくて、次の日もしつこいくらい作って食べさせてました。その年の誕生日に、ママがお菓子作りの道具を詰め合わせたボックスをプレゼントしてくれたことが、今につながる原点になっています。ただ、パパはずっと厳しかったですね。
専門学校に進みたいと伝えたときは、反対されませんでしたか?
そうですね、パパは本当に怖い人で。妹にはめっちゃ甘いのに!(笑) 私には、公務員のような堅い仕事に就いてほしいと思っていたみたいで、なかなか言い出せませんでした。最終的には、納得していなさそうな状態のままでしたが「大阪に出る!」って自分で決めました。

2回目も押し切ってしまったと(笑)。「厳しい」と言いつつ、一度決めたら有無を言わせない芯の強さがありますよね。ご自身では、それはなぜだと思いますか?
厳しく指導されたからこそ「大人になったら、やりたいことをしなくちゃ」という気持ちが強いのかもしれません。小学生のころ半ば強制的に剣道を始めさせられて、道場から帰っても家で厳しい稽古、という日々でした。そのおかげで県の強化選手に選ばれたり、全国大会に出場できるほどになりましたが、パパに剣道で褒められたことは一度もなかったですね。部活をやり終えて「これからは自分の選んだことに打ち込むんだ」と思うようになりました。
お父さんとしても、それまでの努力を見てきたからこそ“折れた”のかもしれませんね。今は応援してくれていますか?
完全にではないですが、少しは認めてくれているみたいです。一度石川に帰ったときに、私が作ったドーナツを食べてもらったのですが「まあ、いけるやん」って(笑)。パパなりの言葉で、活動を認めてくれたんだなと感じました。

音々
石川出身。調理系の専門学校に進学するのを機に大阪へ。2023年に一度帰郷するも、再び拠点を大阪に移し、she she deliveryの活動をスタート。谷町4丁目のピザショップ『Henry’s PIZZA』や新町の古着店『beeens』に勤務しながら、ポップアップ出店やオーダー受注をこなす。世界観を投影したアパレルやステッカーなども人気。
Instagram: @__sheshe___
Instagram: @sheshedelivery