「ローカルとカルチャーの交差点に」。大阪・西田辺『W&B Delicious Service』の店主・小島亮介さんが描き出すグッドフィーリングな空間。

「最近好きなカフェとかってありますか?」というざっくりとした問いかけに、「“カフェ”じゃなくて“ローカルファミリーレストラン”だけど、西田辺にいいお店があって……」という前置きのもと、名前が挙がって知った『W&B Delicious Service』。以前MARZELで取材したサインペインターの理子さんとも親しいようで、「めちゃくちゃすてきなお店です」と瞳をキラキラさせながら教えてくれたのが印象的でした。内装工事は全て自分たちで担当、音楽やアートのイベントを頻繁に開催しているにも関わらず、お客さんの層は老若男女幅広いなど、気になるポイントがたくさん出てきて、これはどんなお店か取材するしかない!と行ってきました。今回は営業中にお伺いしたのですが、ここで知り合ったというお客さん同士がカウンター席でお喋りしているかと思えば、奥のテーブル席には子ども連れのママ友たちや、PCを触ってお仕事をするおひとりさまの姿もあって、色んな人の日常に溶け込んでいる光景が見られました。お店を構える阿倍野エリアが地元だという店主・小島亮介さんは、「ここがローカルとカルチャーをつなぐ架け橋になれば」と話します。こんなお店が私の地元にもあったらなぁと心から思えた取材でした。ぜひ読んでみてください!
「街のコミュニティスポットを作りたい」とスタート。街の拠り所のような、昔ながらの喫茶店の雰囲気が好きでした。

まずは、小島さんの経歴を教えてください。
高校生の頃からずっと海外に行きたいという思いがあって。高校卒業後はフリーターをしながらお金を貯めて、20歳のから1年半ほどワーホリでカナダのバンクーバーに行っていました。現地のコーヒーショップで働いたことをきっかけに、自分でもコーヒーを淹れるようになって、帰ってきてすぐ『COZY Coffee Spot』(以下、COZY)という屋号でコーヒーの移動販売を始めました。
最初は移動販売からスタートしたんですね。
そうなんです。当時は靱公園や堀江の美容室、アパレル、飲食店などに出店していました。そこで「お店をやってみないか」と声をかけてもらい、オーナーさんに出資していただいて、もとの屋号を残しつつ帝塚山で実店舗を持たせていただいたんです。そこで6年ほど働いたのち、「やりたいことを全部叶えられる自分の店を作りたい」と思い、独立して『W&B Delicious Service』(以下、W&B)をスタートしました。

ワーホリの行き先にバンクーバーを選んだのは、何か理由があったんですか?
西海岸のスケーターカルチャーに憧れがあって。お金を稼ぎながら生活をするならバンクーバーかなというので選びました。
現地のコーヒーショップで働いたということですが、コーヒーは昔からお好きだったんですか?
両親がコーヒー好きやったのもあって、小さい頃から好きでよく飲んでいました。朝起きたら豆を挽いて、ハンドドリップを落としてからお父さんを起こしに行くのが日課でしたね。僕は3人兄弟の末っ子なんですけど、毎日変わりばんこでコーヒーを淹れていました。
すてきなご家族!小さい頃からコーヒーが身近な存在だったんですね。
コーヒーは生活の一部みたいなものでした。高校生になると、周りの友達と喫茶店に行くのにめちゃくちゃハマって。テスト勉強するにも放課後お喋りするにも、何をするにも喫茶店に行っていました。高校の近所にあった『やま』っていう喫茶店のおじちゃんとおばちゃんがすごくかわいがってくれて。夕方やのにモーニング食べさせてくれたり、友達の誕生日をお祝いしにケーキ持ち込ませてくれたり、めっちゃ良くしてくれたんです。僕らみたいな学生のお客さんが少なかったっていうのもあるんかなと。『やま』は喫茶店に通うきっかけになったお店でもありますね。その頃から純喫茶や喫茶店の雰囲気がめっちゃ好きでした。

