「元銭湯」はオマケ。『上方ビール』志方昂司さんが本当に伝えたいのは、クラフトビールの無限の可能性。

元銭湯を改装したブルワリーが大阪市内にある——そんな噂を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。そう、それが東淀川区・淡路にある『上方ビール』なんです。現在も女湯の内装はほぼ当時のままで、土日はビールが飲めるタップルームとして使われています。ただ、その面白さは元銭湯というロケーションだけにあらず。「一度作ったビールはもう二度と作らない」というポリシーのもと、まさに“一期一会”の味わいを届けています。そんな『上方ビール』は2019年の開業から6周年を迎え、このほどグランフロント大阪に新店舗『酒のレパード』をオープン。そこで、代表の志方昂司さんにこれまでの歩みを振り返ってもらうとともに、ビールづくりにかける熱い想いをお聞きしました。前半は10月4日にグランフロント大阪で開催された『こたつ会議』で、後半は醸造所にお邪魔してインタビューを実施。知っているようで知らないビールの豆知識も盛りだくさんで、読んだらきっと、今すぐビールが飲みたくなるはずです。

もともとは神戸でブルワリーを立ち上げるつもりで、『神戸麦酒』という社名で起業したんです。

まずは、志方さんがブルワリーを立ち上げた経緯から教えてください。

もともと飲食店を営んでまして。小さい立ち飲み屋から始めて、韓国料理、バー、カフェと業態の違う店舗を展開するようになったんです。その中で、ビールにだけ選択肢がないなと思って。日本酒とかワインは、この料理にはこれみたいなペアリングができるじゃないですか。なぜビールにはそれがないんだろうっていう違和感があったんです。

たしかに、ワインや日本酒は銘柄から選べますけど、ビールってメーカーぐらいしか選べないですよね。

でも海外ビールにはそういう多様性があったので、海外ビールって面白いなと思って。日本でもヤッホーブルーイングさんとか、大阪なら箕面ビールさんとかがクラフトビールブームを牽引していたので、日本でもできるんやと思って。それが、ビールを造る会社を興した経緯です。

ビールの選択肢の少なさがきっかけに。

特に、当時は今ほど色々なビールが手に入る状況ではなかったから、余計にもどかしさもあって。でも、僕と同じ悩みを持ってる人がいっぱいると思ったんです。だから、飲食店や企業がオリジナルビールを作れるようなブルワリーをやりたかったんですよ。僕が作った美味しいビールを飲んでほしいという思いもありますけど、それ以上に色々な人とコラボしてビールを造って、色々な課題を解決するのが面白そうやなと思って。そこから、京都で1年間修業をして、クラフトビール造りを始めました。

「こたつ会議」オリジナルのNAMI BEER。インタビューも、こたつに入ってビールを飲みながら。 ※撮影:MARZEL

でも、なぜ銭湯だったんですか?

僕がやりたいブルワリーに必要な条件から、不動産屋さんが「ここ、いいと思います」って見つけて来てくれたのが銭湯だったんです。だから、銭湯をリノベーションしたブルワリーっていうのは後付けで。

そうなんですね!オープンされた当初からすごい話題になって、銭湯でビールってやられたなって思いました。また上方ビールっていう名前も素敵じゃないですか。

ありがとうございます。よく何代目ですかって聞かれます(笑)。もともとは神戸市の出身なので、神戸でブルワリーを立ち上げるつもりで『神戸麦酒』という社名で起業したんです。でも、見つかった物件は大阪市東淀川区で。しばらくは神戸麦酒の名前のままやってたんですけど、「ここ大阪やで」っていじられて(笑)。で、社名も変えようかなと。そのときに、この銭湯のレトロな感じと大阪の古い呼び名の上方がしっくりくるなと思って、『上方ビール』にしました。

すごくいい名前だと思います。ちなみに、今日このイベント(※こたつ会議)のオリジナルビール『NAMI BEER』には、「会話が弾けて何かが起こる」っていうキャッチコピーが入ってますが、このビールはどんなテーマで?

クラフトビールにはすごくたくさんの種類があるんですが、今回はセゾンというスタイルを採用しました。ベルギーのワロン地方という農村地帯で昔から作られてたビールで、季節労働者の人たちに振る舞われていた歴史があるんです。味もすごく好きなんですけど、そういう文化とかストーリーもこのビールの中に入っていて、そこが面白いなと思って。

すごく飲みやすくて口当たりもいいですね。『上方ビール』では同じビールは二度と作らないと伺ったんですが、その理由はどういうところから?

