「元銭湯」はオマケ。『上方ビール』志方昂司さんが本当に伝えたいのは、クラフトビールの無限の可能性。
『上方ビール』を観光の定番コースにしたいんです。ここまで来たら、商店街もありますし。

志方さんご自身は、どんなスタイルのビールがお好きなんですか?
僕はIPAのパンチの強さに圧倒されてクラフトビールにハマったんですけど、作り続けるうちに変化があって、今はセゾンに注目してます。セゾンは「こたつ会議」でも出したビールで、すごく食事に合わせやすいんです。大手メーカーさんのビールはどれも美味しいんですけど、口の中をリセットする感じなんですよ。料理と合わせてどちらも高め合うって感じとは、ちょっと違うなっていうのがあって。
たしかに 、ビールを料理に合わせるっていう感覚がないですよね。
例えば有名なお寿司屋さんでも、星付きのイタリアンでも、どっちもスーパードライが出てくるじゃないですか。それってどうなんかなっていうのがずっとあるんです。もともと飲食をやってたこともあって、料理とのペアリングはずっと意識していて、その点でもセゾンはすごく面白いなと思ってます。セゾンをレギュラーで造ってるところは少ないんですけど、これからはどこのブルワリーにもあるくらいになればいいなと思ってます。
この前の「こたつ会議」でセゾンを初めて知りましたが、すごく飲みやすくて、美味しかったです。
セゾンはアルコール度数が3~4%くらいで、農作業の合間に水分補給と栄養補給を兼ねて1日に4~5リットル飲まれていたようなビールなんですよ。

そうした背景を知ると、味わいの感じ方も変わりそうです。飲食店での経験は、ビール造りに生きている部分もありますか?
味の引き出しは多いと思います。新しい麦芽を使うときは、醸造の前にまず食べるんです。麦芽を食べてみて、ビールになったときの味を予測しながら造るんですけど、その予測は飲食時代に自分で作ったり食べ歩いたりした経験が役立ちますね。
これまで作ってきた中で、変わった素材ってどんなものがありました?
ポポーですね。
ポポー?
最近出てきたフルーツなんですけど、それを広めるためにビールにしてPRしたいという依頼があって。何これ!?と思ったんですけど、味自体はそんなにファンキーじゃなくて。ドリアンみたいな南国系の甘い味で、いい感じのビールになりました。

ポポーはうまくビールになったんですね。逆に、ビールにしにくいものってあるんですか?
イチゴやキウイって、一見ビールと相性が良さそうなんですけど、実はすごく使いにくいんです。ほぼ水分で味の成分が少ないから。例えば、レモンとイチゴを1キロずつ入れた場合、レモンは味も香りも出るけど、イチゴは探さないとわからないぐらい。
ということは、量をたくさん使わないといけない?
ただしビールの場合、副原料は麦芽重量の5%までと決まっているんです。例えば麦芽100キロなら、副原料は最大5キロ。そこに水分量80%みたいなフルーツを入れても、ほとんど味が表現できない。しかも加工品は使えないので、イチゴジャムのような濃縮素材もNGなんです。
そんな制限の中で味を出すってなかなか大変ですね…。予想外に美味しくできたものって、あったりします?
蜂蜜って、ミードっていう蜂蜜だけで作るお酒の原料にもなるくらいなので、ビールにも合わせてみたいという相談があったんです。ただ、蜂蜜はほとんどが糖分なので、ビール酵母がその糖を全部食べてしまって、蜂蜜らしさは残らないだろうなと思ってたんです。でも依頼してくれた養蜂家さんから「2種類の蜂蜜を使ってみてほしい」と言われて、仕込みをAとBの2つに分けて、それぞれ違う蜂蜜を入れてみたんです。そしたら驚いたことに、その蜂蜜の花の特徴がちゃんとビールに出たんですよ。香りも、奥にあるコクも全然違ってて、蜂蜜ってこんなに個性強いんや!って驚きましたね。

聞けば聞くほど、ビールって面白過ぎますね。志方さんはまだまだビールを造り続けていかれるんですよね?
だいたいブルワリーのオーナーって、軌道に乗ったら現場から離れて社長業に専念することが多いんですよ。でも僕は、それをしたくなくて。現場で造るのが楽しいし、そこが自分の根っこにあるので、どうしても手放したくないんです。
熱い現場愛が伝わってきます。では最後に、これからチャレンジしたいことを教えてください。
グランフロント大阪の『酒のレパード』をしっかり軌道に乗せたいというのがひとつ。それと、コロナも落ち着いてきたので、ここをもっと大阪の観光スポットとして育てたいと思ってます。新大阪って、大阪の玄関口のわりに、駅の外に出ると本当に何もないじゃないですか。ちょっと外に出た瞬間に一気に静かになるというか。だから、多少距離はありますけど、タクシーでワンメーターくらいですし、ここを観光の定番コースにしたいんです。ここまで来たら、商店街もありますし。
たしかに、このあたり一帯がセットで楽しめるエリアになったらいいですよね。
商店街も含めて、街全体がもっと盛り上がって、「なんかおもろいな」って思ってもらえるエリアになればいいなと思ってます。
<志方さんのお気に入りスポット>
昭和湯(大阪市東淀川区淡路4)
ブルワリーの近くにある銭湯。仕込みで汗だくになったら昭和湯に行ってさっぱりして、夜の会食とか打ち合わせに向かいます。
灘温泉 水道筋店(神戸市灘区水道筋1)
自宅の近くにあって、子どもを連れてよく行きます。神戸市は親子で入浴すると、子どもの分が無料になるんです。
泉南ロングパーク近くの釣りスポット(大阪府泉南市)
毎年出店する海の家の近くは、海釣りのメッカ。夏は1ヵ月毎日いるので、釣り好きの野球選手とよく遭遇します。

志方 昂司
神戸市出身。高校時代のマクドナルドでのアルバイトをきっかけに飲食業に携わり、24歳で神戸市灘区に立ち飲み店をオープン。その後、三ノ宮に2店舗、大阪に1店舗を展開。ワインや日本酒と比べてビールの選択肢が少ないことに違和感を抱き、一年間の修行を経て『上方ビール』を創業。オリジナルビールは同じレシピを二度と登場させないポリシーで、飲食店や企業のOEM・ODM受注も手掛ける。趣味は釣りで、毎年夏は泉南市のビーチに海の家を出店しながら海釣りを楽しむ。

酒のレパード
大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館2階(SpringX)
営業時間: 17:00~22:00
水曜は通常営業無し ※イベントのみ→対流ポッド(当日参加OK) 19:00~21:00
※完全キャッシュレスです。現金は使えません
前出 明弘