今でこそ昭和レトロブームで純喫茶がフォーカスされることも多いけど、当時はそんな時代じゃないですもんね。
そうですね。高校生やったのもあって、ちょっとタバコの匂いがする大人っぽい空間で過ごせることが嬉しかったんやと思います。あびこの高校に通ってたんですが、あびことか天王寺界隈の喫茶店はほとんど行きました。天王寺の『スワン』の2階でよく勉強もしてました。
コーヒーだけじゃなく、喫茶店とも馴染み深い生活を送っていたと。移動販売から始めたのはどうしてですか?
移動販売やと道具さえ揃えばスタートできるし、ありがたいことに「うちの店の前でやったらええやん」って言ってくれる人も多くて。堀江の『CANDYRIM STORE』、靭公園の『SALOON』など、色々出店させてもらいました。あとは展示会やギャラリーにも結構出させてもらいましたね。
当時、同じように移動販売やポップアップをしていた方って他にもたくさんおられました?
他にはあんまりいなかったかもしれないですね。いなかったからこそ、声をかけてもらうことが多かったんかなって思います。
今でこそ増えましたが、当時は先駆け的な存在だったのかもしれませんね。『W&B』を構えた阿倍野エリアは、小島さんにとってどんな場所なんですか?
地元なんですよ。小学校の地元が今のお店で、中学校の地元が『COZY』のある帝塚山です。僕、小学校と中学校の時に“コジー”って呼ばれてて、カナダに行った時下の名前の“リョウスケ”をカナダの人が発音しにくいっていうので、“コジー”って呼んでもらっていました。それを店名に持って行ったのが『COZY Coffee Spot』です。

『W&B』を立ち上げる際、どんなお店にしたいかという目標はあったんですか?
「街のコミュニティスポットにしたい」と考えていました。昔の喫茶店って、「今日●●さん何時に来たん?」とか「●●さんあそこいってるで」という会話が常に飛び交っていて、街の情報が集まるスポットでもあったと思うんですよ。それにすごく憧れがあって、僕も色んな人がつながって、仲良くなれるようなお店をやりたいと考えていました。
話を聞きながら店内を眺めていると、まさにその言葉が体現されているように感じます。カウンターに座ってお喋りをしている方がたくさんいらっしゃいますね。
そうそう。みんなここで仲良くなってくれた方たちです。1番上だと80歳くらいのおじいちゃんの常連さんもいますね。

気になっていたんですが、“ローカルファミリーレストラン”というコンセプトにしたのはどうしてですか?
コーヒーの焙煎もしているうちみたいな業態だと、“カフェ”と打ち出してる店も多いと思うんですが、僕はコーヒー以外のものも頼めるアメリカンダイナーみたいな店にしたくて。朝7時から色んなものが食べられて、好きなものをつまみながら酒が飲めるお店。朝7時のオープンと同時に入って、ビールを飲むお客さんもいらっしゃるんですよ。
わ~、モーニングビールうらやましい……。
ぜひやってみてください(笑)。西田辺というエリア的にも、朝まで空いてるバーとかが結構多くて。朝までお客さんと飲んで、営業後にそのまま一緒にここへ来て、ビール飲みながらモーニングを食べて〆る方がいたりもします。“カフェ”って打ち出したらそうなってなかったかもなぁと。オープンしてすぐのタイミングは、朝と夜が混ざり合っているような雰囲気がありますね。
さらっと聞き流してしまいましたが、個人店で7時オープンなのも珍しいですね。
8時オープンにすると、主婦の方なら来れるかもだけど、会社勤めとなるとなかなか難しいのかなと。色んな人に来てもらえるようにと思って、朝7時から頑張ることにしました。阿倍野区界隈で探しても、朝7時からおいしいコーヒーが飲めるお店ってあんまりなくて。正直朝が得意っていうわけではないんですが、なんとか朝早くから営業しています。

小島 亮介
1992年生まれ。高校卒業後、飲食店などで働きながらお金を貯めて、20歳の時にワーキングホリデーでカナダのバンクーバーへ。1年半ほど現地のコーヒーショップで働いたのち、帰国してコーヒーの移動販売を始め、オーナーの誘いで『COZY Coffee Spot』を帝塚山でスタート。6年ほど勤務したのち、2023年に独立して『W&B Delicious Service』をオープン。大工としても活動する。

W&B Delicious Service
大阪市阿倍野区阪南町5-21-3
06-6625-7505
7:00〜17:00、金土〜23:00