「元銭湯」はオマケ。『上方ビール』志方昂司さんが本当に伝えたいのは、クラフトビールの無限の可能性。
師匠のトムがよく「造ってるやつが面白くないのに、美味いビールなんかできるわけない」って言ってたんですよ。

ここからは『上方ビール』にお邪魔してのインタビューになりますが、中は想像以上に銭湯そのままですね!銭湯×ブルワリーってすごくいい組み合わせだなと思うんですが、でもこれは狙ってではないんですよね?
理想とするビールを造れる条件で探していたら、たまたまここが見つかったっていうだけで。ただ、僕も銭湯好きなので、これをそのまま残そうっていうのは思ってました。でも場所の面白さ以上に、どこもやってなかったビールのOEMサービスを全面に打ち出すほうが自分としては大事でしたね。
ビールのOEMってあんまり世の中にないサービスじゃないですか。開業されてすぐオーダーってありました?
ありがたいことに、日本初の銭湯をリノベーションしたビール工場っていうので、よくテレビに取り上げてもらってたんですけど、その時も僕は必ずOEMサービスも告知させてもらってたんです。そしたら、テレビを見た人からけっこう連絡をいただけて。

やっぱり、世の中にはそういう需要があったんですね。
でも、最初から需要を見込んでブルーオーシャンだと思ってたわけでなくて。ビールの選択肢の少なさへの違和感から始めたら、思わぬ反響があったっていう感じですね。
飲食からビール造りへと方向転換するのは、大きな決断だったのではないかと思うのですが。
実は決断してないんですよ。最初は自分で造ったビールを、自分の店で売ろうと思ってたんです。でも、そんなに甘くなかったんですよ。一年間京都の『ビアラボ』で修行をさせてもらったんですが、ブルワリーの法人を設立しながら飲食店経営をするのが難しくて。
本当は飲食店と平行してされるつもりだったんですね。
お酒やから、飲食とちょっと近いのかなと思ってたんですけど、酒税もありますし、免許の種類もややこしくて。取得要件を見てるときは4ヵ月ぐらいでいけるかなと思ってたんですけど、全然無理でした。

修行先に、『京都ビアラボ』さんを選んだのはどんな理由からですか?
その当時は、研修を受けさせてくれるところがなくて、修行できるところを探すのも大変で。自分の店に来てくれたお客さんに、ブルワリー始めたいんですよっていう話をしてたら、常連さんが相撲観戦に誘ってくれたんです。そこで紹介されたのが、『京都ビアラボ』の社長で。その場で、修行させてくださいってお願いしたら、「来てくれていいよ」って言ってくださって。
常連さんがつないでくれたご縁だったんですね。
『京都ビアラボ』はオーナーの村岸さんとオーストラリア人のトムが立ち上げた会社で、トムが僕のビールづくりの師匠です。何もしらないゼロのところから叩き込んでくれて、めっちゃ親切に教えてくれました。
そういうのって企業秘密とかではないんですか?
クラフトビールの業界はないですね。料理界だと秘伝のレシピがあったりしますけど、僕らはこんなビール作ってみたとか、こういう作り方したとか、めちゃくちゃレシピ交換するんで(笑)。

交換しちゃっても大丈夫なんですか?
大丈夫ですし、なんなら同じレシピで造っても、造り手によって差が出るんで面白いんですよ。醸造所のクセ、造る人のクセが出るんですよね。
ということは、志方さんが作ると志方さんのビールになるわけですね。一年修行されて、免許皆伝という感じだったんでしょうか?
いや、ビール造りは一生学ぶことがあるんで、修行が終わったのはここの開業準備が整ったタイミングですね。
修行の期間中は、やっぱり大変なこともありましたか?
体力的には大変でしたけど、でもずっと楽しかったですね。師匠のトムがよく「造ってるやつが面白くないのに、美味いビールなんかできるわけない」って言ってたんですよ。「ビールってだいたい明るいシーンで乾杯するやん?」って、すごい流暢な関西弁で (笑)。

それ、すごい名言ですね!
ほんまにそうで、しんどいことも「ここ踏ん張ったらいいビールができる!」っていうポジティブなマインドやったんですよ。職人って“難しい顔して樽をじっと見つめる”みたいなイメージやったんですけど、トムはこだわるところはめっちゃ細かいのに、こだわらないところはほんまに適当なんです(笑)。もし他のブルワリーで修行していたら、今みたいなスタンスにはなってなかったと思いますね。
それを聞くと、造り手によってビールの味が違うっていうのがわかるような気がします。そして修行を経て、いよいよ『上方ビール』を立ち上げられたのが2019年ですよね?
そうですね。2019年の秋に始めました。でも、その半年後ぐらいに、コロナ禍が起きるんですよ。

志方 昂司
神戸市出身。高校時代のマクドナルドでのアルバイトをきっかけに飲食業に携わり、24歳で神戸市灘区に立ち飲み店をオープン。その後、三ノ宮に2店舗、大阪に1店舗を展開。ワインや日本酒と比べてビールの選択肢が少ないことに違和感を抱き、一年間の修行を経て『上方ビール』を創業。オリジナルビールは同じレシピを二度と登場させないポリシーで、飲食店や企業のOEM・ODM受注も手掛ける。趣味は釣りで、毎年夏は泉南市のビーチに海の家を出店しながら海釣りを楽しむ。

酒のレパード
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前出 明弘
