「元銭湯」はオマケ。『上方ビール』志方昂司さんが本当に伝えたいのは、クラフトビールの無限の可能性。


銭湯時代を知ってる人は懐かしがってくれますね。本当に当時のままなので、「私ここのロッカー使ってた」とか。

コロナ禍は、お酒を出しづらい状況が続いた時期でしたよね。

立ち上げてすぐ色んなメディアに取り上げてもらったのに、その効果を実感できないまま、コロナ禍になってしまって。でも先輩ブルワリーの『ディレイラブリューワークス』が周年のビールを造らせてくれたり、『京都ビアラボ』が茶ビールの製造を依頼してくれたり、助けてもらったおかげでなんとか生き残れました。

コロナが明けてからは、状況はどう変わりましたか?

明けた頃には開業から3~4年経ってて、うちの鮮度はもう落ちてたんですよ。オープン当初そこそこ露出があったために、中途半端に老舗みたいな感じになってしまって(笑)。しかもコロナで助成金が出てたせいか、新興ブルワリーがすごく増えてたので、他と同じことをしてたらあかんなと。だからうちは、クラフトビールのイベントには出ないんですよ。他のブルワリーが出ないような、例えば森道市場とかに出店させてもらって。既存ブルワリーが取るべき戦略を学んだうえで、違うことをするっていう選択ですね。

新しいブルワリーが増えたのは、それだけ需要があるということでしょうか?

国内の市場規模でいうと、全然伸びてないんです。ビールの売り上げのうち98.5%はアサヒやキリンなどのメーカーで、残り1.5%をクラフトビール1,000社で分けてる状態で。

でもそういう中では、銭湯ブルワリーっていうのは強みになるのでは?

面白がってくれるお客さんは多いですね。色々なメディアに出させてもらったおかげで、幅広い年代の方が来てくれます。SNSを見た若い人とか、外国の人も多いですね。

外国の方だと、銭湯のロケーションも面白がってくれそうですね。

それが、そうでもなくて(笑)。銭湯のレトロさが刺さるのは“その感性がある人だけ”ですね。ヨーロッパの人は全然ピンと来ないみたいです。アメリカの人は、子どもからお年寄りまで裸で一緒に風呂に入るなんて!みたいな感じで嫌がる人もいますからね。

文化が違うと、そんな感じなんですね。意外でした。地元の人はどんな反応なんですか?

通ってた銭湯が潰れた寂しさみたいなものはあったみたいで、銭湯時代を知ってる人は懐かしがってくれますね。本当に当時のままなので、「私ここのロッカー使ってた」とか。銭湯のオーナーさんもよく飲みに来て、今もお中元とかに使ってくださってます。

ご自身も、銭湯やサウナがお好きなんですよね?

好きですね。自宅がある神戸でも行きますし、この近所にある昭和湯もよく行きます。仕込みをやって、汗をかいたら昭和湯に行って。ブルワリーだけど浴場組合にも誘ってもらってます。

まさに、導かれるべくして、この場所に来たって感じですね。銭湯が好きになったのには、何かきっかけがあったんですか?

僕は神戸出身ですけど、小学生のときに阪神・淡路大震災があって。家が阪神高速が倒れた場所のすぐ近くで、とても住める状態じゃなかったんです。それで家族で、吹田にいる親戚の家に避難しました。

そうだったんですね。当時は本当に大変な状況でしたよね。

今はもう神戸市に戻ってるんですが、神戸市は親子で銭湯を利用すると子どもが無料になるんですよ。阪神・淡路大震災のとき、一部の銭湯が無料開放してくれたんです。ああいう災害時にお風呂に入れるって、精神的にも本当に救いになるじゃないですか。だから「子どものうちから銭湯に抵抗をなくそう」ということで、神戸市は子ども無料の取り組みを続けているんです。

なるほど、そんな背景があったんですね。志方さんはこちらの銭湯が営業しているときに、来られたことはありました?

それが、なかったんですよ。御幸温泉っていう名前だったんですけど、いい銭湯だったんだろうなと思いますね。

元男湯を醸造所にされてるんですよね?床を補強したりとかされたんですか?

いやいや、そのままなんです。コンクリートをめくったら当時の基礎が出てきて。銭湯って大量のお湯を扱うので、床下の構造がめちゃくちゃ丈夫なんです。ここはもともとお湯を溜める巨大なタンクが床下にあったんですよ。その設備が残っていたので、強度は十分。普通の物件よりもはるかに頑丈です。

じゃあ、ブルワリーにするには理想的な条件だったわけですね。

そうですね。構造的にはすごく相性のいい建物でしたし、実際めちゃくちゃ使いやすいです。サウナ室は、原料の麦芽を粉砕する機械を置いてます。粉がどうしても舞うので、サウナ室がちょうどいいんです。本来なら麦芽粉砕室は新たに作らないといけないので、ここは本当に元手がかかってないです。

ここで毎回色々なビールが造られてるわけですね。

今までに造ったビールはだいたい400種類くらいあるんですけど、全部違う名前を付けてるんです。銭湯やお風呂にちなんだ名前にするという縛りを作ってて、銭湯エールとか温泉エールみたいにしてるんですけど、どんどん名前のネタが苦しくなっていくんですよね(笑)。

提供されるのも、牛乳瓶みたいなボトルですよね?

あれで出すと、皆さん腰に手を当てて飲みますね。

『上方ビール』を観光の定番コースにしたいんです。ここまで来たら、商店街もありますし。
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Profile

志方 昂司

神戸市出身。高校時代のマクドナルドでのアルバイトをきっかけに飲食業に携わり、24歳で神戸市灘区に立ち飲み店をオープン。その後、三ノ宮に2店舗、大阪に1店舗を展開。ワインや日本酒と比べてビールの選択肢が少ないことに違和感を抱き、一年間の修行を経て『上方ビール』を創業。オリジナルビールは同じレシピを二度と登場させないポリシーで、飲食店や企業のOEM・ODM受注も手掛ける。趣味は釣りで、毎年夏は泉南市のビーチに海の家を出店しながら海釣りを楽しむ。

Shop Data

上方ビール

大阪市東淀川区西淡路3-15-6

直売所(タップルーム): 土日14:00~19:00(L.O 18:30)
※祝日は土日にかぶればオープン

Shop Data

酒のレパード

大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館2階(SpringX)

営業時間: 17:00~22:00
水曜は通常営業無し ※イベントのみ→対流ポッド(当日参加OK) 19:00~21:00
※完全キャッシュレスです。現金は使えません

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