世の中にはこれだけ面白いビールがあることを伝えたいし、実際に色々なビールが作れることを証明したほうが説得力があるので。

めちゃめちゃロックですよね。でも、すごい人気があったやつとか、惜しくないですか?

そこはもう、断腸の思いで(笑)。

元女湯はほぼ銭湯当時のまま。土日はタップルームとして、好きな場所に座ってビールが楽しめる。

ビールってそもそも、そんなに色々な味が作れるものなんですか?

麦芽、ホップ、酵母、水が基本なんですけど、水も地域によって違いますし、麦芽は60種類、ホップも50種類、酵母も40種類くらいあって、それの掛け合わせで味の作り分けができるんです。そこに酒税法が緩和されて、フルーツや野菜、スパイス、コーヒーなども使えるようになって。他に鰹節とか昆布、牡蠣も使えます。だから、わりと無限に作れるんです。

そんなに色々作れるんですね……!

だから、同じように作り続けるのがもったいないんです。

なるほど、ここまでお話をお聞きして、志方さんがすごくかっこいい醸造家であることがよくわかったんですが、これまでの失敗談とか、やってしまった話も聞きたいなと思いまして。

僕らの業界の職業病みたいなものなんですけど、痛風の疑いが出てきました。原因不明の関節の痛みがあって、ちょっと不安ですね。でも試飲とかもあるので、基本365日飲んでます。

それは辛い……。それでも、プライベートでも飲まれるんですか?

飲みますね。コンビニで見たことないのが出てたら買っちゃうんです。それを言い訳にして飲んでるっていう。クラフトビールの会社も増えてるので、新しくできたところのはなるべく飲むようにしてます。

ちなみに、ここ(※グランフロント大阪)にも新しく『酒のレパード』をオープンされますが、どんなお店ですか?

『上方ビール』を中心に、僕の交流のある酒蔵さんやワイン会社さんとか、大阪のお酒をまるっと飲めるお店にしようと思ってます。大阪府外の人にも大阪の魅力を知ってほしいし、住んでる人にも魅力を再発見してほしいなと思ってます。

酒好きにはたまらないお店ですね。では、ここでちょっと会場の方からも質問をいただきましょうか。

(質問者)これまで作ってきたなかで、「これ失敗したなー」っていうビールはありますか?

どうしてもあかんかったのは、水ですね。お持ち込みいただいた水でビールを造ったんですけど、ものすごく塩辛くて。山で湧いた水ってことだったんですけど、海水なんじゃないかっていうぐらい塩分を含んでて、これだけはどうしても無理でしたね。

水ってそんなに影響するものなんですね。

ビールの90%以上は水なので。結局は水の味というか、そこは大きいですね。

いい質問をありがとうございました!では今日の取材はここまでということで、後日またブルワリーにお邪魔して、お話を伺いたいと思います。

師匠のトムがよく「造ってるやつが面白くないのに、美味いビールなんかできるわけない」って言ってたんですよ。
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Profile

志方 昂司

神戸市出身。高校時代のマクドナルドでのアルバイトをきっかけに飲食業に携わり、24歳で神戸市灘区に立ち飲み店をオープン。その後、三ノ宮に2店舗、大阪に1店舗を展開。ワインや日本酒と比べてビールの選択肢が少ないことに違和感を抱き、一年間の修行を経て『上方ビール』を創業。オリジナルビールは同じレシピを二度と登場させないポリシーで、飲食店や企業のOEM・ODM受注も手掛ける。趣味は釣りで、毎年夏は泉南市のビーチに海の家を出店しながら海釣りを楽しむ。

Shop Data

上方ビール

大阪市東淀川区西淡路3-15-6

直売所(タップルーム): 土日14:00~19:00(L.O 18:30)
※祝日は土日にかぶればオープン

Shop Data

酒のレパード

大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館2階(SpringX)

営業時間: 17:00~22:00
水曜は通常営業無し ※イベントのみ→対流ポッド(当日参加OK) 19:00~21:00
※完全キャッシュレスです。現金は使えません

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