『梅田羊肉串』の“働きたくない店主”尾儀洋平さんは、なぜ働きたくないのか。その本当の理由をインタビュー。


コロナで休業中に、いろいろ考えたんです。で、これだけ大きな社会変革があったんやから、これは再開するときにドラスティックに変えてもいけるぞと思ったんです。

では、中華料理屋とビル管理会社で培ったノウハウをもって、このお店を開業されたわけですね。

ノウハウっていうかまあ、サボりたい一心で。2019年の10月にここを始めました。

どんなふうにここのお店はスタートされたんですか?

僕が理想とする営業形態を実現するために、まず物件を探したんですね。アクセスがよくて、なんかわけわからんビルの上層階っていうので探しました。

なぜわざわざビルの上層階だったんですか?

これがもし路面店やったとしたら、いくら僕が「ここは働かない店主の店なんです」って言っても、「そんなん知らんがな」って感じでお客さん入って来てしまうじゃないですか。間違いなく混乱を招きますよね。

たしかに…。だから、あえて間口を狭くしようと。羊肉串のお店にされたのは、どんな理由があるんですか?

この場所ありきで、僕の手持ちのカードの中でなにができるかなと考えて。まあなんせ働きたくないので、手間のかかるがっつりした料理はやらないと。それで、辺境のほうの料理で、メジャーじゃないけど微妙に知ってるぐらいの料理がそれっぽいかなと思って羊肉串にしました。だから、別に羊に何のこだわりもないんです。

そうなんですね! 実際にお店を始めてみられて、どんな感じでした?

当然、誰も来ないです。僕この店を始めるとき、親きょうだいにも言ってないんですよ。嫁さんにだけ、どうしても保証人の関係があるから言わざるを得なかったんですけど、でもそれ以外の人には言わなかったんです。友達とか知り合いに言えば来てくれるし、売上的には助かるんですけど、最初からもともと知ってる人の感じが定着するのは違うなと思って。

壁一面の張り紙は、お客さんが貼ったもの。「みんな勝手に企画してますね。ここでやることもあるし、ヨソでやることもあるし」

せっかく新しいスタイルのお店を作るわけですもんね。

知ってる人やと「前の店のあれないの?」とか、なると思うんです。頑なにやらなかったとしても、その声が新規のお客さんに聞こえるじゃないですか。やから、最初は痩せがまんせなあかんなと。

でも、ビルの3階で誰も通りかからないし、集客はどうされたんですか?

それは今もそうなんですけど、SNSでしか発信してないんですよ。SNSを見た人しか来ないようにしてるんです。SNSを見てきた人は、当然ここが働かない店主の店だとわかってるわけです。どうも変な奴がやってる変な店っぽいぞというコンセンサスがとれてるんですね。

「なんで働かへんねん!」っていうお客さんは来ないわけですね。最初から集客はSNSだけと決めておられたんですか?

決めてましたね。でも始めた当初は本当に誰も来なくて。それが、たまたま知り合いのインフルエンサーみたいな人が、インスタでうちを見つけはったんですよ、「これお前やんな?」って。その人が来てくれて、それからちょっとずつ増えていったような感じですね。

お店のスタイルも、オープン当初から今と変わらないですか?

ドリンクは最初から時間制の飲み放題でしたけど、料理は最初は一応メニューもあったし、カウンターにおばんざいとか並べたりしてたんです。でもコロナになってシェアする形ができなくなって。そうこうしてるうちに休業せざるを得なくなって、その間にいろいろ考えたんです。で、これだけ大きな社会変革があったんやから、これは再開するときにドラスティックに変えてもいけるぞと思ったんです。

たしかに、これまでの常識とかが一変しましたもんね。

それで、もう一回自分の中で、やりたくないことをまだやってないかを見直したら、オーダー取るのだるいなと思って。みんな僕の都合に関係なく、自分の都合で注文するじゃないですか、当たり前ですけど。

まあ、そうですよね、好き勝手に注文しますね。

そこをなんとかなくされへんかなと思ったんですよ。で、あれこれ考えてるときに、地元の先輩にたまに連れて行かれるスナックがあるんですけど、そこ、腰の曲がったおばあちゃんがやってはるんです。女の子もいてなくて、その人ひとりの店やから、なんかもてなさなあかんと思ったんでしょうね、「これ食べ~」って、頼んでないけど飯が出てくるんですよ。で、「あ、これや」と思って。

勝手にごはんを出すシステムですか?

そうそう、よく考えたら、これ世間で許されてるなと思って。コース料理なんかも、言ってしまえば勝手に出てくるじゃないですか。これやと。勝手に出そうと思ったんです。

それで、コロナ明けから、メニューをやめて、勝手に料理を出すスタイルに。

オーダーを取る手間もない、ドリンクはノータッチ。ほんまにどんどんやることなくなりました。

羊肉串はめんどくさいから出してなかったんですけど、常連さんがある日、「尾儀さんにとってあの串を出すにあたって、どの部分が一番嫌ですか?」って聞いてきたんですよ。
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Profile

尾儀 洋平

中華料理店に勤務し、中華料理店を経営した後、ビル管理会社を経て2019年大阪・梅田に『梅田羊肉串』をオープン。「働きたくない店主の店」を標榜し、ドリンクはセルフ、料理は勝手に提供という独自のスタイルで営業。ひっそりフェードアウトさせていた羊肉串は「お客自身が串を打つ」ことで復活、そのことを告知したツイートが大バズりし話題を呼ぶ。現在唯一情熱を傾けているものはスマブラで、スマブラオフ会等も開催。

Shop Data

梅田羊肉串

料金システム:飲み放題1,000円/1時間、永久に出てくる料理1,000円/営業時間
営業時間:店主の興が乗ってきたら~労働意欲がなくなるまで (ツイートで告知)
定休日:日曜・祝日

入店にはTwitterかInstagramのフォローが必須。

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